看護師の本音|困った家族は?上手な付き合いかたは?|700人以上看取った看護師がアドバイス
親の病気で困っているとき、看護師を頼りにすることがある。入院するようになったらなおさらだ。ときに、看護師とのコミュニケーションに戸惑ってしまうこともあるかもしれない。看護師として700人以上を看取り、自らも親を介護した宮子あずささんに、看護師との関わりかた、看護師の本音を聞いた。
【目次】
看護師はどんな仕事をするのか
看護師の仕事は・療養上の世話と・診療の補助ということになっています。
医師は病気を中心に考えます。例えば、1日に3回薬飲むようにとか、この状態なら塩は1日7gまで、というわけです。
それに対して看護師は、この患者さんは高齢で薬を服用するのが難しいから、1日1回飲めばいい薬にしたほうがいいのじゃないか、と考えます。毎日カップ麺を食べてそれだけで塩が7gになってしまう患者さんに、どうしたらいいかを考えて関わっていくのがナースです。
●外来で心配があったら看護師に相談するのもいい
近年、混雑していて高齢の患者が多い病院では、医師の診察を受ける前に、あらかじめ看護師が大体の症状などを聞いてスムーズに進むようにしているところもあります。
高齢者と病院に行く場合に、何か心配だったり事前に相談したいことがあったら、看護師に言ってみるのもいいと思います。受付で看護師か事務員か見分けがつかない場合もあるので、「今、ここで聞いてもいいですか」と言ってみます。
しかし、最近は受付に来た患者さんが感染症にかかっていないかどうか確認しなくてはならないので、受付周辺も忙しく、そうした対応ができない場合もあるかもしれません。
入院中、看護師とのコミュニケーションのとりかた
●どの看護師に頼めばいいかわからない場合
多くの病院がそれぞれの入院患者さんを担当する看護師を決めています。担当看護師の名前を、部屋に貼っている病院もあります。
だからといって、その看護婦に頼まなければいけない、ということではありません。基本的にどの病院も、患者さんのことは、チームで診ています。チームで情報を共有しているので、来た看護師に頼めばいいのです。
もしそれがうまくいかなかったら次に来た看護師に言ってみてもいいし、困ったから「ちょっと看護師長さんにお話したい」というのもよくあることです。
●ナースコールを頻繁に押してもいいのだろうか
ナースコールを押しても、全然来てくれない、と不満を抱えている患者さんも多いようです。気を遣う患者さんほどそう思っていたりします。
ナースコールを押すのが申し訳ないと思っているかたは、用事があってもすぐに押さないで、我慢してしまう。そして、「もう我慢できない!」となって、ようやくナースコールを押すのです。ところが、看護師はすぐに飛んできてくれなかったりするのですね。
我慢しないで押してみていいのです。ただし、看護婦がすぐに来られないこともあるのを理解していただければと思います。
付け加えておきますと、ナースコールにすぐ応えられる時間帯というものがあります。看護師の仕事量が最も多いのは日中です。人の出入りも多いし、医師からの指示もたくさんあります。新しく入ってくる入院の患者さんもいますし、手術もあります。したがって、ナースコールに即対応することが難しいこともあるのです。
夜のナースコールを遠慮する人もいますが、逆に夜間は、看護師が日中ほど忙しくなくてすぐに駆けつけて来られることも多いのです。ただし、夜間にはスタッフが少ない分、何か問題が起きてしまっているときは、てんてこ舞いで、ナースコールで呼べども呼べども来ない、ということもあり得ます。
看護師にどんなことまでは頼んでいいか
入院先で、患者さんや家族が、あれこれ頼みたいことが出てくるのは当然です。看護師も、直接治療とは関係ない用事でも、役にたちたいと思っています。さすってあげるとか、話を聞くとかいうことも、できればしてあげたいという気持ちは持っています。
しかし一人の特定の患者さんから、際限なく「あれもしてほしい」、「次はこれもしてほしい」と言われると困ってしまいます。他の患者さんの看護もしなくてはならないからです。
今回の宮子あずさのひとこと
看護師の立場から本音をお話させていただきます。
●看護師の本音「菓子折りもお詫びもいらないのです」
看護師の仕事が大変なのは確かですが、だからといって遠慮されるのは困ってしまうところがあります。患者さんやご家族から、こうしてほしいというリクエストはストレートに言ってもらったほうがいいのです。言ってもらって、できないことはできないけど、できることはするという関係がどちらにとってもいいと思います。
看護師の立場からさらに本音を言うと、仕事が大変でも、菓子折りもいらないし、お詫びもいらないのです。
感謝してくださいという意味ではないのですが、謝られるより、お世話してもらって助かっていますと言ってもらうほうが、看護師たちも救われます。
●看護師が言われて困惑する言葉とは?
それから、家族が
「すごく迷惑かけてしまって本当にすみません」
と、本人の前で言うのも患者さんがかわいそうです。看護師にとって、ありがとうと言ってもらえるのが一番というのは確かなのです。
あまり詫びられると、現状を伝えにくくなってしまうというデメリットもあります。
夜中に5回トイレに連れて行っていると家族に言うのは、患者さんが深く眠れていなくてちょっとふらつくのをお手伝いしている状況であることを伝えたいからです。そこであまり「迷惑かけてすみません!」と謝られてしまうと困ります。家族がそういうスタンスであるために、患者さんがナースコールを押さないで自分でトイレに行ったら転倒の危険があってもっと困ります。
看護師は、自分たちはプロだし、夜中に何度もトイレに連れて行くことを迷惑をかけられていると思ってはいないんだけどな、というプライドを持っています。ですから決して申し訳ないとは思わないでください。間違っても、付け届けをしなければと、過分なお気遣いはなさいませんように。
看護師は、家族が患者さんに対して親身になっていると気持ちが楽になります。
家族から、いやなことだから世話を押し付けるという雰囲気が見えると、悲しいと言えば悲しいのですね。看護師としてお世話をしていて、「臭いから早くおむつ替えてください」と家族に言われると、いやな気持ちになります。
なによりも目の前でそう言われてしまう本人がかわいそうだし、私たちも「臭いからやって」と言われるのはいやな気持ちです。おむつを替えるのは仕事だし、やりたくないというわけではないのだけれど、自分たち家族が臭いから替えてくださいという言い方をされると情けなくなります。「出てるみたいだから替えてあげてください」というふうに言うご家族だとほっとします。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子