「90代女性、2人の孫にお金を渡したいが、贈与税や自分の介護費用も心配」実例相談をもとにFPが回答
これまでコツコツためた預貯金が1000万円あるという90代の女性。生きているうちに子どもや孫にお金を渡したいと考えているが、贈与税がかかることや、自分の介護費用も心配だという。そんな実例相談をもとに、資産の有効活用法について、ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
相談事例「子どもや孫に財産を贈与したいが自分の介護費用も不安」
90代前半の要支援1のAさんからのご相談です。Aさんは、最近物忘れを感じてきて不安になり、預貯金を整理して、息子さんやお孫さんに渡したいと考えています。
息子さん一家と話し合いながら、使っていない銀行口座の解約など財産の整理を進めています。
預貯金を整理していくうちに、Aさんは「自分が亡くなってから財産を渡すのではなく、元気なうちに渡して子どもや孫の喜ぶ顔が見たい」と思い始めました。しかし、「贈与税」のことや「もし介護で施設に入った場合」を考えると、果たして財産を渡していいものかどうか、悩まれています。
介護費用はどのくらいかかるのか?
生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2021年度)によると、介護の一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)は、平均74万円、月々の費用は、平均8.3万円、介護期間は平均5年1か月でした。
単純に介護費用を計算すると合計で580万3000円になります。つまり、おおよそ600万円弱の介護費用の準備が必要と考えられるでしょう。
同調査によると、介護費用は増加傾向にあります。今後も介護費用は自己負担2割の対象者の拡大や、ケアプラン※の有料化なども予定されており、介護費用の負担増の傾向は変わらないのではないでしょうか。
※介護サービス計画書。要介護認定を受け、ケアマネージャーが必要な介護保険サービスの活用や計画を立てるもの。
お年玉を渡したら贈与税はかかるの?
Aさんは、毎年お孫さんにお年玉を渡しています。Aさんは、まとまったお金を贈与しようと検討しているうちに、「ふと、お年玉も含まれるのかも」と心配になりました。以下の「贈与税がかからない財産」で確認しておきましょう。
贈与税がかからない財産
【1】法人からの贈与により取得した財産
【2】夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの
【3】宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う一定の者が取得した財産で、その公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
【4】奨学金の支給を目的とする特定公益信託や財務大臣の指定した特定公益信託から交付される金品で一定の要件に当てはまるもの
【5】地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人またはその人を扶養する人が心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利
【6】公職選挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し取得した金品その他の財産上の利益で、公職選挙法の規定による報告がなされたもの
【7】特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権
【8】個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの
【9】直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
【10】直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
【11】直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
【12】相続や遺贈により財産を取得した人が、相続があった年に被相続人から贈与により取得した財産
※参照 No.4405 贈与税がかからない場合 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4405.htm
上記「贈与税がかからない財産」の【8】によると、贈与税の対象にお年玉は含まれません。ただし、要件には「社会通念上相当と認められるもの」とあります。社会通念上という解釈が難しいところですが、Aさんは、お年玉を毎年1万円くらいの金額なので、社会通念上、妥当な金額だといえるでしょう。
贈与税の計算方法「速算表」を活用しよう
贈与税は、財産を「もらった人」(受贈者)で判定します。年間110万円までなら贈与税はかかりませんが、例えば150万円贈与した場合は、基礎控除の110万円を超えた分、40万円の10%が贈与税となり、4万円かかります。
なお、2015年1月から直系尊属から贈与により財産を取得した受贈者については、「特例税率」が適用されるようになりました。
贈与税を計算するときには、速算表を使用すると便利です。
<特例贈与財産用>(特例税率)
贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において18才以上の者に限ります)が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算で使用します。
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
<一般贈与財産用>(一般税率)
「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
※参照 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税) 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
贈与しても介護になっても安心の金額とは?
Aさんは、年金収入が約60万円、預貯金がおおよそ1000万円強あります。不動産など他の資産はなく、相続税基礎控除の範囲内のため、相続税はかかりません。
ご相談の結果、Aさんは息子さんとその妻、2人のお孫さんに110万円ずつ贈与することを決めました。
残りの預貯金は600万円くらいとなりますが、前述のように介護のための準備資金としては十分な金額といえそうです。仮に介護になった場合でも介護保険施設なら、一定の要件を満たせば「食費・居住費」の軽減※も受けられるなど、家族に迷惑かけることも少ないだろうというご判断です。
もしも介護でお金が必要になったときは、息子さんから「家族で支援するから安心して」と言われたのが最後の決断につながったとのこと。贈与により子どもや孫の喜ぶ顔を見ることができ、大変嬉しかったそうです。
孫や子どもに生前贈与するときの注意点【まとめ】
元気なうちに子どもや孫に財産を渡したいと思っても、贈与の金額によっては税金を支払わなければならず、ご自身が介護になったときの費用が不足する可能性もあります。介護費用を考慮しながら、贈与金額を検討する必要があるでしょう。贈与税の精度を理解した上で、ご自身の財産を有効活用してほしいと思います。
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