“油は体に悪い”は誤解!考え方が10年で大きく変化 専門医が教える脂質の正しい役割
肥満や生活習慣病になるからと“悪者”扱いされてきた油だが、むしろしっかり摂った方が、「脂肪が燃えやすい体になってやせる」「糖尿病やがんになりにくい」などのメリットが満載だと説くのは糖尿病専門医の山田悟さん。「油っこい食事を控えているのに、健康診断の数値がよくならない」という人にこそ読んでほしい、革新的メソッドを紹介する!
教えてくれた人
山田悟さん/糖尿病専門医北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長
糖質制限のトップドクターとして患者の生活の質を高める糖質制限食を糖尿病治療に導入。「ロカボ」という言葉の生みの親でもある。著書に『糖質疲労』『脂質起動』(いずれもサンマーク出版)など多数。
医学が解き明かす「脂質の本当の役割」。脂質への考え方が10年で大きく変化
「脂質を充分に摂ると太りにくくなり、血糖値の上昇も抑えられるので糖尿病予防になります」ーー健康に関するこれまでの常識を覆す考え方だが、一体どういうことなのか。糖尿病専門医の山田悟さんが言う。
「肉や油をたっぷり摂ると血管に脂がこびりついて心疾患や動脈硬化などを発症する危険性が高まると考える人は多いのですが、これは誤解で、医学的根拠はありません。むしろ、油を控えた方が心臓病の発症率や死亡率が高まったという研究報告があるほどです」(山田さん・以下同)
こうした研究報告を踏まえ、アメリカでは2015年に食事の摂取基準から脂質の上限を撤廃。脂質に関する考え方はこの10年で大きく変わったという。
「制限すべきは脂質ではなく糖質です。糖質の摂りすぎは、食後の高血糖や血糖値の乱れを招き、これが続くと糖尿病発症のリスクが高まるとされます。白米や果物、砂糖などに含まれる糖質は体内でブドウ糖に分解され、筋肉や脳を動かすエネルギーになる大切な栄養素です。しかし、食後に眠気やだるさなどを感じる場合は、糖質の過剰摂取によって体が疲れている(糖質疲労)可能性があります」
「糖質を半分にして脂質の摂取を増やす」が正解!
糖質による疲労を防ぐためには、1日の糖質摂取量を70~130gにするのが適正だと山田さんは言う。しかし、日本の成人は1日に平均230~300gの糖質を摂る。軽く1膳分(150g)の白米の糖質が約54g、天ぷらそば1杯が約71g、しょうゆラーメン1杯が約72gなので、山田さんが提唱する糖質量がいかに少ないかがわかる。
「私の経験則によると、適正な糖質摂取量で生活しているのは、日本人全体の4分の1以下だと思います。糖質疲労を予防するためには、白米などの主食の量をこれまでの半分にするのがおすすめです」
糖質の摂取量を減らした分、増やすべき栄養素が脂質とたんぱく質だ。
「肉や魚、卵、大豆食品などに含まれるたんぱく質は、体重1kgに対し1日に1.6gの摂取がおすすめです」
たとえば体重50kgなら摂取すべきたんぱく質は80gで、肉にすると400g前後に相当する。一方、脂質は「制限なく摂ってかまわない」と山田さんは続ける。
脂質は血糖値の上昇や食欲をセーブする
「脂質は体内に入るとエネルギー源となり、細胞膜やホルモンをつくる材料となります。また、脂質を摂ると小腸からインクレチンというホルモンが分泌され、これが食欲を抑えてくれます。ですから、油をたっぷり摂っても一定程度で食欲にブレーキがかかり、摂りすぎる心配はないのです」
インクレチンは、すい臓に働きかけてインスリンの分泌を早めるため、食後の血糖値の上昇を最小限に抑える働きもある。
「血糖はがん細胞のエネルギー源のため、高血糖が続くとがん細胞を成長させることにもなりかねません。したがって血糖値の上昇を抑える高脂質食は、がんの予防食にもなりえます」
高脂質食を続けると、1か月ほどで代謝が上がって脂肪をエネルギーに変えやすい体に変化する。すると、体内の余分な脂肪が燃えやすくなり、太りにくい体になるという。
「脂肪を燃やすシステムが起動することを私は“脂質起動”と呼んでいます。このシステムが活発になると、血中の中性脂肪が低下して、善玉コレステロールが増えやすくなります。特に朝食で脂質をしっかり摂取すると満足感から間食を避けられ、一石二鳥です」
思い込みを捨て、「脂質で健康になれる」と常識をアップデートしておこう。
脂質に関する“ウソ”がこんなに
【1】「油を摂ると太る」はウソ!
【2】「コレステロール値が上がる」はウソ!
【3】「動脈硬化、脂質異常症になりやすい」はウソ!
【4】「低脂肪食品が健康にいい」はウソ!
【5】「野菜から食べた方がいい」はウソ!
【6】「朝食に果物がいい」はウソ!
※監修/山田悟さん
脂質の摂り方5つの基本ルール
【1】糖質を控えて、脂質とたんぱく質をたっぷり摂る
【2】脂質とたんぱく質を最初に食べる
【3】朝、脂質をしっかり摂って、「眠れる脂肪」を起こす
【4】脂質を摂る習慣をつけ、脂肪をエネルギー源とする体にする
【5】脂質は代謝を上げるので、運動しないときこそ摂る
※監修/山田悟さん
取材・文/上村久留美 写真/Getty Images
※女性セブン2025年9月11日号
https://josei7.com
●10か月で25kgの減量に成功した医師が考案 コレステロール値を改善 「7秒座り」「耳のくしゃもみ」
●血糖値の上昇を抑える体質作り <曜日別の1週間メソッド>薬に頼らず数値を下げる“生活習慣”と“体操”を専門医が指南
●《ランチ後に眠気を感じたら要注意》「糖質控えめ・脂質たっぷりの食生活」がアルツハイマー型認知症の予防になりえる理由とは?