有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』5話。背負った十字架…でも誰かが話を聞いてくれる世界は美しいはず
NHK朝ドラ『ひよっこ』の脚本家・岡田惠和とヒロイン・有村架純がタッグを組んだ話題作『姉ちゃんの恋人』5話。真人(林遣都)が悲しい過去を告白した時、桃子(有村架純)が取った行動……。傷ついた人同士が癒やし合う世界は美しい。ドラマを愛するライター・大山くまおさんが、感動を振り返ります。
絶対に忘れない一日
「忘れないだろうな、今日のこと。絶対忘れないな」
有村架純、林遣都主演、岡田惠和脚本のドラマ『姉ちゃんの恋人』。家族、仕事、友達、悩み、そして恋……コロナ禍の中で人々が笑ったり、泣いたり、誰かを心配したり、誰かを想ってときめいたりする“新たな日常”を描く。
先週放送された第5話は、誰かを想いながら誰かと誰かが交わす会話が折り重なって構成されていた。なんだか、そうやって世界はできているんだなぁ、とあらためて思わされた素敵な回だった。
冒頭のセリフは、桃子(有村架純)、真人(林遣都)、日南子(小池栄子)、悟志(藤木直人)がバーベキューをした後につぶやいた真人の言葉。仲間たちと一緒に楽しく過ごした一日が、彼にとってかけがえのない幸せな一日だったということがわかる。それは、同時に彼がこれまで辛い日々を過ごしてきたということも示している。
この日は桃子から愛の告白もされていた。だけど、真人はそれを現在進行系の出来事ではなく、大切な思い出にしようとしている。彼の諦念の深さがよくわかるセリフだった。
弟たちが姉の好きな人を見分けられた理由
「俺たち、どんな人かぜんぜん知らなかったのに、なんとなくわかったよ。姉ちゃんが好きな人。不思議だね。でも、わかったんだ。家族だからかな。そして、姉ちゃんが好きな人、俺たちも好きになっちまった。まいったよ」
これは桃子の弟、和輝(高橋海人)のモノローグ。優輝(日向亘)、朝輝(南出凌嘉)と一緒に真人が働いているところを覗き見しているうちに、好きになってしまったのだという。彼ら(特に和輝)が恋の障害になるのかと思ったら、なんて素直……!
なぜ和輝たちが名札を確認する前に真人のことがわかったのか。それは真人が人一倍働き者だったからだろう。弟たちは働き者の姉を見て育ってきた。だから、姉が好きな人は働き者に決まってる! その証拠に3人が帰るときは、真人の働きぶりの話題でもちきりだった(フォークリフトのハンドルさばきがスタイリッシュとまで言われていた)。和輝の「家族だからかな」という言葉は、血のつながりがあるから直感でわかるという意味ではなく、お互いに相手のことをよく見て、お互いの価値観を知っているから理解できる、という意味なのだろう。
桃子は親友のみゆき(奈緒)をいつもの場所に呼び出して、告白の顛末を語る。嬉しいとき、悲しいとき、何か話したいときに、「頼むよぉぉ 聞いてくれぇぇぇぇ」と言えば、「へい!喜んで!」と応えてくれる人がいるのは本当に心強い。大切にすべきは話を聞いてくれる友人だ。
みゆきと話しているときの桃子は、酔ってキスを求めたりすることもあるけど、だいたい少しテンションが低め。声も低くて小さいし、髪も下ろしていて顔が少し隠れている(弟たちの前や職場ではアップにしていることが多い)。きっと、こっちが元々の桃子なんだろうと思う。弟たちや同僚の前ではテンションを上げて「肝っ玉姉ちゃん」を演じているような気がする。
幸せの形はひとつじゃない
5話では大人たちの会話もクローズアップされていた。まずは、桃子のおじであり、真人の保護司を務めていた川上(光石研)と、真人の母親・貴子(和久井映見)。川上は桃子と真人が親しそうにしている姿を目撃していた。川上は言葉を選びながら、自分の胸に去来する戸惑いを貴子に吐露する。
これまで保護司として事件を起こした少年少女たちを世話し、彼らを信じてきた。結婚するときはもちろん祝福していた。だけど、自分の姪のことになると、心がこんなにも乱れてしまう。
「私、私……どうしていいかわからなくなってね。ごめんなさい……。俺、真人くんのこと大好きなのにさ! 信じてるのにさ!」
両親を亡くして苦労を重ねてきた桃子に「これ以上、何か背負わせるのが可哀想でさ……」とうなだれてしまう川上。言葉にはしていないが、保護司として見てきた相手の中には、また事件を起こす者もいただろうし、結婚が破綻した者もいただろう。川上の心情を理解して気丈に振る舞う貴子だったが、帰り道でひとり泣き崩れる。愛する息子が背負った十字架はこんなにも重いものだったのか、と。
もうひとつの会話は、日南子と同僚の沙織(紺野まひる)。恋愛下手な日南子と違って、沙織は結婚して子どももいて幸せな家庭を築いている。だけど、そんな風にグループで分けられたくないと熱弁する。
「私が幸せなのは、結婚して子どもがいるからじゃない。そうなんだけど、違う」
「ん? ちゃんとわかりたい。どういう意味?」
「つまり、私が幸せなのは夫がいるからじゃない。好きになった人に好きになってもらって、一緒に暮らしているから幸せなの。私が幸せなのは、子どもがいるからじゃない。うちの子が世界一素敵で、大好きだから幸せなの。何かに尽くしているから幸せなわけじゃない」
いいこと言うなぁ、沙織さん。肩書きや形で幸不幸が決まるわけじゃない。沙織は「幸せの形はひとつじゃない」と熱く語る。捨てられた椅子の写真を撮るのも、本人が満足しているなら、それも幸せのひとつの形。突き詰めれば、何かを「大好き」ならば、人はそれだけで幸せなのかもしれない。
男たちは自分たちのことを隠したがる
桃子とみゆき、川上と貴子、日南子と沙織と続いてきた会話だが、最後は桃子と真人の番。桃子は真人の過去について調べて、少しだけ知ってしまっていた(好きな相手のオタクになるという沙織の言葉どおり)。
真人は桃子に真正面から向き合い、自分の過去を告白する。途中までは事実だったが、事件については当時の恋人・香里(小林涼子)の証言どおりのストーリーになっていた。逮捕されて服役していたこと、両親が仕事を辞めざるを得なかったこと、父親が自殺してしまったことも包み隠さず話し、最後に別れを告げる。
「本当にあの……そんな人間なんです。君みたいな人と絶対にかかわっちゃいけないような、そんな……だから……」
言葉の途中で、それまでじっと話を聞いていた桃子が真人を抱きしめる。「好き」の発露というより、傷ついた人を癒すような抱擁。それだけではなく、周囲にはけっして見せない自分の弱さがあふれ出ているようにも見える。誰かが誰かの話を聞いて、理解しようとすること、励ますこと、傷ついた人同士が癒やし合うことで、世界はなんとか保たれているのかもしれない。
ちょっと気になったのは、女たちが自分たちの気持ちを包み隠さず話してシスターフッドを築いているのに対して、男たちは自分たちのことを隠したがる傾向があること。真人は事件の真相を語っていないし、川上は自分が目にした不幸な例を語っていない。悟志は自分の過去について語らないし、藤吉(やついいちろう)も貴子への想いを隠している。でも、男ってこんなものなのかもしれない。思ったことをズバズバ言う和輝は例外的な存在だろう。こんな男女の差が今後のストーリーにどう影響するのかも興味深い。
『姉ちゃんの恋人』これまでのレビューを読む
→コロナ禍の家族ドラマ『姉ちゃんの恋人』1話『ひよっこ』脚本家と有村架純の名タッグが嬉しい
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』2話。しゃがみ込む桃子、触れようとした手を下ろす真人。過去に何が?
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』3話。幸せな風景に気後れする人たちを癒やす
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』4話「弱い人に優しい人でいてほしい」…今、当たり前が踏みにじられている
『姉ちゃんの恋人』は配信サービス「FODプレミアム」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である