「介護離職」実際のところ企業はどういう目で見ているのか
認知症の母を、東京ー岩手の遠距離で介護を続けている工藤広伸さん。父、祖母の介護経験もあり、介護中に感じたこと、得たこと、学んだことを、ブログや本で発信している。
当サイトで執筆中のシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、リアルタイムで介護続ける工藤さんならではの視点が、すぐ役に立つと話題だ。
以前は、会社員として企業に勤めていたという工藤さんは、介護離職の経験が二度あるという。今回のテーマは「介護離職を企業はどう見るか」だ。一度目の介護離職の後、再就職の活動中の体験から得た気づきを教えてもらう。
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わたしは介護離職を2回経験しています。最初は34歳のとき、2回目は40歳のときです。最初の介護離職から約1年半のブランクを経て、正社員として社会復帰しました。
会社側は介護離職したことをどう見ているのか、わたしの就職活動中の体験からお話ししたいと思います。
最初の介護離職は大失敗だった!
わたしの最初の介護離職は、岩手に住む父の脳梗塞が原因でした。
当時、東京で働いていたわたしは慌てて帰省し、父と対面しました。父は脳梗塞の影響でろれつが回らない、手が震えて文字が書けない、自分の鼻を触ろうとするとすり抜けるなどの症状があって、わたしは激しい絶望感に襲われました。
「あぁ~、人生終わった。まだ30代なのに、仕事もできなくなるのか・・・」
父は家を出て、ひとり暮らしをしていたので、わたしが仕事を辞めて岩手に帰り、父の介護を一生するのだと思いました。
わたしは父の状況を職場には伝えず、友人・知人にも相談することはありませんでした。社会のレールから完全に外れることを、恥ずかしいと思っていたのだと思います。
さらに会社の介護休業制度も調べず、介護の知識もなかったわたしは、勢いだけで会社を退職してしまったのです。
しかし、父はすぐ病院に行ったおかげで、脳梗塞はみるみる回復し、半年くらい経つと、なんとか自分ひとりで生活できるまでになりました。
父がたまたま回復したからよかったものの、介護のことを調べずに、ただ勢いだけで会社を辞めてしまったわたしの最初の介護離職は大失敗だったと思います。
再就職する際、面接で聞かれること
父の病状が回復してきたので、わたしは再度社会復帰をすべく、本腰を入れて就職活動を開始しました。35歳という年齢の壁や1年半という長期のブランクもあって、就職活動は難航しました。
書類選考は不合格、転職エージェントに登録をしても、なかなかいい案件を紹介してもらえませんでした。しかし、不合格の理由やエージェントの話から、企業人事が介護についてどう考えているのかも分かりました。
まず、介護で退職したのは「本当か」という疑いの目をもっているということです。
退職の理由として、給料などの待遇への不満、人間関係の問題、仕事自体が面白くないといったものがあるかと思います。しかしこういった「正直な」退職理由を、就職活動中に話す人は多くありません。「自分のさらなるキャリアアップ」といったポジティブな理由や、やむを得ない理由を、企業側に伝えることが多いです。
会社を辞めた本当の理由を隠し、自分を正当化するために使われるやむを得ない理由のひとつが「介護」です。介護なら会社を辞めざるを得ないし、人事も納得します。そうやって嘘をついて会社を辞める人が多いので、「本当に介護離職なのか」と思うそうです。
また、介護している人はリスクのある人材という見方もされます。
書類選考を通過し、面接まで進んだ会社ではこんな質問をされました。
「お父様の状態は大丈夫ですか?」
これは父を心配して、面接官は質問しているのではなく、このような意味が含まれています。
「お父様の介護で休業したり、残業ができなかったりということはありませんか?」
面接官は介護で休みが多くなったり、早退が増える社員であれば、会社全体に迷惑がかかるリスクを警戒して、面接段階で質問してきます。「介護が理由でまた退職してしまうのでは?」という質問を受けたこともあります。
転職のプロに聞いた介護離職の3つのマイナス評価とは?
わたしの2作目の著書「医者は知らない!認知症介護で倒れないための55の心得(廣済堂出版)」で取材した、大手転職サイトの元リクナビNEXT編集長で現在は「キャリアリリース40」という転職支援サービスを運営している黒田真行さんは、介護離職で企業がマイナス評価する場合は、次の3つだと言っています。
1. ブランクによるスキルレベルの低下
2. 最新技術や最新情報の更新の停止期間がある
3. フルタイムで働くペースに慣れていけるかどうか
特に1、2に関しては、環境の変化やスピードが激しい業界、例えばIT系などは注意しておく必要があるそうです。3に関しては、3年というブランクがひとつの目安になると黒田さんは言っています。
とはいえ、介護に直面している社員が増えている現状で、そこまで介護離職したことをネガティブにとらえている企業は減っているようです。
勢いだけで会社を辞めない
2015年9月に安倍政権が打ち出した新3本の矢の中に「介護離職ゼロ」がありました。企業側も介護による社員の離職を減らすべく、1時間単位で介護休業を取得できたり、介護による交通費の援助をしたりなど、介護休業制度を充実させています。
介護休業制度の活用、介護する家族の資産状況の把握をして、誰のお金で介護をするのかをきちんと考えて、介護と仕事が両立できるのかをまずは検討すべきだと思います。わたしのように「勢い」だけで、会社を辞めることのないようにしたいものです。
今日もしれっと、しれっと。
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工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)
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