要介護者を地域で支える「介護コンビニ」は最高のケア施設になるか
国が盛んに唱える「要介護者を地域全体で支える」というお題目は、絵に描いた餅と化して久しい。介護にかかわる多くの人間がその苦しみを自分で抱え込み、心身をすり減らしている中、いびつな現状に風穴を開けたのは、誰もが知っているコンビニエンスストアだった。従来の利便性と「介護」が結びついた時、コンビニは高齢者にとって最高の“ケア施設”となるはずだ。
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JR川口駅(埼玉県)から車で15分。住宅地の先にある「ローソン川口末広三丁目店」の店頭には、ブルーの「LAWSON」マークとともに「介護相談所」という赤い文字が並ぶ。
店内には血圧計が置かれ、商品棚には大人用おむつや折りたたみ杖、食事エプロンなどの介護用品がズラリ。奥には「介護相談」との看板を掲げたテーブル席があり、その先にある「シニアサロン」と呼ばれるイートインスペースでは高齢者が談笑する。
ローソンと各地域の介護事業者がコラボする「ケアローソン」第一号店の光景だ。
介護事業者「ツクイ」と連携するこの店には、オレンジ色のユニフォームを着た介護スタッフが常駐し、客のさまざまなニーズに応える。超高齢化社会を迎えた日本にとって、この「介護コンビニ」の出現は必然だった。
7月上旬の朝10時、同店のシニアサロンを訪れた記者にさっそく話しかけてきたのは、常連客だというチエ子さん(73才)。
「毎日、朝と夕方の2回来てるのよ。何も買わないのは悪いから、最初にお菓子と飲み物をちょっと買うの(笑い)。それからツクイの相談員やスイミングスクールを終えたお友達とずっとしゃべっていて、おかげで毎日楽しい」
同店のシニアサロンでは、無料の健康診断や介護器具の使い方教室などさまざまなイベントが行われている。
この日のイベントは、ツクイが主催するクラフト教室。折り紙や牛乳パック、不用になったチラシや包装紙などを使って季節にあった作品を作る教室で、月2回ペースで開かれている。
「梅雨の時期には折り紙であじさいを作ったよ。介護士さんが丁寧に教えてくれるの」(チエ子さん)
店内では介護施設主催のイベントも開催される
午後2時、デイサービスの車が店に到着。教室には、車いすに乗った要介護者2人、自力で歩ける要介護者5人にチエ子さんら地域住民3人が加わった計10人が参加した。
この日のお題は、牛乳パックを再利用した「状差し」(レターラック)の作成。同店のイベントの最大の特徴は、地域の健常者と要介護者が一緒に作業することだ。参加者は、折りたたんだ牛乳パックにさまざまな柄の千代紙を貼り、穴をあけて紐を通す。
「上と下で色を変えたけど、どう?」
「そっちの方がかわいいね」
和やかな会話が途切れることなく作業が進む。ホチキスを外したり、のりを貼る場所を間違えるなど、要介護者がミスをすれば、チエ子さんやスタッフがサッと救いの手を差し伸べる。
教室に参加した要介護者のよし子さん(80才)が言う。
「スタッフが途中までやってくれるから簡単にできました。最近はお手紙を書いてないから、これを機会にまた書いてみようかな」
そう話をしていると、後ろから「ラブレターが来るかもよ」との黄色い声が飛ぶ。
認知症の人とその家族らが語り合えるカフェも開催
和気あいあいの様子を満足そうに見つめるのが「ツクイ」のスタッフ・藤田幸子さんだ。
「介護相談窓口でイベントを始めた頃は、お客様が集まるか不安でしたが、今では毎回大盛況です。買い物のついでにすっと入ってこられるかたもいて、コンビニならではの光景だと思います」
この店は、要介護者を支える人たちが孤立しないように、認知症のかたとその家族らがお茶を飲みながら語り合う『オレンジカフェ』も開催する。