倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.96「夫が悩まされた腹水の新見解」
漫画家の倉田真由美さんが夫を家で看取った経緯を著書『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』にまとめた。その中でも綴られているが「最期まで家で過ごす在宅緩和ケア」をもっと知って欲しいという想いがある。そんな倉田さんが、東京・江戸川区で開催された在宅医療のシンポジウムに登壇したときのエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』ほか、著書多数。
講演会に登壇したときのこと
先日、「しろひげ在宅診療所」の山中光茂院長と対談講演、そして単独でも少しお話しさせていただく機会を得ました。
ご家族、またはご自身ががんにかかっているかたもたくさん聴きに来られていました。ほとんどのかたは病院ではなく自宅で最期まで過ごしたいと願っていて、それをどう実現していくか、手探りで日々を過ごされているようです。
「実は私自身ががんで。お話聞けてよかったです」
「今日は病身の母と一緒に来ました」
講演終わりに、何人かとお話しすることもできました。
私も夫の看取りを体験するまでは、末期がん患者が自宅で過ごすということがイメージできず、「自分の手に負えることではないに決まっている、夫だってきっとホスピスなど施設に入るほうがいいだろう」と思い込んでいました。
でも、そうとは限らないことを知りました。たった一度の体験ですが、夫と最期まで一緒にいたことでたくさんのことを学びました。
山中院長はこれまでに1000人以上のお看取りをしてこられました。その多くががん患者だそうです。その体験を通した印象深いお話を聞けました。
私もいろんな医師のかたにお会いしましたが、山中先生からしか聞いたことがない話もありました。それは「針で抜かなくても腹水は抑制できる」ということ。これには驚きました。
「水分を摂りすぎないようにうまくコントロールすれば、腹水は溜まらないんですよ。がんの終末期の患者さんをたくさん診ていますが、腹水を抜かなくてはならなかった人は僕のところではほとんどいません」
夫は最期の2か月間ほど腹水に悩まされました。腹水を抜くたびに一時だけ楽になってもすぐに戻ってしまうし、体力がガタ落ちして、横で見ていて本当につらかったです。でも水分の摂り方を指導されることはなかったし、「一瞬でもいい、楽になりたい」と週に一度腹水を抜く夫に「抜かないでほしい」とは言えませんでした。
病院勤務ではなく訪問医だからこそ、見えること、知れること、できることもあるのでしょう。もちろん逆もあるでしょうが、いろんな医師の見解を聞くのは意義深いです。
多くの人に伝えたい言葉
そしてもう一つ、山中院長が言っていた、多くの人に伝えたい言葉。
「我慢しなくていい、痛い時は痛い、嫌な時は嫌だと医師に言って。家族や医師の手を煩わせることを恐れなくていい」
日本では我慢強さを美徳とするような風潮もあり、言いたいことを言わずに黙っている人は多いです。特に医師に対しては、「お医者さんに嫌われたくない」「メンツを潰してはいけない」という思いから、本当は薬が効いていないのにそれを伝えられなかったり、副作用がつらいことを言えなかったりする人もいるようです。
そんな我慢は一切しなくていい。
こうやって書くと当たり前のことですが、医師のほうからそれを言ってもらえると随分気が楽になるものです。
夫は我慢なんてしない人だったけど、夫の存命中に山中院長の話も聞いておきたかったな、と思いました。
