有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』2話。しゃがみ込む桃子、触れようとした手を下ろす真人。過去に何が?
NHK朝ドラの名作『ひよっこ』の脚本家・岡田惠和とヒロイン・有村架純がタッグを組んだ話題作『姉ちゃんの恋人』2話を振り返ります。日々の仕事、会話、食事……何気ない日常のていねいな描写は、コロナ禍の中の「新しい日常」としても迫ってくる。ドラマを愛するライター・大山くまおさんが解説します。
ガラスのジェネレーション
有村架純&林遣都主演のドラマ『姉ちゃんの恋人』。コロナ禍の現代を舞台に、それぞれ家族にまつわる過去を背負った若い男女がめぐりあい、恋をするというお話。朝ドラ『ひよっこ』などを手がけた岡田惠和が脚本を務めている。
主人公はホームセンターで働く安達桃子(有村)。交通事故で両親を亡くした彼女は、大学生、高校生、中学生の弟3人(高橋海人、日向亘、南出凌嘉)を自分の手で養っている。とはいえ悲壮感はなく、明るく、楽しく、たくましく暮らしている。
桃子と同じ職場で働く配送係の吉岡真人(林)は真面目で大人しい青年。弁当屋で働く母親の貴子(和久井映見)と二人暮らしで、とても母思いだが、どうやら父親に関する辛い過去を抱えているらしい。家には保護司の菊雄(光石研)が出入りしている。
桃子と真人が出会ったのは、ホームセンターのクリスマスプロジェクト。まずは桃子が真人に好意を持ったようだ。少し浮かれつつ、佐野元春の「ガラスのジェネレーション」を口ずさみながら料理をする桃子。歌詞のとおり、いずれお互い「本当のことを知りたい」と思うようになるのだろう。失敗してしまった料理の味付けのように、「本当のこと」は塩辛いものなのかもしれない。
家族的な職場は好き? 嫌い?
桃子のホームセンターの職場は、家庭的な雰囲気が強く、昭和っぽさを色濃く残している。上司の日南子(小池栄子)は姉のような存在で、部下たちのプライベートにも介入する一方、部下たちに「甘えて、頼って」とアピール。
ちょっと距離が近すぎてウザいと感じる人もいるかもしれないが、桃子が仕事でトラブルを起こしたときは、日南子も同僚の沙織(紺野まひる)と福代(阿南敦子)も桃子を何一つ責めず、むしろ励ましながらテキパキとカバーしてくれる。桃子が後輩の省吾(那須雄登)のカバーをしたことも一回や二回じゃなさそうだ。
経済的に厳しく、さまざまな要素が重なって不安が続く世の中では、ビジネスライクな人間関係よりも、むしろこれぐらい人情があって家族的な職場のほうが安心して働けるのかも。とはいえ、家族的で馴れ馴れしい職場がすべて良いというわけではなく、桃子の職場も絶妙なバランスの上で成り立っていることを忘れてはいけない(これが男の上司だったら見え方も変わったはず)。
男性同士の職場なら、真人と先輩の悟志(藤木直人)の関係が良いのかもしれない。陽気な悟志は、後輩の真人にツッコまれても笑って済まし、それでいて真人のことをサポートしてくれる。友達のような先輩と後輩(あるいは上司と部下)の関係が今は働きやすいのかもしれない。
辛い過去を共有する2人
手配ミスのため、商品を客のもとに届ける桃子を車で送っていく真人。帰りの車中、真人は桃子の異変に気づく。両親が交通事故で死んだところを目撃してしまった桃子は、車にトラウマがあった。
車から下りて、しゃがみ込む桃子を気遣う真人。触れようとした手を下ろしたのは、いつも自分の手を気にしている真人の過去と関係があるようだ。
桃子は気丈に立ち上がると、理想のデートについて話し始める。恋人が家に車で迎えに来て、車の中には好きなほうを選べるアイスカフェラテとアイスコーヒー。行く先は湘南や鎌倉。渋滞しても、2人でしりとり歌合戦をするから平気。そして車は赤くて小さい車がいい――。これが桃子のささやかな「夢」だった。
桃子を家まで送り届けた真人。桃子の辛い過去を共有した2人の距離は少し近づいたようだだが……別れた後の真人の顔は、明らかに様子がおかしかった。遠くの不穏なサイレンの音が被さる。林遣都の表現力は素晴らしい。
食事を一緒に囲むのが家族
桃子の家では、桃子の帰りが遅いときは食事に手をつけずに待つというルールがあった。それ、どこの昭和? この日は親友のみゆき(奈緒)、真人の保護司でもある桃子の叔父・菊雄を招いてトマト鍋パーティーをする予定だったが、やっぱり弟たちはひたすら桃子の帰りを待っていた。
「待っててくれたんでしょ? トマト鍋」
「え、だって、先始めててって言ったじゃん」
「そう言われても待つだろ? 普通」
「え~っ」
弟たちと軽口を叩きながら帰宅した桃子がリビングに入ると、そこには本当に手つかずのトマト鍋が。桃子は弟たちに「先に食べていい」と伝えていたが、弟たちは待ち続けた。これが命令なら不穏だが、けっしてそうじゃない。姉は弟たちを想い、弟たちは姉を想う。けっして一方通行じゃないから、見ていても心が和む。
一緒に食事のテーブルを囲むことは、家族にとって大切なことだ。血縁がなくたって、仲良く食事を囲んでいれば家族同様になるし、逆に血がつながっていても一緒に食事することもなければ、やがて冷え冷えとした関係になる。むろん、強制的に一緒に食事をしても何も生まれない。相手を想う気持ちがあり、楽しい気分で食事を囲むことが大切になる。
「新しい日常」を描くドラマ
桃子と真人が距離を縮めていた頃、バーでは日南子と悟志が出会っていた。中年男と中年女の恋愛模様は、どうやらコミカルに描かれる様子。こちらも楽しみにしたい。
いよいよクリスマスプロジェクトの実行日。桃子は店内放送で同僚たちに呼びかける。
「2020年のクリスマス、最っ高に素敵なクリスマスにしましょう。私たちの手で、世界をちょっとだけ動かしましょう。よろしくお願いします」
いつもの年に「最高に素敵なクリスマス」と言われてもピンと来ないが、今は切実な響きがある。今年は何のイベントもできなかった。ハロウィンですら盛り上がらなかった。そんな中、ホームセンターを訪れるお客さんに喜んでもらいたい、寂しい気持ちの人にも温かい気持ちになってもらいたい。それが桃子たちの想いだ。
徹夜の模様替え作業が終わり、夜が開けると、早朝の喫茶店で桃子と真人が寄り添って眠っている。一気に距離が縮まりすぎ! とも思うが、若者とはそういうもの。理想のドライブデートを2人で空想していた時点で、心は通じ合っていたのかも。あれは本当に楽しそうだった。
非常にゆったりとしたペースで進むドラマで、とりたてて大きなトラブルや出来事は発生しない。だけど、この世界の上での、仕事、家族、友人、そして恋人との出来事はすべて「新しい日常」となる。それはこれまでの日常と似ているものもあれば、まったく違うものもあるはず。どんな「新しい日常」が描かれるのか楽しみにしたい。
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→コロナ禍の家族ドラマ『姉ちゃんの恋人』1話『ひよっこ』脚本家と有村架純の名タッグが嬉しい
『姉ちゃんの恋人』は配信サービス「FODプレミアム」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である