倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.37「握り返してくれた手、最期の会話」
2024年2月16日、すい臓がんにより永眠された叶井俊太郎さん(享年56)。妻で漫画家の倉田真由美さんが、夫の最期の刻を克明に綴るエピソード。昏睡状態に陥った夫の側でまんじりともできず夜を明かし――。そして、夫婦が最期にかわした会話とは。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
深夜、夫は昏睡状態。義妹がやってきて…
2024年2月15日深夜、夫は急激な状態悪化で医師を呼び、その後意識を失いました。医師からは「夜明けまでもたない」との宣告。私は夫の荒い呼吸音を聞きながら、夫の妹に連絡をしました。
深夜2時は過ぎていたと思いますが、玄関のチャイムが鳴りました。義妹の到着です。
「俊ちゃん、どう?」
部屋に上がり、意識のない夫の顔を見た義妹が聞きました。
「血圧が計れないほど低くて…医師にはあと数時間、朝までもたないって言われた」
義妹と話している時、私は泣いていたのか涙が枯れていたのかあまり記憶がありません。でも義妹が来てくれたこと、夫の側に一緒にいてくれることを心強く感じていたことは覚えています。
「そんなことないでしょ。今までだって大丈夫だったんだから」
義妹がきっぱり言いました。彼女は家族の中で一番夫に似ていて、思考は思い切りポジティブです。
「そうだよね。まだ死なないよね」
「うん、死なないよ」
彼女の言葉は私を勇気づけてくれました。しばらく二人で夫の側にいて様子を見ながら話していましたが、やることもないので彼女にはとりあえず別室で寝てもらうことにしました。
朝4時、夫の表情に変化が
再び一人になり、私も夫の横で座椅子に寝そべりました。でも眠れません。ただじっとうずくまっていました。
疲れていたせいか、考えたくなかったせいか、この時の自分は悲しいとか辛いとか怖いという気持ちすら湧かないほど真っ白だった印象だけが残っています。
朝4時を過ぎた頃でしょうか。夫の荒かった呼吸が、徐々に穏やかになってきました。顔を見ると、深夜の、今まで見たことのなかった険しい顔とは違い、柔らかな寝顔になっています。いつもの寝息、いつもの寝顔の夫です。
戻ってきた!よかった!
夫が戻ってきた!
あの時の嬉しさは忘れません。嬉しくて嬉しくて、しばらくの間、夫の寝顔を眺めていました。6時を過ぎて日が昇り、明かり取りの窓から光が入って来ました。その光を受けて眠る夫の横顔は、天使みたいに見えました。
一睡もしないまま座椅子に座ったり横になったりしていると、7時頃夫が目を覚ましました。起きたのが分かったのは、夫が私に声をかけたからです。
「俺、昨日やばかったよね」
意識が戻った夫の、最初の一言。
「うん。危なかったよ」
私は泣きながら答えました。
本当に戻ってきてくれた。この時夫は、4度目の余命宣告を跳ね返してくれました。
――このエピソードは次回に続きます(7月26日18時公開予定です)。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』