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健康

《死亡率2倍という研究結果も》背中が丸まっている「脊柱後湾」、“老けて見える”だけではないリスク 健康への悪影響を医師が解説

 背中が丸まってしまうのは、“加齢のせいで仕方がないこと”だとあきらめていないだろうか?『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』(アスコム)の著者で医師の野尻英俊さんは、「背中が丸まっている人はまっすぐな人より死亡リスクが高い」という研究結果が出ていると警鐘をならす。そこで、背中が曲がっていると体にどんなことが起こるのか解説してもらった。

教えてくれた人

野尻英俊さん/医師、医学博士

のじり・ひでとし。整形外科専門医、脊椎脊髄外科専門医、脊椎脊髄外科指導医。1997年、順天堂大学医学部を卒業後、同大学附属順天堂医院にてキャリアをスタート。脊椎変性疾患、脊柱変形を専門とし、現在は2019年に新設された同大学の脊椎脊髄センターで、副センター長を務める。

背中が丸まっている人は死亡リスクが約2倍にも

 背中の丸まりは、専門的な言葉では「脊柱後湾」(せきちゅうこうわん)と呼ばれ、背骨(脊柱)が後ろに過度に弯曲し、腰が曲がった状態のことを指す。

「2004年に『アメリカ老年医学会誌』に掲載された論文では、背中の丸まりが強い高齢者は、そうでない人に比べて死亡リスクが約1.44倍に上昇するという研究結果を示し、『過度の脊柱後弯は、それ自体が死亡リスクの独立した予測因子である』と結論づけています」(野尻さん・以下同)

 なお、年齢や性別、体重などの違いや、喫煙、運動などの生活習慣、骨粗しょう症の既往歴や肺機能などの要因を加味しても結論が変わらなかったという。

 さらに、日本人の高齢者を対象とした研究(BMJ open 2022)では、背中の過度な丸まりがある人は、ない人と比べて約2倍(1.99倍)も死亡率が高まることが報告されている。

「脊柱後弯は、ともすると命にかかわる、『死への入り口』ともいうべき疾患です。その弊害は『老けて見える』だけにとどまらないことを理解し、しっかりと対応にあたる必要があるのです」

脊柱後弯が臓器に与える影響と疾病リスク

 背中が丸まるということは、背骨が本来あるべきではないところに位置するということだ。すると、曲がった骨によって臓器が圧迫されるなど、本来の働きを十分に発揮できない状態になることがある。

「臓器の機能を低下させたり、停滞させたりするなど、ありとあらゆる健康被害をまねく恐れがあるのです」

 野尻さんは、脊柱後弯によって臓器の働きが悪くなることで健康被害が引き起こされる「負のスパイラル」に言及し、背中の老いを甘く見ないように呼びかける。

呼吸機能の低下

 代表的な弊害としてまず、野尻さんが挙げたのは「胸部の圧迫による呼吸機能の低下」だ。

「背筋がぴんと伸びているときと、背中が丸まっているときの肺の状態を想像すると、その関係性の深さをすぐ理解できるはずです。いわずもがな、後者のほうが物理的に肺を圧迫することになります」

 肺が圧迫されると、まず肺活量の減少が起こる。肺活量の減少は、体力や免疫力の低下を引き起こし、感染症などのリスクを高める。

「また、肺炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)での死亡リスクが増加することもわかっています」

胃や食道に負担がかかる

 脊柱後弯によって食道の内圧が高まると、食べたものが食道を通過しづらくなったり、胃酸が逆流しやすくなったりする。このような胃や食道への影響は、「胃食道逆流症(GERD) 」や「咽喉頭酸逆流症 (LPRD)」といった消化器系疾患の原因になりかねない。

「こういった疾患を繰り返すと、食道がんの原因になったり、胃腸の機能の低下に端を発する誤嚥やそれにともなう誤嚥性肺炎、消化不良、便秘、肥満などにつながったりもします」

脊柱後弯が脳に与える影響

 人間にとって、もっとも大切な臓器といっても過言ではない脳にも、背中の丸まりは影響を及ぼす。

神経伝達の影響

 脊柱内には脳と全身をつなぐ神経の中継路である脊髄が通っている。背骨が過度に後弯すると、脊髄や神経根に圧迫や緊張が加わり、脳からの信号の伝達がスムーズにおこなわれにくくなることがある。

「結果として、手足のしびれ、筋力低下、反射異常などが生じることもあります」

脳血流・自律神経への間接的影響

 背中が曲がって頸椎や胸郭の可動性が制限され、呼吸が浅い状態が続くと、脳への酸素供給が低下するリスクがある。

「これにより、集中力低下・疲労感・頭痛などの脳機能への影響が報告されています。また、姿勢異常は交感神経優位の状態をまねき、自律神経のバランスを乱すこともあります」

認知機能・感情面への影響 (姿勢心理学)

 姿勢と感情・思考の関連についても、研究が進められている。

「丸まった背中はうつ状態・意欲低下と相関があるという報告があります。逆に、姿勢を正すことが脳の前頭前野 (感情・意思決定)を活性化させるという報告もあります」

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