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連載

兄がボケました~認知症と介護と老後と「第50回 冬季プールに通う」

 昨年の夏まで8年以上にわたり認知症を患う兄と共に暮らしてきたツガエマナミコさんが綴る日常エッセイ。兄は特別養護老人ホームへ入所したため、現在は一人暮らしになりようやく自分のための時間を持てるようになったマナミコさんは、プール通いが習慣になりました。しかし、向寒の折、そのプール通いにも気になることが出てきたようです。

 * * *

寒くなってきていろいろと思うこと

 また傘を置き忘れてしまいました。

 今回は電車の中。1時間も乗り換えなしで座り続けてウトウトしていると、気づいたら目的の駅で「やっと着いた」と降りて、改札を出たあたりで「アッ!」となった次第でございます。

 傘は、どうしていつも気に入ったものから失くなるのでございましょうか。今回も一番気に入っていた傘でございました。数年前に一番気に入っていた傘を失くして、それに似た傘をあちこち探して購入したものでございます。電車の中で本を読んで、傘を手すりに掛けたとき「こんなことすると忘れそうだな」と思ったことをはっきり覚えております。「そら見たことか」としたり顔のわたくしが脳裏に表れ、悔しいったらございません。

 そして傘を1本買いました。今度はシンプルななんでもない地味な一本。

 人は、人生で何本傘を失くすのでございましょうか。多くの人が一度や二度は傘を電車に置き忘れたご経験があることと存じます。わたくしはここ3年で3本置き忘れております。中1本は、数か月前のこと、家の近くの駅のトイレだったので取りに行き、めでたく戻って参りましたが、電車の中に忘れた場合は、もう諦めるしかございません。どなたかのお役に立っているだろうと思うことが、せめてものよすがでございます。

 もう傘は地味でシンプルなどこにでもある傘で十分。失くして悔しさを引きずるような傘は卒業することにいたします!

 最近、とっても嫌だと思っていることがございます。

それは動画や検索画面にやたらと入ってくる広告でございます。今にはじまったことではございませんが、見たい画面が突然、広告の画面に覆われてしまい、消そうにも消すための×印(Close)がなかなか見つけられないことのなんと多いことか。消すボタンではないところをクリックしそうになる巧妙な罠がはりめぐらされていて、危ないことこの上ございません。

 広告を出すほうも×印を押されないように、いかにわかりにくい場所に×印を置くか、いかに×印に見せかけて違うボタンを置くかに必死なのでございましょう。まずは落ち着くことが肝心でございます。「だいだいこの辺にある」と慣れてくるとそれが罠だったりいたします。巧妙な誘導に引っかからないよう気を付けなければなりません。

 ほかにもいろいろな証券会社から「配当金のお報せです」とメールが届いたり、銀行から「支払いが確認できていません」といった電子音声の電話が来たり、人を罠にはめようとする輩が多すぎます。

 今のところ全部無視を決め込んでおりますが、逆に本当に必要な手続きができていない恐れがございます。世の中は便利になったようで不便になりました。

 今週は、兄の車イスを押して施設の周りをお散歩したいと思っていたのですが、残念ながら雨でございました。しかも冬のような寒空で、秋はどこへ行ったのやら……。来週はお散歩できるでしょうか。

 インフルエンザも猛威を振るっておりますし、わたくしもどこでウイルスをもらってしまうかわからないのでマスクを外せない毎日でございます。もし風邪でも引いたら面会に行けません。

 そこで懸念しているのがプールでございます。運動不足解消のためのプールは、本当に始めてよかったと思っております。ただ、温水なので入っている間は良くても、この時期は水から出たとたんに寒いということが判明いたしました。真冬になったらもっと温度差が激しくなります。気を付けないと湯冷めのようなことになるのではないかと、やや不安になってまいりました。でも泳ぐことは気持ちがよく、心身が“整う”感じが病みつきになっているのは確かでございます。

 わたくしは平泳ぎ一択なのですが、ひと掻きするたびプールの底に波紋の光が写り、ゆっくり広がるのが見えるのです。まるで空を泳いでいるかのような優雅な錯覚に落ち、うっかり息継ぎを忘れそうになることもございます。お仕事のことは考えません。ただ手足で水を掻いて息継ぎをする、それだけ。頭の中を空っぽにする感じは、座禅に近いかもしれません。

 冬にプールに通うわたくし。それは人生初の試み。健康のためのプールで風邪を引かないように精進したいと思っております。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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