《たんぱく質不足は要介護リスクに》「片足立ちで靴下をはけない人」は要注意!サルコペニアやフレイルの“危険性”を医師が解説
シニア世代こそたんぱく質の摂取が重要であると話すのは『医者が考案したたんぱく質をたっぷりとる長生きスープ』(アスコム)を上梓した、医師の土田隆さん。たんぱく質が不足すると、要支援・要介護につながる可能性があると指摘する土田さんに、詳しく教えてもらった。
教えてくれた人
土田隆さん/医師
つちだ・たかし。よこはま土田メディカルクリニック院長、日本医師会認定産業医、日本体育協会公認スポーツドクター。東邦大学医学部卒業後、東邦大学医療センター大森病院脳神経外科学教室入局、磯子脳神経外科病院設立と同時に赴任。1989年、同院副院長就任。磯子中央病院合併と同時に同院副院長就任。磯子中央病院健康管理センター発足とともにセンター長兼任。2011年、よこはま土田メディカルクリニック開設。著書に『たった2週間で内臓脂肪が落ちる高野豆腐ダイエット』(アスコム)など。
たんぱく質が不足すると運動器の故障につながる
要支援・要介護になる原因のトップは「運動器の故障」だ。運動器は筋肉・骨・間接・神経などの総称で、歩く・立つ・座るなど日常的な動作を行うのに必要なもの。運動器は連携して働くため、ひとつでも故障すると、相互に悪影響を及ぼす。
なかでも、筋肉は意識しないとすぐに減ってしまう。筋肉が衰える理由としては、運動量の減少や、加齢に伴って、食べたものの消化が悪くなり、栄養がうまく体に行きわたらなくなること、成長ホルモン・性ホルモンが減少すること、慢性的な体内の炎症などが考えられる。
筋肉が衰えると、ほかの運動器に負担がかかったり、痛みで動く意欲を失ってしまったりと、負のスパイラルにおちいる可能性もある。筋肉を維持するためには運動することも大切だが、筋肉の材料となるたんぱく質や、たんぱく質を構成するアミノ酸、とりわけ、BCAAと呼ばれる「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」といった3つの必須アミノ酸をとることが大切だ。
BCAAは、疲労物質をエネルギーに変換させるサイクルをスムーズに回す働きがあり、疲労回復に役立つほか、運動後に摂ることで傷ついた筋肉の修復を早める効果も期待できる。
「たんぱく質やBCAAをとり、筋肉をつけてよく動く体を維持することは、要介護予防・転倒予防・認知症予防に欠かせません」(土田さん・以下同)
冷えやむくみも筋肉不足によるもの
シニア世代に多い冷えやむくみも筋肉の衰えによるものであることが多い。ふくらはぎの筋肉は、下半身の血液を心臓に押し戻すポンプのような役割を担っているが、筋肉が衰えると、この押し戻す力が弱まり、下半身の血流が滞る。さらに、重力で下半身に血液がたまると、血液中の余分な水分が血管外へ漏れ出てしまい、むくみとなる。
「一見すると『太ったのかな?』と思いがちですが、膨らんでいる部分を指で押してみて、指を話してもその部分が数秒凹んだままだったら、それはむくんだ状態です」
「チェックリスト」でたんぱく質不足をチェック
シニア世代で1日に必要なたんぱく質の量は約50~60gで、1食当たり約20g、肉や魚でいうと約100g、豆腐で1丁(300g)ほどの量だ。BCAAは1日の必要量が2000mgと言われているが、「筋肉を増やすことを目指すなら、1.5倍の3000mgが理想だと思います」と土田さん。
鶏むね肉なら100g中に約4000mg、豆腐1丁なら約3120mgのBCAAが含まれているため、たんぱく質の必要量を満たせば、BCAAの必要量も満たすことができる。
今の自分がたんぱく質やBCAAを十分に摂れているかどうか、チェックリストで確認してみよう。
《チェックリスト》
・片足立ちで靴下をはけない
・家の中でつまずいたり、すべったりする
・階段を上がるのに手すりが必要である
・掃除機の使用や布団の上げ下ろしなど家のやや重い仕事が困難である
・2kg程度(1リットルの牛乳パック2個程度)の買い物をして、持ち帰るのが困難である
・15分くらい続けて歩くことができない
・横断歩道を青信号で渡り切れない
※出典 日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム 予防啓発公式サイト ロコモオンライン
「1個でもチェックがついた方は要注意。たんぱく質、とりわけBCAAが不足し、すでに筋肉がだいぶ衰えている可能性が高いです。場合によっては、将来的に介護が必要になる可能性も。加齢による筋肉の衰えはサルコペニアと呼ばれ、早ければ60代から始まります」
要介護状態を防ぐには筋肉が大切
加齢によって、全身の筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する「サルコペニア」を防ぐにも、筋肉を衰えさせないことが大切だ。
「『サルコペニア』が進むと、筋肉や骨、間接などの運動器に障害がおき、『立つ』『歩く』などの移動能力が低下する『ロコモティブシンドローム(ロコモ)』という状態に。さらに進行すると、要介護の一歩手前の『フレイル』と呼ばれる状態になります」
心身の活力が低下した「フレイル」
「フレイル」は、心身の活力が低下した状態を指し、認知症やうつ、孤立などの認知機能と精神的・社会的要素も含むのが特徴だ。要介護へと移行する中間段階にいる状態であり、この状態になると外出や人と会うことを億劫に感じるため、心身がますます衰えてしまう。
また、最近の研究では、若返りホルモンとも呼ばれる、筋肉が分泌する「マイオカイン」という物質が脳の認知機能を向上させることがわかってきており、筋肉が衰えると、このマイオカインの分泌も減少する。
「つまり『サルコペニア』の放置が『フレイル』につながり、さらに寝たきりや認知症にいたるということです。筋肉の衰えは、要介護への危険な第一歩なのです」
サルコペニア肥満にも要注意
サルコペニアのなかでも特に気を付けたいのが「サルコペニア肥満」だ。筋肉の衰えと肥満が同時進行している状態を指し、単純な肥満よりも高血圧や糖尿病を招きやすい。さらに最近の順天堂大学の研究発表では、サルコペニア肥満の人は、軽度認知障害のリスクが正常な人に比べて約2倍、認知症のリスクが約6倍になることがわかったそうだ。
肥満かどうかを知るためには、BMIを把握することが必要だ。BMIは肥満度を表す体格指数で、体重(kg)を身長(m)の2乗で割ると算出することができる。例えば、160cmで60kgの人であれば、60÷(1.6×1.6)で、BMIは23.4となる。
「BMIが25を超えた方は肥満です。そこに『歩行速度が遅くなった』『握力が弱くなった』など筋肉が衰えているサインが出ていれば、サルコペニア肥満の可能性ありといえます」
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