倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.102「夫の存命中と異なるお正月」
漫画家の倉田真由美さんは、夫の叶井俊太郎さんが旅立ってから2度目のお正月を迎えた。今年のお正月は久しぶりに実家に帰省し、大人数で過ごしたという。実母が用意してくれたお節料理を味わい、改めて感じたこととは。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新たな描きおろし漫画も収録した最新の書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
夫がいない2度目のお正月
数年ぶりに、正月を実家で過ごしました。
夫と私の実家の折り合いが悪かったため、夫が存命中は正月に帰省することはほとんどありませんでした。でも今年は実家で、妹家族も一緒に大人数で元旦の食卓を囲みました。
私の母は元々あまり料理が好きではない人で、私が子どもの頃からおせち料理を熱心に作ったことはありません。今年はチラシに入っていた宅配のおせちにした、と二重に重ねられた大きな平たい木箱を出してくれました。木箱は小分けに仕切られ、エビや黒豆など正月料理がちょこちょこと並んでいます。品数は、一般的な家庭で作るものよりかなり多めです。
「わあ、おいしそう」
高校一年生の娘は、いろんな料理が一度に並んでいるのが楽しいようで喜んでいました。私は正月のおせちは毎年伊達巻き、かずのこなど家族の好物しか用意しないので、娘にとって「何を食べようか迷う」ような見た目が華やかなおせちは初めての経験でした。
宅配のおせちは正月気分を盛り上げてくれましたが、やっぱり私にとっておせちといえば子どもの頃に毎年食べていた祖母手作りのおせちです。
おばあちゃんのおせち
私と妹は、夏休み、冬休みなど学校の長い休みは必ず山口県萩市にある祖母の家で過ごしていました。
祖母は料理上手な人でした。筑前煮、かずのこ、色寒天、エビのうま煮、伊達巻き、黒豆、ごまめ、昆布巻き、たたきごぼう、紅白なます…すべて祖母の味で育ちました。栗の渋皮煮、栗きんとんは庭の畑で獲れたさつまいもと裏山の栗の木に実った栗で作っていました。思えば、贅沢なおせちでした。
毎年食べていたのに作り方を教わらないままだったので、かずのこの味付けなど祖母の味を再現しようとしてもなかなか成功しません。なので結局、元々味がついているものを買っています。でも祖母の味がそうだったように、もう少し味がマイルドだともっと美味しいのになあといつも不満を覚えてしまいます。
そして今回改めて感じたこと、それは「好物ではなくても、伝統料理を味わう機会を設けるって意味がある」ということ。
子どもの頃、たたきごぼうやごまめ、なますはあまり好きではありませんでした。今も特別好物というわけではないため、縁起物ではあるけど作ることも買うこともなかったですが、こういう機会に少しでも食べておくって大事なことかも、と思い直しました。事実、娘は今回初めて口にしたものがいくつかありました。
私自身、好物ではなくても子ども時代にちゃんと食べていたじゃないか。
何十年経っても、おばあちゃんの作った紅白なますの味は覚えている。
食べたことがある、見たことがある、味がわかるって、それだけで財産だ。
来年の正月をどこで過ごすかはまだ決めていませんが、自分で用意する時はもうちょっとバリエーションを増やしてみるか、という気持ちになっています。
