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《夫がすい臓がんで他界》自宅で幸せな最期を迎えるために必要なこと 倉田真由美さん×在宅訪問医・山中光茂さんが対談「医師に忖度する必要は一切ない」

 夫を自宅で看取った経緯を綴った著書『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』が話題の漫画家・倉田真由美さんが、医師の山中光茂さんが院長を務めるしろひげ在宅診療所のイベントに登壇。“家での幸せな看取り”をテーマにした2人の対談の様子をレポートする。

倉田真由美さん×山中光茂さん「幸せな看取りとは?」

 東京・江戸川区で長年住民に愛されてきた、しろひげ在宅診療所。設立7周年を記念して行われた「在宅医療シンポジウム」に、ゲストとして招かれた倉田真由美さん。登壇直前の楽屋で、すでに盛り上がる2人をキャッチ!

「山中先生とは、半年ほど前に知り合ったんですが、在宅医療について知らないことがまだまだ多くて、いつもお話を興味深く聞かせていただいています。面白い先生なんですよ、歌舞伎町で働いていらっしゃったことも…」(倉田さん)。

「ええ、そうなんですよ(笑い)。大学時代に呼び込みをやっていたんです。外科医として活動してきましてね、緩和ケア医になって10年、江戸川区で始めた診療所は7年目を迎えることができました」(山中さん)

 ――しろひげ在宅診療所・院長を務める山中さんは、アフリカ・ケニアに渡って離島医療に携わり、三重・松阪市長を2期務めるなど異色の経験をもつ。7年前から縁のあった東京・江戸川区に根を下ろし、在宅医療を開始。当初は医師1人、訪問看護師3名から始めた診療所は、常勤医師が15名、訪問看護師は20名体制と規模を拡大し、現在は江戸川区の地域医療を支える存在になっている。

 山中さんはかねてから倉田真由美さんが発信してきた、夫(叶井俊太郎さん、享年56)の闘病や看取りについて関心をもっていたという。そんな2人が本音で語り合った対談の一部を紹介する。

***

山中光茂さん(以下、山中):半年ほど前、僕の著書『家で幸せに看取られる』ための55のヒント』の対談でお会いしたのが最初ですね。

 僕はそんなにつき合いがいい方ではないですが(笑い)、倉田さんとは何度か共通の知り合いも交えてお話をさせていただく機会がありまして、意気投合しましたね。

倉田真由美さん(以下、倉田):先生のお話はいつもとても楽しくて(笑い)。夫は在宅医療を受けたのは亡くなる前の10日間くらいでしたが、先生に聞いておけばよかったと思うことはありますね。

夫はすい臓がんでしたが、抗がん剤などの標準治療は選ばず、病院ではなく最期まで自宅で過ごしました。治療も亡くなる場所の選択も、人それぞれですから、正解はないんですが、こういう選択肢もあるんだということを伝えていきたいんです。

 治療に関しては色々と思うことがあって、保険が利かないサプリメントや薬も試しましたし、自由診療にはかなりお金を使いました。これは今振り返ると、人におすすめはできませんね。

山中:私は大学生のとき、母親が末期がんになってしまって。当時がんにいいと言われていたキノコ由来のサプリメントを30万円で購入したことがあるんですよ。がんと告げられたとき、人は何かにすがりたい、希望を持ちたいと思うものです。

 緩和ケア医として活動してきて感じるのは、がん患者さんの中には抗がん剤をやらない、あるいはやめることで延命につながるケースは多々あるということ。薬が抜けて身体がラクになって生活がしやすくなるかたもいらっしゃいます。

がんより治療の苦しみが辛いことも

倉田:がんそのものの苦しみより、治療の苦しみの方が大きいのはつらいですよね。夫は緩和ケアで痛みを取りながら終末期を過ごしていましたが、最期の最期まで自分らしく生きました。食べることが好きで、旅立つ前日に好きだったファミチキを食べたいと言い出して…。ただ、亡くなる1か月前くらいからは腹水が溜まって苦しそうでした。

山中:1000人の看取りに携わってきましたが、私が看ていた患者さんには腹水の処置が必要だったかたは3人くらいなんです。腹水は溜まってしまったら抜くのではなく、たまらないようにすればいいという方針なんですよ。

倉田:えっ、溜まらない方法があるんですね。夫は在宅医療に切り替えてからも腹水を抜いていましたけど、毎回抜いた後にぐったりしていたので、どうなんだろうって思っていました。

山中:水分を摂り過ぎるからむくみが出たり、腹水もたまりやすくなったりするケースがありますので、水分量のコントロールは大切ですね。

 病院によっては、点滴で水分や栄養を入れながら、利尿剤を同時に投与している場合もあります。私これまで看てきた末期がん患者さんは、水分を抑制しながら、ステロイドで炎症を抑えることで、腹水が溜まりにくくなるケースもありましたね。世間では健康のために、水を飲め飲めって、言われていますから…。

倉田:ええ、なるべく水分を摂ったほうがいいと信じ込んでいました。夫も好きなだけ飲んでいました。治療の方針や薬でもそうですが、これってどうなんだろうって違和感は、医師や看護師さんに遠慮なく伝えることは大事ですね。

山中:そうなんですよ、医者の言うことが絶対というわけではない。病院から在宅医療に切り替えた私の患者さんは、薬が合っていなかったということが結構あるんですよ。

 不調を抱えながらも医師の言うことを聞いて合わない薬をのみ続けると。いくら腕がよくても患者さんが意見を言いにくい、話を聞いてくれない医者は、名医とはいえないですよね。

倉田:抗がん剤をやらないと決めたら「うちではできることはありません」と突き放す医師もいると聞きました。

 夫の主治医は「叶井さんの選択した治療の中で、できることをやっていきましょう」と言ってくださった。「最期を家で迎えたい」と言う夫の意思を尊重して、訪問医とつないでもくれました。在宅医療では、必要な医療ケアはほとんど訪問看護師さんがしてくれていましたし、私も仕事を続けながら、何も我慢することがなかったんです。

山中:生活のサポートもそうですが、在宅医療でも病院と変わらない医療だって受けられることをもっと広く知っていただきたいですね。訪問医や看護師、介護職のスタッフには、ご本人もご家族も、不安や悩み、心配事をどんどん伝えたほうがいい。

 医療や介護の世界では「義理人情、忖度は一切必要ない」というのが私の信条。合わなかったらチェンジしていいんですよ。

倉田:たしかに(笑い)。医者選びはパートナーと選びと一緒かもしれませんね。夫は、お金が貯められないとか、ある意味でダメンズなところもありましたけど、おおらかでブレない性格の夫と、心配性の私。とても相性がよかった。

 夫は亡くなる直前まで元気で普通の生活を続けられましたから、末期がんではありましたが、ある意味ピンピンコロリ。在宅医療を選んで本当に良かったと思います。

*倉田真由美さんも登壇した「在宅医療シンポジウム」はYouTubeでも公開中。 https://www.youtube.com/watch?v=EYOTWqT_6Bs

撮影/五十嵐美弥 構成・文/介護ポストセブン編集部

倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を1話から読む

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