認知症の母を13年遠距離介護する工藤広伸さんが提案する73のヒント「無理なく続ける、親の自立を促す最強の介護の形」とは?
作家で介護ブロガーの工藤広伸さんは、認知症の母の遠距離介護を始めて13年。その集大成ともいえる最新著は、離れて暮らす親のサポートに必要なことが網羅された実用書となっている。同居せず、通いでサポートする今どきの介護の形「遠距離介護を始める、続ける」ために役立つヒントとは? 著者にその想いを聞いた。
遠距離介護歴13年「無理なく続けるヒント」
「遠距離介護こそ最強の介護の形」と気づいてもらいたい――。工藤さんは本書の冒頭でそう綴っている。なぜ最強なのか、読み進めるうちにその理由は明らかになる。
いちはやく見守りカメラなど便利なIoT家電を導入し、遠距離介護の情報を発信してきた工藤さん。これまで著書を多数出版し、講演会などでもそのノウハウを発信し続けているが、実は著書のタイトルに「遠距離介護」とつけたのは本書が初めてだという。
「実は、ずばり“遠距離介護”をテーマにした講演依頼が増えてきたのは2023年頃からなんです。
団塊世代が後期高齢者となり、その子世代(団塊ジュニア)も50代にさしかかり、親の介護が始まったり、不安を感じ始めたりしている人が増えているんですね。50~60代は仕事や育児、介護も抱えて、なかなか大変な世代ともいえる。ですから、親にはなるべく自立して暮らしてもらい、介護をするご自身の仕事や生活も大切にして欲しいと思うんです」(以下、工藤さん)
「遠距離介護をいかに無理なく続けていくか」が、本書のメインテーマだ。離れて暮らす親の介護にどんな準備や心構えが必要なのか、遠距離介護を13年にわたって続けてきた当事者ならではのノウハウが、73のヒントとして具体的にまとめられている。
親の見守りで大切なこと
本書の執筆にあたり工藤さんが注力したのが「見守り」に関するヒントの提案だ。
「離れて暮らす親になるべく自立を保ってもらうためは、健康面だけを見守っていればいいのではなく、ほかにもチェックしたほうがいいポイントはたくさんあります。
親が暮らす地域の天気などの環境面の見守りも必要ですし、暮らし全般の見守りが大切なんですよ。
実は、遠距離介護を始めた2012年から最も気にかけるようになったのが“天気の見守り”。異常気象の今、天候の影響でさまざまなことが起きるので、天気予報アプリをスマホに入れて、親の住む地域を登録しています。
また、外気温や室内の温湿度がわかるIoT温湿度計を使えば、真冬の寒さや熱中症の対策もできます」
ほかにも「ゴミ出しをできているかの確認」は、親の老いや認知症の進行を見極めるサインになる。また、「訪問販売や詐欺電話」「ガスコンロの消し忘れ」対策など、これまで母が直面したさまざまな困った経験から、短期間の帰省時にチェックすべき見守りポイントが解説されている。
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介護が始まった当初から工藤家で活用している見守りカメラだが、終始気にしている必要はなく「できるだけ見ないルール」を設けている。たとえば、見守りカメラの「動体検知」(人が通ったことに反応する)機能を利用して必要なときにだけお知らせが通知されるようにするなど、親も子も負担が少ない効率的な使い方もできるという。
罪悪感や批判への向き合い方
住み慣れた家で暮らし続けたいと願う母のために、遠距離でサポートを続けてきた工藤さんだが、母をひとりにしている「罪悪感」から自分を責めたり、周囲に「お母さんがかわいそう」と言われたりして落ち込んだ経験も。本書の終章では、こうしたメンタル面の対処法についても丁寧に解説されている。
「離れているからこそお互いを思いやれる。遠距離介護ならではのメリットもあるんです」と、工藤さん。
自分でできることは自分でやってもらうための環境作りをして、親をサポートする。遠距離介護は「親の自立を支える介護の形であり、元気に長生きしてもらうための介護」だという。73のヒントの中から、親と自分のペースにあった持続可能な遠距離介護の形を探してみて欲しい。
プロフィール/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(82才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。最新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』が11月17日発売。
【新刊記念イベント】工藤さんに「直接」聞いてみよう! 介護するココロをやわらかくするヒント 東京・品川フラヌール書店にて12月13日開催(オンライン配信あり)https://harukara-reading.stores.jp/items/68e1e5c840aa62e0559124ac
