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有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』6話。手を繋いで観覧車をもう一周…幸せな未来を願わずにはいられない

 NHK朝ドラ『ひよっこ』の脚本家・岡田惠和とヒロイン・有村架純がタッグを組んだ話題作『姉ちゃんの恋人』6話。真人(林遣都)と桃子(有村架純)の観覧車デート。地上から離れて語られた悲しい過去と、美しい理解。ようやく繋がれた真人と桃子の手がこの先離れることがないといいのだが。ドラマを愛するライター・大山くまおさんが振り返ります

互いの幸せを願い、実行しようとするヒロイン

「やだ、こんなの……絶対やだからね!」

 コロナ禍の今を生きる若者たちの恋と生活を描く、有村架純、林遣都主演のドラマ『姉ちゃんの恋人』。林演じる真人の過去が想像以上に重く、視聴者にダメージを与えたのが第4話で、有村演じる桃子にダメージを与えたのが第5話だった。もちろん、一番ダメージを負っているのは真人自身である。

 ひびわれてしまった地球儀のような今の世界で、傷を負った人たちは顔を伏せて苦しみに耐えながら生きていくしかないのだろうか? 人並みの幸せを掴むことがそんなに難しい世界になってしまったのだろうか? 「絶対やだからね!」と夜空に吠えた桃子の悔しさに共感した視聴者も少ないないだろう。

 彼女は自分に降りかかった理不尽な悲劇を、家族と手をとりあって乗り越えてきた。相手の事情を察して、自分から身を引くような慎ましいヒロインではない。自分も幸せになりたいし、相手も幸せにしたいと願い、実行しようとするヒロインだ。

 先週放送された第6話は、傷ついた世界とそこで暮らす人たちが、健やかに、前向きに、幸せに生きるためのヒントが詰まった、ワクチンのようなエピソードだった。

理想的なおじさんたちとおばさんたち

 桃子には自分のことをよく見ていてくれている弟たち(高橋海人、日向亘、南出凌嘉)がいるし、どんな話も打ち明けられる親友のみゆき(奈緒)がいる。真人には誰よりも心配してくれる母の貴子(和久井映見)がいる。だけど、第6話で印象に残ったのは、親身になってくれるおじさんたちとおばさんたちだった。

 悟志(藤木直人)は膝カックンで真人を和ませつつ(というかイラッとさせつつ)、「ダメだよ、仕事辞めるのは」「辛くても辞めるな!」と熱い言葉をかける。同じ職場にいる桃子とギクシャクすれば、自分から身を引いていなくなってしまいそうな真人の性格を読んだ上での言葉だ。だけど、そこで終わらないのが悟志のいいところ。

「お前いなくなったら、俺、めちゃくちゃ寂しいじゃん! 泣くよ、俺!」

 正直な気持ちは正しい理屈のアドバイスよりも相手の気持ちにまっすぐに届くことがある。それは桃子を待っていた川上(光石研)にも共通する。

 保護司として面倒を見ていた真人と実の子のように可愛がっていた桃子が交際すると知って、戸惑いを隠せない川上だが、とりつくろわない彼の言葉は、桃子にしっかり届いていた。この人は自分を心配してくれている。自分の幸せを願っている。それで十分。だったら、自分の決断を応援してほしいと桃子は言う。それに対して、ちゃんと「わかった」と言ってくれる。やっぱり川上は心強い存在だ。

 おばさんたちも頑張っている。桃子の落ち込みを察知して駆けつけた日南子(小池栄子)と沙織(紺野まひる)は、桃子の事情を根堀り葉掘り聞くことなく、端的なアドバイスを送る。

「2種類の仲間がいると幸せなんだって、人は」
「2種類?」
「うん。なんか辛いことがあったときに、ひとりはとにかく何でも打ち明けられる人。で、怒ったりもしてくれてね。で、もうひとりは何も聞かずにバカやって一緒に笑ってくれる人」

 桃子に「打ち明けられる人」がいるとわかった日南子と沙織は、率先して「バカ担当」を買って出る。ちょっといい人たちすぎ!

 親身になって心配してくれて、上から目線にならず、適切なアドバイスをほどよい距離感でしてくれる人生の先輩たちがいる。これはとても幸せな環境だ。逆に言えば、世の中のおじさんたちとおばさんたちは悟志や日南子のように振る舞えば、困っている若者たちの助けになるんじゃないだろうか。おじさんの一人としてヒントにしたい。

コロナ禍から先の未来に大切な仕事

 第6話では、これまであまり表面に出してこなかったコロナ禍を視聴者に強く意識させるセリフがあった。みゆきが和輝に語った、

「偶然かもしれないけどさ、この何、コロナ禍から先の未来に、面白いっていうか、大切な仕事だよね」

 というものだ。「大切な仕事」とは、桃子が弟たちに就職するよう勧めている「衣食住」にまつわる仕事のこと。コロナ禍を意識したところで、場面は再び真人と先輩の悟志の会話へと移る。悟志は自分の複雑な境遇を少しだけ打ち明けた後、こんなことを言う。

「あると思うんだ。人間にはさ、逃げてもいいときって。むしろ我慢しないで逃げろ! ってときもさ、あると思うんだ。でも、真人にとってそれは今じゃない。今は逃げちゃダメだ。絶対にダメだ。乗り越えるんだ。……わかるよな?」

 真人へのメッセージでありつつ、なんだか人類全体へのメッセージのように感じてしまうのが筆者だけだろうか? みゆきも桃子の前で「世界」に対して怒ってみせた。今、世界に怒りたい人はたくさんいると思う。さりげないのに、なんだか深読みしたくなってしまうのが岡田惠和の脚本である。

 第6話の後半では、壊れた椅子を修理するエピソードがクローズアップされていた。これまで人々の生活を支えていたものが壊れかけていたとしても、使い捨てにしたりせず、温かい視線を注いで、再び使えるようにしてやらないといけないんじゃないか。そんなメッセージも感じてしまう。

 余談だが、壊れた椅子の写真を撮るのが趣味の臼井さんを演じるスミマサノリは、かつて「デイリーポータルZ」というサイトでまさに壊れた椅子の写真を撮るような記事をたくさん書いていたライターである。

「一緒に泣こう。で、一緒に笑おう。ね」

 桃子は他人に話を聞いてもらうだけの女性じゃない。真人を観覧車に誘い、2人きりで話をする。まず、真人の「恋人にはなれない」という主張を「わかりました」と引き受けた上で、「本当のことを聞かせてください」と尋ねる。

 真人が語った事件のあらましは、刑事や誰かの言い分で構成されていた。真人は誰かを悪者にしたり、弱音を吐いたりしない。それは自分の殻に閉じこもっているということでもある。桃子はそのことをよくわかっていた。桃子が知りたかったのは、事件の渦中にいた真人の気持ち。心を開いて話してくれれば、それは単なる事実ではなく、真人にとっての真実になる。

「ここに乗っている間だけ、弱い気持ちも言える人になってください。今、世界には真人さんと私しかいないんです。他には誰もいない」

 まっすぐな目線で相手を励ます気持ちと自分の意思の強さを表現する有村架純と、怯えているけどだんだん正直さを取り戻していくことを目線で表現する林遣都。いい組み合わせだな、と思う。

 真人は正直に自分の気持ちとともに事件を語り直す。恋人を守りたいと思った気持ち、恐れ、混乱、不安、後悔、諦め、そして優しさ。涙ながらに聞いていた桃子は前言を撤回して「もっと好きになっちゃいました」と告げる。2人の泣き笑いの表情がいい。

「一緒に泣こう。で、一緒に笑おう。ね。……私の恋人になってください」

 世界がきしみはじめている今、これからは相手のいいところや強いところだけでなく、ダメなところも弱さも知った上で恋人になるといいのかもしれない。それぞれが手をとりあって補いながら生きていくことが大切なのだろう。真人が初めて自分の意思で手を握り返し、観覧車はもう一周。あとは最終回までずっと幸せな日々を描くドラマってのも新しいんじゃないかと思ったのだが……。

 第7話の予告編では、みんなが気がかりだったあの人が登場する。はたして、どんな展開が待っているのだろうか。

『姉ちゃんの恋人』これまでのレビューを読む

→コロナ禍の家族ドラマ『姉ちゃんの恋人』1話『ひよっこ』脚本家と有村架純の名タッグが嬉しい

→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』2話。しゃがみ込む桃子、触れようとした手を下ろす真人。過去に何が?

→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』3話。幸せな風景に気後れする人たちを癒やす

→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』4話「弱い人に優しい人でいてほしい」…今、当たり前が踏みにじられている

→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』5話。背負った十字架…でも誰かが話を聞いてくれる世界は美しいはず

『姉ちゃんの恋人』番組公式サイト

『姉ちゃんの恋人』は配信サービス「FODプレミアム」で視聴可能(有料)

文/大山くまお(おおやま・くまお)

ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。

●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である

●西島秀俊×内野聖陽『きのう何食べた?』は今こそ観るべきホームドラマ 視聴者を魅了するその理由

●『鎌倉殿の13人』の脚本家・三谷幸喜の初期傑作『王様のレストラン』は年末年始の観るご馳走

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