地域で高齢者を支えるビジネスを!「町の薬屋さん」の安心介護
高齢化社会が進む中、地域全体で、高齢者を見守り、支えることが早急の課題であり、介護事業は社会福祉法人のみならず、医療、住宅、不動産関連企業から家電メーカーまで幅広く参入している。
埼玉県飯能市では、地元の人に半世紀にわたり親しまれてきた「町の薬屋さん」が介護事業を展開し、拡大を続けている。
地域に根差した薬局だからこそ提供できる介護サービスとは、どのようなものだろうか。
薬局と介護が密接につながり、地域高齢者を支える
「実は薬局と介護は親和性が高いんです。客層に高齢者が多かったり、処方箋(せん)を持ってくるうちに親しくなったり。外出できない高齢者宅に薬を届ける在宅調剤では、ヘルパーさんたちと会う機会も少なくありません。薬剤師は顧客の生活情報に自然にくわしくなります」
『ヴェルペンファルマ』代表取締役専務の大野泰規さんはこう話す。
同社は、大野さんの父親が1965年に埼玉県飯能市に開業した『おおの薬局』から始まり、調剤薬局を経て、現在では、飯能市を中心とした近隣都市(坂戸市、日高市、入間市、狭山市)に9店舗の薬局店舗を含め、介護施設、宅配給食、老人ホーム紹介、障がい者支援など31の事業所を構え、地域の介護を支えている。
「市民の皆さんからは、ヴェルペンファルマは『いろいろなことをやっている薬局』と言われているようです。
最初に取り組んだ介護事業は2004年の、介護器具レンタルサービスでした。大ヒットはしなかったものの好評だったため、手ごたえを感じ、デイサービスや訪問マッサージ、在宅介護支援センター、サービス付き高齢者向け住宅と、ほぼ毎年1業種ずつ需要に応じて介護まわりの事業を増やして参りました。」(大野康規さん、以下「」同)
飯能市内では、ヴェルペンファルマの介護関連サービスの認知度は徐々に上がり、2014年からは、食事の宅配サービスを始めた。同市では、すでに、コンビニエンスストアや飲食店などが同様のサービスを行っている中、遅れての参入だったが、「ヴェルペンファルマさんのところなら安心」「いつも利用している薬局がやっているから馴染みがある」「介護の相談にも乗ってくれているから」と大歓迎を受けたという。
食事の宅配サービスを開始してから一年ほど経ったころ、同社の評判を印象付けるある出来事が起こった。
食事宅配事業の中で認知症患者さんの発見も
一人暮らしの高齢者の自宅に弁当を宅配している配達員が、異変を感じた。所定の場所に届けた弁当が、翌日になっても手つかずで放置されている。「外出でもされたんだろうか?」と、不審に思いつつも、その配達員は新しいお弁当を置いて帰ったのだが、翌日の配達でも弁当はそのままだった。
配達員は市より受託している、「飯能市地域包括支援センターはちまん町」に連絡。センターの職員が調査した結果、意外な返答が返ってきた。
「お客さんはお弁当を受け取っていない、と言っておられます」というのだ。注文をした覚えはなく、自分で食事を作って食べていたという。センターが再調査したところ、配達先の高齢者が認知症であったことが判明した。
この話は飯能市の市民の間で、「ヴェルペンさんのサービスが、お客さんの病気を見つけた!」としばらくの間、話題になったという。
「私は飯能市生まれの飯能市育ちで土地勘もあるし、地域に関しては『手広くやるより、狭く深く』をモットーにしています。地域の高齢者の方を見守り、お役に立てたことは光栄なことだと思いました」
ほかにも、自宅と薬局間の車での無料送迎サービスは好評だ。患者さんたちからは『タクシーを利用していたのでお金の負担が減った』『家族に送迎の負担をかけずにすむ』と、喜ばれているという。
地域密着型の企業として飯能市の職員やほかの企業との連携も強くなっている。