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認知症の母が初めて訪問歯科を利用して驚いた「レントゲンや治療は母がいつも過ごす部屋で」<実録レポート>

 岩手・盛岡で暮らす認知症の母の遠距離介護を続けている作家でブロガーの工藤広伸さん。実家に帰省した際、母の口腔ケアや治療のために歯科通院を続けているのだが、入れ歯の不具合が重なって通院回数が増え、介助も大変になってきた。そこで初めて訪問歯科を利用してみたら、驚くことがあったという。

執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(82才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。最新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』が11月17日発売。
ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/ Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

認知症の母は定期的な歯科通院が必要

 母を定期的に歯医者へ連れて行くようになったきっかけは、口腔カンジダでした。ピンク色であるはずの母の口の中に、白いコケのようなものが広がっていました。

 母が入れ歯の掃除をこまめにしなかったことが原因で、歯科医から「口腔カンジダを放置すると、誤嚥性肺炎になる」と言われました。誤嚥性肺炎は、高齢者の命に関わる病気です。そこで口腔ケアの大切さに気づいて、3か月に1回、定期検診を受けるようになりました。

 歯医者は実家から徒歩3分のところにあるのですが、母の手足に障害があるため、通院にはタクシーを利用していました。治療費よりも往復のタクシー代の支払いの方が高くなってしまうのですが、母の安全を優先してきました。

 しかしあることがきっかけで歯医者への通院はやめ、歯科の訪問診療、いわゆる訪問歯科に切り替えました。

母の入れ歯が何度も割れるようになった

 母の入れ歯が何度も割れるようになったのは、2023年頃からです。はっきりした理由は分かりませんが、経年劣化で強度が落ちていたのかもしれません。

 その都度、通院して入れ歯の修理をしていましたが、歯科医から「入れ歯をイチから作り直しましょう。強度が上がって割れなくなりますし、息子さんも東京から通うのは大変でしょう」と提案されました。

 入れ歯の型取りからスタートし、他の歯の治療なども重なって、上下の入れ歯の完成まで11か月もかかってしまったのです。これでしばらく歯医者に行かなくていいと思っていたところ、完成から8か月後に上の入れ歯の前歯の部分が抜けてしまいました。

 すぐに修理してもらったのですが、2か月後にまた同じところが破損してしまいました。通院回数が増え始めていたとき、今度は母が下の入れ歯を寝ている間に外し、寝返りを打って割ってしまったのです。

 歯科医から「下の入れ歯は、型取りから始めないといけない」と言われ、わたしの心は折れてしまいました。これ以上の通院はもうムリかもしれないと思っていたとき、ふと訪問歯科の存在を思い出したのです。

初めての「訪問歯科」で驚いたこと

 訪問歯科は、歯科医師や歯科衛生士が自宅や介護施設などを訪問して、歯科治療や口腔ケアを行います。歯科医院への通院が難しいかたが対象で、原則、歯科医院のある場所から半径16km圏内が対象で、それ以上離れてしまうと健康保険適用外となります。

 ケアマネジャーさんや訪問看護師さんにオススメの訪問歯科を聞いて、実家から直線で5kmほど離れた訪問歯科を利用することに決め、早速初診の予約を取りました。

 訪問歯科のホームページには、専用車の写真が載っていました。わたしは専用車に歯科用の機材が積んであって、車の中で治療を行うと思っていましたが、実家に到着したのは軽自動車。歯科医師と歯科衛生士の2人でいらっしゃって、小型の機材を家に持ち込みました。

歯科医:「こちらで治療しますね。ではお母さま、エプロンをどうぞ」

 母は定位置である居間のコタツの座椅子に腰掛けたまま、口を開けて治療開始です。歯科医院にある口の中を照らすライトはどうするのかと思ったら、歯科医がヘッドライトのようなものを頭からかぶり、母の口の中を照らしました。

 初診だったので虫歯や歯周病のチェックから始まり、次に大きなデジタルカメラのようなものを取り出しました。

歯科医:「こちらでレントゲンを撮りますね」

わたし:「えっ、コタツに座ったままレントゲンって撮れるんですか?」

 撮影したレントゲン画像を見せてもらうと、確かに歯科医院で見るものと同じでした。寝たきりの人や認知症の人を多く治療している歯科医から診た母は元気に見えたようで、今後の治療方針について話してくれました。

歯科医:「お母さまは元気だから、まず抜歯をして新しい入れ歯を作っていきましょう」

 前に通っていた歯医者は、高齢の母の抜歯はリスクがあるので、抜かずに歯茎の根元まで歯を削って、入れ歯を作る方針でした。

 その後、小型のドリルで割れた下の入れ歯を修復してもらい、1時間ほどで治療は終了。インプラントや難しい手術を除いて、だいたいのことは訪問で対応できるとのことでした。

 歯科医の話では、訪問歯科は高齢で歯医者に通えなくなったり、介護者の通院介助が厳しくなったりして利用する人が多いそうです。患者さんが重症化する前に、もっと訪問歯科を利用して欲しいと言っていました。

 入れ歯に違和感があったときは、やわらかいもやし炒めですら食べるのに時間がかかっていた母。しかし訪問歯科の治療が終わった直後の昼食のパスタは、しっかり完食してくれました。

 タクシーの手配や入れ歯調整のための1日2回の通院など、歯科通院はいろいろと大変でしたが、今後はそうした手間から解放されそうです。訪問歯科の知識は前からあったのに、通院する習慣が染みついてしまっていたせいか、利用が遅れてしまいました。

 ちなみに、訪問歯科には医療保険が適用され、条件を満たせば介護保険も利用できます。今回の利用料については、往復のタクシー代がかからなくなったので、訪問歯科を利用したほうが安くなりましたが、治療の内容によって変わってくると思います。

 わたしのように歯科通院で苦労されているかたは、訪問歯科を検討してみましょう。

 今日もしれっと、しれっと。

【新刊記念イベント】工藤さんに「直接」聞いてみよう! 介護するココロをやわらかくするヒント 東京・品川フラヌール書店にて12月13日開催(オンライン配信あり)https://harukara-reading.stores.jp/items/68e1e5c840aa62e0559124ac

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