倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.35「急変、そして最後の余命宣告」
漫画家の倉田真由美さんの夫、映画プロデューサーの叶井俊太郎さんが亡くなる前夜のこと、21時過ぎ、シャワーに入って髪を洗って髭を剃り自分の足で歩いていた。そんな夫の様子が急変したのが22時過ぎ、そして最後の余命宣告が告げられて――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
23時頃、訪問医のS先生が到着
「先生呼んで」
吐き気が止まらない夫が言い出したのは、夜中の22時過ぎ頃。今までもっとひどく吐いていたこともあったので私はあまり深刻にはとらえていませんでしたが、「夫がそれで安心するなら」と訪問医のS先生に連絡しました。
「先生、すぐ来るって」
いつもの痛み止めを飲ませて、夫の様子をみていると玄関のチャイムが鳴りました。23時くらいだったと思います。
「胃液っぽいものを何度も吐いていますが、熱はありません」
私の説明を聞きながら、S先生は夫の血圧を計りました。夫は朦朧としながら「痛いのとか苦しいのはやめてくれ」と叫ぶように言いました。
「血圧が計れないほど低い。これで座って話せているのが信じられない」
私はびっくりしました。
「そんなに、状態悪いんですか」
「上が50台。普通なら昏睡状態です」
荒い寝息を立て始めた夫
S先生は夫の腕に注射を打ち、それまで座椅子にもたれていた夫を私と二人で介護用ベッドに寝かせました。
夫は、それまで聞いたことのない荒い寝息を立て始めました。もう反応はありません。
「夫、ちゃんと戻れますか」
「いや、もう厳しい。夜明けまでもたないでしょう」
私は耳を疑いました。
「え?戻れない?」
「難しいと思います」
「もう話せないんですか?」
「おそらく無理でしょう」
そんな、だってさっきまで一人でシャワー浴びてたよ。普通に話してたし。ご飯も食べた。久しぶりに冗談も言ってたのに、もう戻ってこれないって、そんなことってある?
勝手に涙が出てきて止まりませんでした。
まだ、そんな覚悟なんかできない。夫がいなくなるなんて、そんなことはもっとずっと先のはず。
S先生は、「もしもの時はまた電話してください」と言い残して帰っていきました。夫の荒い寝息は変わりません。苦しそうです。
私は呆然と、夫がさっきまでもたれていた座椅子に座り込みました。
「夜明けまでもたない」
これが、4度目の余命宣告です。
――このエピソードは次回に続きます(7月13日18時公開予定です)。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
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