85才、一人暮らし。ああ、快適なり【第15回 不倫スキャンダル】
政治家や著名人、芸能人を貶(おとし)めるなら、もっと別な方法がいっぱいあるだろう。スキャンダル如きに現(うつつ)を抜かしているから、森友・加計問題も解決しない。日本でなかったら、とっくに安倍さんの首は飛んでいる。
一夫一婦制にあっては、確かに不倫は禁じられている。だが、制度に縛られて一生を送ることで、あらゆる自由を奪われるのは不本意でもある。「人生はたった一度の招待」という言葉もある。いろいろな生き方があって当然ではないかと私は思う。
「老いてますます盛ん」という言葉があるが、何がどう盛んなのかとなると、良風美俗は突然口を閉じてしまう。
瀬戸内寂聴さんは特別な方だという見方もあるだろう。それでも、言うべきことははっきり言う。やはり類い稀なる文学者(アーティスト)だ。
「老齢化社会」という言葉は、老人を邪魔者扱いする気配が漂う
世の中が求めるジジ・ババ像は、静かな余生を孫たちに囲まれてニコニコ生きると決めているような風潮がある。
平穏不事が何よりと言うのなら、老人たちが楽しく平和に生きると社会を作ってから言ったらいいのだ。老齢化社会という言葉のどこかに、老人を邪魔者扱いしている気配が漂っている。これは僻(ひが)みや嫉(ねた)みから言っているのではない。
柵(しがらみ)のない環境を老人の為に作る社会がないことに抗議しているのである。
老人の知恵や経験を生かす社会を作ることに国はもっと配慮するべきだと思う。
寂聴さんの「不倫のすすめ」は、一種の警告と受け取るべきだろう。一般視聴者から料金を取っているのなら、国や公共より以前に知る権利や報道の自由を眞っ先に考えてこそ天下のNHKなのだ。その点では聴取者のニーズにまったく答えていない。
もちろん、どの職場にも、若くて有能な人材は沢山いる。その人たちを生かすことによって、いかなる企業も社会に奉仕できると、期待するしかない。
われら昭和の生き残り、黙って死ぬわけにはいかない。その先頭に「不倫」の瀬戸内寂聴さんが居る。実に心強い。
矢崎泰久(やざきやすひさ)
1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』など。
撮影:小山茜(こやまあかね)
写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。