長寿世界一は香港!不調を食べ物で整える「医食同源」の教え
平均寿命は男性81.32才、女性87.34才…。厚生労働省が7月に発表した平均寿命ランキングで、香港は昨年に続き男女とも世界の国・地域のトップに立った。長年、長寿国家として君臨した日本は男女とも2位となっている。
香港に古くから伝わる「医食同源」
もともと香港には、古来から伝わる「医食同源」という考え方がある。医食同源とは「病気の治療も日常の食事も、生命を養い健康を維持するためのものであり、その源は同じ」という東洋的な思想のこと。香港の街を歩けば、いかにこの思想が市民に根づいているかわかる。
「日本人は朝から炊いたご飯を食べてお腹は大丈夫?」
香港の朝食は家ではなく、飲食店や屋台で取ることが多い。日本では米やパンが主食だが、当地では「お粥」を食べるのが一般的だ。
朝の喧騒のなか、香港の繁華街・旺角の飲食店でお粥を食べていた楊禧さん (85才・男性)が言う。
「毎朝、お粥を食べているよ。朝は内臓がまだ寝ぼけているから、胃腸に優しいお粥を食べるよう子供の頃に親から教わった。日本人は朝から炊いたお米を食べるようだけど、お腹は大丈夫なの?」
女性セブン記者に逆質問する楊さん。「日本の常識は香港の非常識」のようだ。お昼時の飲食店で気づくのは、最初に「スープ」を頼む人が多いことだ。旺角のレストランで熱々のスープを頬張る孔就勝さん(83才・女性)が言う。
医師も太鼓判!香港の特製スープ
「食事の前にはいつもスープを飲みます。飲食店には季節に応じて『例湯(ライトン)』という、“本日のスープ”などがある。『今日はジメジメしているから瓜のスープにしよう』などと、その日の気候や体調に合わせてスープを選びます。お気に入りの鶏スープを飲んだら、内臓がじんわりと休まる気がするよ」
高齢者医療に詳しい香港の余達明医師は、香港の特製スープに太鼓判を押す。
「香港でよく飲まれる薬膳スープの『老火湯(ラオフオタン)』は、数時間煮込んで作るので食材から充分なミネラル分が溶け出します。日本や欧米のスープは煮込み時間が短いので、そこまでの栄養素は出ません」
ビールもコーラも常温で飲むのが普通
亜熱帯に属する香港には穏やかな四季があり、今の時期は日本と同じく30℃を超える蒸し暑い日が続く。
街角で水筒を片手に水分補給していた林大偉さん(72才・男性)に「何を飲んでいるのか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「白湯ですよ」
日本では夏場にキンキンに冷えた水を一気飲みする人が多いが、香港では夏でも「常温」もしくは「白湯」が一般的だと林さんが続ける。
「夏場はできるだけ体を冷やさないよう注意しています。氷の入った水を飲むなんて考えられません(苦笑)。香港ではビールやコーラも常温で飲むのが普通です」
確かに夏場なのに漢方の薬草を煎じた温かいお茶の「涼茶(リヤンチヤ)」が人気で、街のいたるところに涼茶スタンドがある。
日本人にあまりなじみのない「お粥」「スープ」「白湯」に共通するのは、「熱」だ。香港在住で著書に『世界一の養生ごはん』(小学館)がある医学博士・楊さちこさんが解説する。
「中国の医学では、冷えは万病のもと。医食同源が根づいた香港の人は冷たいものを避けて、体をなるべく温めるものや、消化がよくて栄養補給しやすいものを好みます。
とくに高齢者は漢方医が顔負けするほど食材の効能に詳しく、体調や気候に合わせて食材を選びます」
わからないことは、食材市場の人が教えてくれるから安心
香港人の“目利き”のすごさを実感したのは、旺角にある食材市場を訪れた時だ。
にぎやかな売り場には生きたままの魚や根っこのついた野菜など、ありとあらゆる新鮮な食材が所狭しと並び、買い手は自分の手で食材を触って何を買うか判断する。誰かが「夏バテ気味で胃がもたれる」と訴えると、売り手は「だったら鶏と冬瓜でスープを作ればいい」と教える。
市場で野菜を品定めしていた李瑞瀛さん(56才・女性)が言う。
「スーパーだと翌日も売れ残りを並べるけど、市場は値下げしても売り切るから新鮮だし品数も豊富。わからないことは市場の人に聞けば何でも教えてくれるので、安心して買い物できます」
日本も昔は市場などの対面販売が多かったが、今は大手スーパーが主流でネット通販も普及する。
香港の食育「3・2・1の法則」
香港は市場での“体験学習”だけでなく、食育にも力を入れる。例えば小学校で教える「3・2・1の法則」は、「主食3、野菜2、肉類1」で食べなさいという教えだ。
こうした食への深いこだわりの背景には「医食同源」とともに「亜健康」という考え方があると楊さんが言う。
「亜健康とは、『健康』と『病気』の間にあるグレーゾーンのこと。香港人は昔から亜健康を意識して、“体の不調を感じたら病気になる前に食べ物で体調を整える”ことを心がけます。だから食には徹底的にこだわるんです」
※女性セブン2017年9月14日号
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