医薬品の元審査員が明かす「急性腎障害」の副作用リスクがある処方薬リスト【医師監修】
尿の生成と排泄を司る「腎臓」は、年齢を重ねるほど不調を起こしやすい。腎機能の低下は時に死に至る重病につながる重大な関心事項だが、普段飲んでいる「薬」がきっかけで腎障害を誘発するリスクもある。処方薬でそうした副作用がある薬を徹底調査した。
教えてくれた人
谷本哲也さん/医師・ナビタスクリニック川崎院長、長澤育弘さん/薬剤師・銀座薬局代表
腎障害のなかでも特に要注意な「急性腎障害」
小林製薬の紅麹サプリによる健康被害問題の発覚後に実施された日本腎臓学会による調査(中間報告)では、摂取していた患者の半数以上に「腎機能障害」が認められ、腎臓の尿細管機能が低下する「ファンコニー症候群」が多く見られた。
原因究明を進める厚生労働省は、9月18日、製品に混入した「プベルル酸」が今回の腎障害の「原因と強く推定される」と発表した。
今回の一件で改めてわかったのが、「腎臓」という臓器に障害が生じることの怖さだ。
腎臓に影響を及ぼす原因は様々あるが、日常的に服用する薬の「副作用」がきっかけで問題が起こるケースについても知っておきたい。
医薬品の審査や安全対策を担う独立行政法人PMDA(医薬品医療機器総合機構)で審査員も務めた谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎院長)が語る。
「薬の副作用で起こる腎障害は『薬剤性腎障害』と呼ばれています。頻繁に起こるわけではないが、長期に薬を服用する場合などには、副作用リスクを評価するため、定期的に尿検査や血液検査を行ない、腎臓の機能に異常がないかを確かめる必要があります」
もちろん医師も「薬剤性腎障害」については承知している。だが、実際には腎機能が低下した人に対しても、リスクのある薬が処方されている現実があるという。
薬剤師の長澤育弘氏(銀座薬局代表)はこう指摘する。
「受診する病院が複数にわたる場合、医師がほかの病院で処方された薬に気付けないこともある。血液検査や健診を受けたがらない人も多く、医師側が腎機能の状態を十分に把握できないケースもあります」
腎障害のなかでも特に注意が必要なのは「急性腎障害」だ。
「急性腎障害は数時間から数日の間に急激に腎機能が低下します。尿から老廃物を排泄できず、体内の水分量や塩分量などが調節できなくなり、無尿(尿が出なくなる)やむくみ、倦怠感といった初期症状が現われます。重症化すると呼吸不全や痙攣、昏睡状態に陥ることもある」(谷本医師)
急性腎障害は、時に命にかかわることもある。
「重症度や併存症により異なりますが、死亡率は約10%とされ、重症の場合はさらに死亡率が高くなる。死に至らなくても、人工透析の治療が必要になるケースがあります」(長澤氏)
本誌はPMDAが公表する医薬品の情報検索を利用し、医療用医薬品の「薬効分類」から身近な薬の添付文書を調査。文書内の「重大な副作用」に「急性腎障害」の記載がある先発医薬品を抽出し、リストを作成した。
副作用に「急性腎障害」が記載されている主な薬リスト
PMDAのHPに掲載されている医療用医薬品の添付文書のうち、重大な副作用として「急性腎障害」(横紋筋融解症による急性腎障害、急性腎障害を呈した腎機能障害、急性腎障害に至る尿細管間質性腎炎を含む)の記載がある医薬品から先発医薬品、準先発品を抽出し作成。
降圧剤にも急性腎障害の副作用を持つ薬があった
「一般的に80代の腎機能は30代の半分しかないと言われます。高齢者ほど、腎障害を起こしやすい。服用する薬にどんな副作用リスクがあるかを知ることは、非常に重要です」(同前)
具体的にどのような薬にリスクがあるのか。副作用に急性腎障害がある薬のなかで、代表的なのが「解熱鎮痛薬」だ。
「薬剤性腎障害の原因になる薬で最も症例が多いのが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。体内で血流を維持する物質『プロスタグランジン』の生成を抑えることで炎症や痛みを和らげるのがNSAIDsの作用機序ですが、この作用で腎臓への血流が悪くなり、腎機能を低下させ、腎障害を引き起こすとされます」(長澤氏)
一度飲み始めると長期的に服用するケースが多い「降圧剤」にも、急性腎障害の副作用を持つ薬がある。谷本医師が言う。
「ACE阻害薬やARBは腎臓の濾過フィルター『糸球体』の濾過量を減らすため腎保護作用がありますが、腎臓の血流も減少する。腎機能が低下していたり、心不全のある場合、特に脱水時に急性腎障害を引き起こす可能性があります」
主に腎臓で代謝される胃腸薬も成分が体内に残りやすく、副作用リスクが高まるという。
「一部のH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)は、『間質性腎炎』と呼ばれる、腎臓の尿細管周囲の組織が炎症を起こす副作用があり、これは急性腎障害の原因の一つになっています」(同前)
脂質異常症治療薬などの重大な副作用欄には「横紋筋融解症」が「急性腎障害」を引き起こす可能性が記されている。
「『横紋筋融解症』は骨格筋の筋細胞が融解・壊死することで筋細胞の成分が血液中に流出し、筋肉痛や脱力症状を生じさせます。
その際、流出した大量の筋細胞成分『ミオグロビン』で尿細管が閉塞し、急性腎障害を併発することが多いとされます。薬の副作用で発症した横紋筋融解症による腎障害も、『薬剤性腎障害』の一つです」(長澤氏)
血栓予防のために血液をサラサラにする抗凝固薬については昨年11月に添付文書が改訂され、重大な副作用に「急性腎障害」が追加された。
長く使われている身近な薬でも、症例が積み重なることで「新たな副作用」が見つかることがあるわけだ。日々更新される副作用に、どう対処すべきなのか。
「医師は患者さんの状況や病歴を見たうえで病状に合う薬を処方します。同じ薬でも腎機能に影響が出にくい有効成分もあり、副作用が出た場合は薬の種類を変えることで改善することも可能です。心配があれば、かかりつけ医に相談してみるといいでしょう」(谷本医師)
写真/PIXTA
※週刊ポスト2024年10月18・25日号
●改めて考えたい「紅麹サプリの問題点」腎機能障害のリスクや課題を医師が解説「腎臓は重大疾患の元凶だった」