地域密着型スーパー・平和堂「認知症サポーター」を取得したスタッフが1万人を突破!その取り組みは、家庭や地域に役立つと期待
高齢者における認知症患者の割合の増加が問題となる昨今、認知症当事者がそれまでのように自分らしく生活していくには、周囲の人々の理解とサポートが必要不可欠だ。そんななかで、「認知症になっても安心してお買い物できるお店」を目指して社員の認知症サポーター養成を進めるスーパーが注目されている。
「地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」を目指して
超高齢化社会へと突入し、増え続ける高齢認知症当事者への対応が大きな課題となりつつある現代日本。認知症当事者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるためには、周囲の人々の理解とサポートが必要不可欠となってくる。
そこで注目されているのが、滋賀県を中心に関西、北陸、東海の2府7県でスーパーを展開する平和堂の「社員の認知症サポーター養成」の取り組みだ。「地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」を目指し、「健康」「子育て」「高齢者」をキーワードとした取り組みの一環として2022年11月にスタートし、2023年11月には目標の1万人を突破した。
また、2024年3月には平和堂が運営する店舗「アル・プラザ京田辺(以下、京田辺)」の認知症サポーター養成などを通じた誰もが利用しやすい店舗づくりの取り組みが認められ、「令和5年度京田辺市地域貢献企業」の表彰を受けた。
このように、京田辺の事例を始め、認知症に対する理解や取り組みは急速に社内に広まりつつある。なぜ平和堂が認知症サポーター養成に取り組んでいるのか、また、どのように社員ひとりひとりに浸透していったのかを紹介していく。
「地域共創」の考えのもと「地域の健康」へ貢献
高齢化が進む日本において、健康寿命の延伸は本格的に取り組むべき課題だ。平和堂では健康寿命≒平均寿命となることが地域の元気を支えることに繋がると考え、地域の人々の暮らしと健康を幅広く支える様々な取り組みを行っている。
しかしハード面のサポートを進めるなかで、それだけでは行き届かないサポートがあることを実感。特に認知症は身近な病でありながら適切な対処方法に関する知識などは意外と持ち合わせていない人が多いのが現状だ。平和堂でも認知症当事者が安心して買い物をすることができるサポート体勢は充分ではなかったという。
そこでソフト面での取り組みとして、全社的に社員の認知症サポーターを育成することに。認知症当事者にも適切な応対で安心して買い物を楽しんで貰えるように、社員の総合的なレベルアップを図った。
「認知症に対する理解を深めて、基本的な応対を学び、地域や家族との関わりも含めて、広い視野を持つ人材を育成する」
「認知症サポーター養成講座を学ぶことで“おもてなし”“助け合い”の風土を醸成し、認知症以外の配慮が必要な方への気付きや応対などの派生効果も期待する」
この2つの明確な目標のもと、2024年度末までに全社では社員1万人、各店舗においては社員の3割以上が認知症サポーターを取得している状態を具体的な数値目標として設定。1万人は全社員のおよそ4割強にあたる高い目標値であったが、何としてもやりきるという強い思いでスタートさせたという。
店舗業務の合間を縫っての養成講座開催の調整は想像以上に負担が大きく、当初は思い通りに計画が進まないことも。そこで事務局は、まずは店長や部門責任者に養成講座を受講して貰い、認知症について学ぶことの大切さを実感して貰うと共に、サポーター育成の目的を地道に説明し続けた。
次第にその思いも伝わり、年に数回ある店の休業日を利用して講座を設定したり、近隣店舗へ声をかけてエリア全体で講座受講を推進したりと、それぞれの店舗が工夫して講座を開催。1か月に全店で100講座以上開催された月もあり、2023年11月には見事目標の認知症サポーター取得者1万人を達成した。
企画マネージャーが語る認知症サポーター養成への想い
「日々、京田辺で働いて感じることは、ご高齢のお客様が多いということ。私自身の両親も高齢で、認知症を身近に感じる機会が増えていました」
アル・プラザ京田辺の企画マネージャー、八木佐智子さんはそう語る。店舗で働けば認知症ではなくても高齢の人と接する機会も多くなる一方、そのひとりひとりに合わせた応対は慣れない社員には難しいことも実感。そんな人の不安を少しでも取り払ってあげられたらもっと楽しく働けるのではと考えたという。
そこで交流のある包括センターの人に相談をしたところ、認知症サポーター養成講座を紹介され、京田辺で働く社員向けに養成講座を実施することとなった。さらに奮闘する八木さんの姿を見た包括センターの人にキャラバン・メイト(講師)の講習を紹介され、キャラバン・メイトの資格を取得。現在は月に2回程度、八木さん自身が講師として養成講座を行い、講座修了者は50%以上をキープしているそうだ。
「今後、お店で働く皆がたとえ平和堂を辞めたとしても、一度得た知識は生きる。これからのその人の人生で覚えたことがいかされていればいいですし、社会のなかで認知症に対する知識を持つ人が1人でも増えればいいなと思っています」
安心して買い物できる・働くことができる環境づくりのために
京田辺だけではなく全店で見ても、今までは認知症と思われる顧客にどう接してよいかわからなかった社員が、講座受講後は「もしかしたら認知症のかたかもしれない」と見守り、余裕をもって応対できるようになった。また、地域包括支援センター等とのネットワークができたことで、高齢者の応対に困った際に相談しやすくなり、実際に認知症当事者への支援に繋がった事例もあるという。
講座で学ぶ認知症の人への応対の基本は認知症に限らず全ての顧客に通じるもの。認知症への理解が進んだことは、あらゆる顧客への柔軟な応対にも繋がるようだ。
また、講座を受講した社員からは「家族が認知症なのでとても役に立った」「もっと早くに受講していたら、認知症の家族にもっと寄り添えたかもしれない」などの声が多く挙がったとのこと。認知症サポーターの養成は職場だけではなく、家庭・地域で役立つ学びになっていると言えるだろう。
平和堂が挙げる今後の課題は大きく2つ。「認知症サポーターとして学んだ基礎をいかに定着・活用していくか」「高齢化に伴う社員自身の認知症発症の可能性や、介護しながら働く社員、認知症になった社員が働き続けることができる接し方や環境の整備」だ。そのために認知症への対応を実践できる社員をひとりでも多く増やしていくため、今年5月には社内キャラバン・メイト(講師)を養成する取り組みを開始した。
このような認知症サポーター養成の取り組みがより普及して行けば、多くの人が住み慣れた地域で安心して自分らしい生活を続けることができるだろう。今後の取り組みにも期待していきたいところだ。
【データ】
※平和堂の発表したプレスリリース(2024年9月3日)を元に記事を作成。
図表/平和堂提供 構成・文/秋山莉菜