黒柳徹子らシニア層も楽しむ ボケ防止にインスタグラム
1月中旬、東京・原宿ではいたるところで若い女性がスマホ片手に行列を作っていた。
「あったあった! このピンク色の壁、すごくかわいい! 先に撮ってあげるからお店の前に立って…」
「やっぱりピンクには白い服が映えるよね!」
彼女たちが集まっているのは、通称“ピンクスポット”と呼ばれるネイルサロンやカフェ、アパレルショップなどのお店の前。
「ここで写真を撮るとかわいく写る」と口コミが広がり、行列ができているのだ。並んだ末にようやく自分の順番が来た人々は、グループでもおひとりさまでも、時間をかけて思い思いに写真を撮る。同じような光景は全国各地ですっかりおなじみになった。横浜の赤レンガ倉庫でも京都の八坂庚申堂でもあちこちでシャッター音が鳴り響いている。
彼女たちの目的は、写真共有アプリ「インスタグラム」。インスタは写真を加工して、ネットにアップすることで他人と交流するSNSである。
2017年時点で国内利用者2000万人を超えたこのモンスターアプリに、“インスタ映え”するきれいでイケてる写真を投稿することが、彼女たちの達成目標となっている。
ブームのきっかけのひとつは、女性ファッション誌『CanCam』が2016年夏に企画したナイトプールのイベントだった。同誌の塩谷薫編集長は、そこで目にした光景に驚いた。
「参加した女の子たちはプールに入っても泳がず、ひたすら自撮り棒で写真を撮っていてびっくりしました。“かわいい写真を撮ってSNSにアップすること”が今の読者の関心事だと気づいた瞬間でした」
そこでCanCamでは、「かわいい写真が撮りたい」との大特集を組み、自撮り用ライトを付録でつけたところ、大成功。雑誌は1年半ぶりに完売した。
「みんな、“映える”写真が撮りたいんです。今の若い読者は、美しいものや素敵なものへの感性が豊かで、きれいな写真を撮ることにすごく興味がある。さらに昔のような『ファッションやメイクをキメて意中の人に好かれたい』という肉食の感覚は、『かわいい写真を撮ってみんなから好かれたい』というふわっとした感覚に変わった。この世代にとって、ナイトプールやおしゃれなカフェは写真を撮るためのスタジオです」(塩谷編集長)
シニアもSNSで活躍する時代
インスタに夢中になっているのは若者だけではない。67才で雑貨店を営むyuyu1950こと武田勇さんは「認知症予防弁当日記」と称して手製の弁当を紹介するインスタで話題を呼ぶ。
https://www.instagram.com/p/BcVr2CmHpvD/?taken-by=yuyu1950://
「着物業界を定年退職して雑貨店を起業しましたが、畑違いの業種で社会と断絶したような寂しさがあり、インスタを始めました。風景や物をその時の気分でアップしていたら、娘から『何でもかんでも載せたらダメ。同じ物を追いかけた方がいい』と助言されて、当時から作っていたお弁当を投稿することにしました」
3色5品、色とりどりの弁当を継続してアップした効果はてきめんで、続々と増えたフォロワーは1700人に達する。
「お弁当って主婦の仕事だからジジイが入って大丈夫かと思ったけど、“ボケ防止”との名目が効いたのか広く受け入れられて、『私のお弁当も作ってください』という応援メッセージをもらいます。インスタをすることで世界が広がりました」(武田さん)
芸能界でも黒柳徹子(84才)は、『徹子の部屋』にゲスト出演した福山雅治(48才)に勧められて2016年にインスタデビューした。
写真はほぼ毎日アップされ、フォロワー数は88万人を超える。その内容は、大好きなパンダグッズからその日食べたものまで多岐に渡るが特に個性的でおしゃれなファッションに身を包んだ自撮りは「女子力高い!」と人気が高い。
老若男女がインスタに夢中になり、「インスタ映え」は昨年の流行語大賞を受賞した。 振り返れば日本にはこれまでにミクシィ、ツイッター、フェイスブックなどさまざまなSNSが登場している。『Facebookを「最強の営業ツール」に変える本』(技術評論社)の著者でITジャーナリストの坂本翔さんは、ほかのSNSと違ってインスタには「写真1枚で自己表現できる強みがある」と語る。
「ツイッターやフェイスブックなど文章が先にくるSNSは文章を書くことが苦手だとハードルが高くなり、何を書くか悩んだ末に投稿をためらう人が多い。一方のインスタは、写真1枚で気軽に投稿できる点が最大の強みです。写真メインであることが、インスタ大流行の秘訣でしょうね」
※女性セブン2018年2月1日号
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