がん予防に<筋肉>が大切な4つの理由とおすすめ筋トレ4選「がん患者の死亡リスクが3分の2に減少」調査結果も【医師解説】
医療の進歩によって「治る病気」になりつつあるとはいえ、いまも年間30万人近くが亡くなっている「がん」。医学的根拠に基づくものから迷信に近いものまで、日々さまざまながん予防法が模索される中、驚くほど簡単に取り組めて効果的とされるのが「筋トレ」だ。筋肉が「発症率」や「死亡率」を下げる理由やおすすめの筋トレについて、専門家が解説する。
教えてくれた人
佐藤典宏さん/がん専門医・帝京大学福岡医療技術学部教授
週1回以上の筋トレで「死亡リスク33%低下」
《筋肉を鍛えるトレーニングマシンに特化した24時間ジム「エニタイムフィットネス」の収益が過去最高に》
《RIZAP(ライザップ)グループが作ったコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」の会員数が約2年で120万人超え》
—ー多くの人がこぞって取り組む「筋トレ」は、体力づくりはもちろん、アンチエイジングからメンタル強化まであらゆる効果があることが、さまざまな研究によって明らかになっている。特にいま医学界が注目しているのは、「がん」に関する驚くべき効能だ。
帝京大学福岡医療技術学部教授でがん専門医の佐藤典宏さんが言う。
「米国臨床腫瘍学会が2022年、がん治療中の患者に対し“治療に伴う副作用軽減のため、レジスタンス運動(筋力トレーニング)や有酸素運動を推奨する”というガイドラインを発表しました。
実際、2014年にアメリカで行われた研究では、週1回以上筋トレをしているがん患者は、何もしていない患者と比べて、がんによる死亡リスクが33%も低いという結果が発表されました。
すでに発症したがんの進行を抑える作用も
同じくアメリカで約144万人を対象に行われた大規模調査でも、活発に運動する人はそうでない人に比べて、がん発症リスクが7%低下しました。
個別のがんにおいても、食道がん42%、肝臓がん27%、肺がん26%、子宮体がん21%と、13種類の発症率が下がることが明らかになっています」
健康維持における「筋肉」の重要性が広く認知されている欧米では、筋トレをがん治療の一環として取り入れることはもはや常識に近い。日本でも同様の流れが起きつつあると、佐藤さんは話す。
「いまもっとも注目されているのは、2022年の東北大学、早稲田大学、九州大学らによる発表です。
16の信頼度の高い論文を調査したところ、週30分の筋トレを行うことで、がんの発症リスクが9%低下することがわかったのです。週40分になると、総死亡リスクが17%も下がる。つまり筋トレは、がんを予防するだけでなく、すでに発症したがんの進行を抑えることにも役立つ可能性が高いといえます」(佐藤さん・以下同)
「筋トレ」ががんを遠ざける4つの理由
なぜ、筋トレががんを遠ざけるのか。その理由は大きく4つあると、佐藤さんは言う。
「1つめは、がん治療の妨げになる、筋力の著しい低下『サルコペニア』を防げること。がんの治療中は入院や手術などによって体を動かす機会が大きく減ることに加え、抗がん剤の副作用などで食が細くなることから筋肉量が減りやすく、これが治療効果を下げ、手術後の合併症を招いて死亡リスクを上げることがわかっています」
がん患者にとって、筋力の低下は死活問題なのだ。
「筋力をつけることは治療の一助となるとともに、がん予防にもつながります。筋トレをすることで、がんの一因である『高血糖』対策になるのです。糖尿病の人はそうでない人よりもがんの発症率が1.2倍も高く、高血糖は発症したがんの進行も早めることがわかっています。
筋トレはこれを予防することができる。筋肉はエネルギー代謝が活発なので、筋トレをするほど糖質が代謝され、血糖値が上がりづらい体質に近づくことができます」
また、筋肉を動かすと、がんに打ち克つための免疫力を高めることにもつながる。人間の体にはもともと、体内で発生したがん細胞を攻撃する機能が備わっており、筋トレをするとその機能を一時的に“底上げ”することができるのだ。
「免疫細胞の発育には筋肉が必要なことがわかっており、筋肉量が減ると免疫力は低下します。また、筋トレ直後は、がん細胞などの異常を見つけると真っ先に攻撃・殺傷する『NK細胞』が急増することもわかっています」
さらに最新研究では、筋トレは“天然の抗がん剤”の分泌を促すことが明らかになった。
「体を動かすと、筋肉から『マイオカイン』という生理活性物質が分泌されます。マイオカインには、大腸がんを抑える『スパーク』というホルモンのほか、乳がんや肺がん、すい臓がんなどの増殖を抑えるとされる『イリシン』などいくつか種類があり、これらにがんの発症リスクを下げたり、進行を抑える働きがあると考えられています」
予防・治療に特に効果が期待できる筋トレ
「日本人の2人に1人ががんになる」といわれているいま、すぐに始められて抗がん作用を得られる筋トレを生活に取り入れない手はない。
予防・治療の両方に特に効果が期待できるのは「腕立て伏せ」「プランク(うつ伏せの状態で体を前腕やひじ、つま先で支える体幹トレーニング)」「スクワット」の、スタンダードな3つの筋トレだ。
「腕立て伏せが難しければ、立ったまま壁に手をついて寄り掛かり、腕立て伏せと同じ要領でトレーニングするのもおすすめです。
プランクは頭からかかとまで体をまっすぐに保つように意識するのがポイント。
スクワットは両腕を体に対して垂直にまっすぐ伸ばした状態で、お尻を突き出さないように気をつけながら、息を吐いて真下に腰を落とします。
腕立て伏せとスクワットは1セット10回として2~3セット、プランクは1セット1分間を2~3セット。これを週に1回以上行うといいでしょう。
どれも全身の筋肉を鍛えるのに効果的ですが、全身の筋肉の6~7割は下半身に集中しているため、強いて言えばスクワットなど、下半身を中心に鍛えるトレーニングがよりおすすめです」
初心者におすすめは「週2回」「ながら」筋トレ
とはいえ、いきなりスクワットから始めるのはハードルが高いという人も多いだろう。運動習慣がない人やいまの筋力に自信がない人に向けて佐藤さんがおすすめするのは、座ったままできる「もも上げ」だ。
「背筋を伸ばしていすに浅く腰掛け、左右の足の間を肩幅程度に広げます。そこから片方の足を上げて5秒間キープし、ゆっくり下ろしてください。テレビを見ながらでもできるので、気軽に取り組めますよ」
歯みがきをしながら「かかとの上げ下げ」をしたり、スマホを見ながら「寝ながら足上げ」をするのもいい。
背中やお尻の大きな筋肉を鍛えるには、「寝ながらお尻上げ」がおすすめ。
「あお向けの姿勢からひざを立て、ひざから肩までをまっすぐに保ったままお尻を上げるトレーニングです。5秒キープしたら、ゆっくりとお尻を元に戻し床につけます。
ほかの筋トレに比べるとややキツいですが、息を止めてしまうほど力むのはNG。ゆっくりと呼吸しながら、無理のない範囲で行ってください」
“抗がん筋トレ”は、ハードなトレーニングである必要はないのだ。だが、まったく負荷を感じずに「ラクラク」できてしまうようでは意味がないと、佐藤さんは続ける。
「軽々こなせるようなトレーニングでは、筋肉量を増やすことも、がん予防になるだけの刺激を筋肉に与えることもできません。
それぞれのトレーニングを10~20回を1セットとして1日2~3セット、理想はそれを週に2、3回行ってほしい。“できるけれど、少しキツい”と感じるくらいがいいでしょう。
筋トレはやりすぎに注意「発がんリスクが上がるケースも」
ただし、やりすぎは禁物です。週30~40分の筋トレでがんリスクが低下した一方で、筋トレの時間が週130~140分を超えると逆に発がんリスクや死亡リスクが上がるという指摘があるのです。
その原因は明らかになってはいませんが、おそらく激しい運動を続けることで慢性炎症が起き、それががんの発生につながっているのではないかと考えられます。特に、すでにがんに罹患している場合は自己判断で行わず、必ず主治医に相談のうえで行ってください」
4つの筋トレでがんを予防しよう!
家事や趣味をしながらでもできる、がんを退ける“筋肉貯金”。今日から始めて、健康寿命を延ばそう。
【1】座ってもも上げ
左右の足を肩幅程度に広げて座り、片足を高く上げて5秒キープ。下ろしたら反対側の足も同様に行う。左右10回ずつを1セット。
【2】かかとの上げ下げ
左右の足を肩幅程度に広げて立ち、かかとをゆっくり上げて5秒キープし、ゆっくり下ろす。10回を1セット。
【3】寝ながら足上げ
両脚を伸ばして横になり、片手で頭を支え、もう片方の手は床につく。上になっている足をゆっくり上げて5秒キープし、下ろす。片足につき、10回を1セット。
【4】寝ながらお尻上げ
<1>両脚を伸ばしてあお向けになる。
<2>ひざから肩までがまっすぐ一直線になるように意識しながらゆっくりとお尻を浮かせて5秒キープし、ゆっくり下ろす。10回を1セット。
【レベルアップ】
慣れてきたら片脚をまっすぐ伸ばしたポーズを保ったまま同様に行うと、負荷を増やすことができる。
イラスト/勝山英幸
※女性セブン2024年7月25日号
https://josei7.com/
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