85才、一人暮らし。ああ、快適なり【第15回 不倫スキャンダル】
齢、85。数年前からは、自ら望み、妻、子供との同居をやめ、一人で暮らしているという、伝説の編集者にして、ジャーナリストの矢崎泰久さん。
1965年に創刊し、才能溢れる文化人、著名人などがを次々と起用して旋風を巻き起こした雑誌『話の特集』の編集長を30年にわたり務めた経歴の持ち主で、テレビやラジオでもプロデューサーとして手腕を発揮、世に問題を提起し続けている。
その矢崎氏が、歳を重ねた今、あえて一人暮らしを始めたその意味やライフスタイル、人生観などを連載で自身に寄稿してもらう。
今回のテーマは「不倫」だ。週刊誌などに不倫報道が溢れる昨今、そこには、実は日本が抱える問題が潜んでいる…と語る矢崎氏。さて、その真意とは?
悠々自適独居生活の極意ここにあり。
* * *
老人の朝は早い。何時に寝たのかは定かではないが、とにかく午前8時前には目が覚める。朝寝坊からは、とうに卒業している。
カーテンが閉まっているから、室内は暗黒。ベッドサイドのテレビのスイッチを入れる。NHKが時刻を教えてくれる。
朝ドラまで後5分。それが終わると、生番組『あさイチ』が始まる。
この日のゲストは瀬戸内寂聴さんだった。
第一声が凄い。
「私なんか、不倫はずいぶんしましたけど、どってことのないの、あんなこと。ひとつしても、2つしても似たようなもの」
いきなりの過激発言は続く。
「世の中から不倫が消えたら、世界の名作といわれる文学はなくなる。『源氏物語』もそうよね」
「週刊誌はちょっと書きすぎね。書く人だってやってる。不倫はカミナリが落ちてきたようなもの。しかたがないの」
司会の有働由美子(うどうゆみこ)アナもイノッチこと井ノ原快彦(いのはらよしひこ)クンも、呆然としてる。良風美俗のNHKとしては、うろたえるのも無理はない。
朝っぱらから不倫礼讃の幕開けとなった。私は快哉を叫んだ。95歳にして嚇灼(かくしゃく)たる存在は、誰にだって止められまい。
「自分の生きてきたことに何の後悔もない。だけど、子供を置いてきたことだけは、本当に後悔している」
と語っているが、寂聴さんは、不倫なしには良い仕事は出来なかっただろう。
もう、お見事としか言いようもない。寂聴さんの倫理観は、常識の域をはるかに越えている。まさしく、この世の偽善が木っ端みじんに砕かれている。
これは一種の問題提起でもあったけど、NHK的には、ストップをかけるしかなかったに違いない。
しかし、寂聴さんは止まらない。
鬼の首を取ったように不倫スキャンダルを報じる週刊誌は、自らがいかに下品かを証明しているようなものかもしれない。