倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.36「昏睡状態、二人きりの時間」
夫の叶井俊太郎さんがすい臓がんにより旅立ってから5か月、妻で漫画家の倉田真由美さんは涙を流さない日はない。それでも「時間がたったおかげです」と夫が旅立つその刻を振り返り、克明に明かしてくれた。夜明けまでもたないかもしれない——その後のエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫と二人きりの部屋
訪問医も帰って、部屋は私と夫の二人きり。介護用ベッドに横たわる夫は、いつもの寝顔とは違う顔で荒い呼吸を繰り返していました。ただ寝ているのではない、昏睡状態だったのだと思います。
「夜明けまでもたない」
ついさっき医師から言われた4度目の余命宣告。
私はつい数時間前、シャワーを浴びたばかりの夫と交わした言葉や夕食にマグロやイカの刺身を食べていた夫の姿を思い出していました。
あんなに普段通りだったのに、いきなりいなくなってしまうの?歩けなくなったり話せなくなったりもっといろんなことができなくなって、いなくなる覚悟をするのはそれからじゃなかったの?
ただ、S先生が来るまで間断なく襲ってくる吐き気と闘っていた姿よりは、楽そうには見えました。寝息は荒いけど、痛かったり苦しかったりがないなら、夫はそれを一番恐れていたから、そうじゃないといいなと夫の顔を見ながら願いました。
普段、私は別室で寝るんですが、この日は夫の側で横になりました。いつも夫が座っている座椅子に身体を伏せながら、まんじりともできませんでした。
もっともっと優しくすればよかった
「夫の意識があるうちに、もっともっと優しくすればよかった」
夫が普段通りだったから、私も普段通りでした。格別優しい言葉をかけたり、片時も離れず傍にいたりはしていません。たくさん話もすればよかったのに、いつもと変わらないやり取りがあっただけでした。
本当にこのままいなくなってしまうのだろうか。日が昇る頃にはもういないのだろうか。
いや、そんなはずはない、と宣告された期限を信じていないところもありました。だって、今までも言われた余命を超えてきたから。
ふと思いついて、夫の妹に電話しました。今年に入ってから、彼女は私がいない時に夫の傍にいてくれることが何度かありました。夫が元気な頃はそれほど交流は多くなかったですが、夫にとっては私以外で唯一安心して身体を預けられる相手でした。
深夜、それもかなり深い時間だったので連絡つかないかもと思いましたが、彼女は電話に出てくれました。
「今すぐ行く」
事情を話すと、彼女は即断しました。深夜1時を回っていましたが、夫の妹が来ることになりました。
――このエピソードは次回に続きます(7月19日18時公開予定です)。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』