腰痛、肩こり、不眠に効く「究極の呼吸術」で健康寿命を10年延ばす
無意識でやっている「吸ったり、吐いたり」を侮るなかれ。言われてみれば、1日3回しかしない「食事」よりも、1日に約2万回もする「呼吸」の方が、たしかに人間の体や心の調子に大きな影響を与えそうだ。呼吸研究の権威が教える「究極の呼吸術」を公開する。
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子供が部屋を散らかしたり、ママ友との人間関係など些細なことでイライラしてしまうと嘆くのは、千葉県在住の主婦、藤田純子さん(44才、仮名)。
「疲れやすく眠りが浅いことも悩み。運動をしたり、オーガニック野菜を取り入れたりしましたが、効果がなく…」
都内に住む会社員の菅井敬子さん(38才、仮名)は、一日中、パソコンに向かう。
「肩こりがひどくて頭痛がするし、座りっぱなしなので腰も痛い。仕事が忙しくてヨガ教室も休みがちになり、ますますひどくなりました」
異なる悩みを抱える2人だが、日常生活に同じ“一工夫”を加えるだけで、ラクになったという。注目したのは、人間が1日に約2万回もするという「呼吸」。薬も運動も健康食品もなし。「正しい呼吸」を意識し、実践しただけだ。
今年7月に発売された『すべての不調は呼吸が原因』(幻冬舎)の著者で、「呼吸神経生理学」の第一人者である本間生夫さん(東京有明医療大学学長)が説明する。
「食事で健康を目指す人は多いですが、人間は数日間、何も食べなくても死にはしません。しかし、呼吸は数分間、途絶えるだけで死に至る。それだけ重要なんです。ただ、無意識に行われるだけに、気にする人はほとんどいません。
近頃は若い人でも、浅くて速い、空気が肺に充分に入っていない“悪い呼吸”をしているのをよく目にします」(以下、「」内同)
肺に空気が充分に入らなくなると、脳や臓器、細胞などすべての体の働きが悪くなる。
「そうなると、疲れやすくなったり、胃腸が弱り、肩や腰も痛みだし、不眠に見舞われます。また、呼吸は『自律神経』ともリンクしているため、イライラしやすく頻繁に落ち込むなど、心の不調にもつながります。呼吸機能の低下は早ければ30代から始まるので、早めの対策が必要です」
すでに呼吸が浅い年配の人は手遅れなのだろうか。
「呼吸機能は、70才でも80才でも、いくつになってもトレーニングによって“強化”できます。きちんと鍛えれば、体のあらゆる不調が改善する可能性があります」
「過剰な深呼吸」はやってはいけない
「そもそも“呼吸機能の老化”とは、普段の呼吸の中で息を吐いた時、肺に残る古い空気(機能的残気量)が加齢とともに多く残るようになっていくことです。浅い呼吸になると、肺の中で空気を出し入れできる容量が少なくなり、残気量が増えてしまいます。
それを防ぐには、胸郭(胸部の周囲を囲むかご状の骨格)全体を取り囲む『呼吸筋』の働きをよくすることが重要です。肺自体は動く機能を持たず、その周りにある呼吸筋が絶えず収縮運動を行うことで、肺を動かすからです。
まずは私がおすすめする6つの『呼吸筋ストレッチ』(下図参照)を試してみてください。ウオーキングなどの有酸素運動を行えば、さらに効率的に鍛えられます」
呼吸筋ストレッチ「6つのステップ」
【呼吸チェックリスト】
1つでも当てはまった場合、放っておくと危険!
□階段を少し上っただけで息切れする
□日々ストレスや不安、緊張を感じている
□頭がすっきりしない
□体が重く疲れやすい
□胃腸の調子が悪い
□肩や腰が痛い
□夜眠れない
□些細なことですぐにイライラする
基本の姿勢
体の力を抜きリラックス。足は肩幅に開き、胸を張り背筋を伸ばしてまっすぐ立つ。ストレッチ中は鼻で息を吸い、吸う時の2倍の時間をかけて口で吐く。すべての手順は3~5回ずつ、無理をしない範囲で行う。
手順1 肩の上げ下げ
【肩をほぐす、呼吸筋ストレッチの準備運動】
1.胸を内側に引き込み腕を前に垂らし、ゆっくり息を吸いながら肩を上げる。
2.息をゆっくり吐きながら肩を後ろに回して下ろす。肩に力が入りすぎないように注意。
手順2 首のストレッチ
【首の筋肉を柔らかくすると、息が吸いやすくなる】
1.目線をまっすぐ定め、息をゆっくり吸いながら、肩が上がらないよう頭を横に傾ける。
2.息をゆっくり吐きながら、首を元に戻す。これを左右行う。
手順3 胸のストレッチ
【胸郭を広げることで、息を出し入れしやすくなる】
1.両手を胸の上部にあて、ゆっくり息を吐く。
2.ゆっくり息を吸いながら、上がろうとする胸を手で押し下げる。息をゆっくり吐きながら、力を抜いて1に戻す。
手順4 背中・胸のストレッチ
【息を吸う時に使う呼吸筋「吸息筋」が鍛えられる】
1.胸の前で両手を組み、ゆっくり息を吸いながら、背中を丸めて腕を前に伸ばす。重心をかかとに置き、ひざを軽く曲げるのがコツ。
2.ゆっくり息を吐きながら元の姿勢に戻す。
手順5 腹部・体側のストレッチ
【息を吐く時に使う呼吸筋「呼息筋」が鍛えられる】
1.片方の手を頭の後ろにあて、息をゆっくり吸う。この時、上げた腕が前に倒れないよう気をつける。
2.息をゆっくり吐きながら、ひじを上に持ち上げる。腕を上げた側の側面が伸びているのを意識する。これを左右行う。
+プラスして行うとよい有酸素運動
●階段の上り下り
●お風呂で歌う
●ウオーキング
●果物の種飛ばし
普段の姿勢も気をつけたい。
「猫背や巻き肩では、いくら呼吸筋を鍛えても呼吸はよくなりません。きちんと胸郭を広げるため、意識的に背筋を伸ばして胸を張り、肩が後ろにいくよう心掛けましょう」
過剰な深呼吸はかえってよくないという。
「人の体は弱アルカリ性で、それを保っているのが呼吸です。脳が常に体内の酸性・アルカリ性のバランスを監視しており、体内が酸性に傾いた時、二酸化炭素を無意識に多く吐き出して調整しています。無意識下で調整しているのに過剰に酸素を取り込むと、保たれていたバランスが崩れます。深呼吸は、自分が気持ちいい範囲で適度に行う程度で充分です」
日本人の「平均寿命」と、介護を必要とせず自立して暮らせる「健康寿命」は、10年ほどの差がある。
「ストレッチを行って呼吸筋を鍛えた人の機能的残気量の推移から、しっかり呼吸筋を鍛えれば、健康寿命を10年引き延ばすことは可能です」
今からやってみて損はない。
※女性セブン2018年10月4日号
撮影/小野サトシ
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