「排泄ケアは人の尊厳にかかわること」皮膚・排泄ケア特定認定看護師が考えるおむつ選び、はじめの一歩
おむつによる肌トラブルや排泄ケアの知識を有する「皮膚・排泄ケア特定認定看護師」として、さまざまな情報を発信する看護師の浦田克美さん。排泄ケアについて学ぼうとしたきっかけや、患者さんと接する中で身につけたおむつのすすめ方、選び方などについて伺った。
教えてくれた人
皮膚・排泄ケア特定認定看護師 浦田克美さん
東葛クリニック病院看護部主任。皮膚・排泄ケア特定認定看護師としてYouTube「チャンネルはぴなぴ」やセミナーで、健康や排泄についてやおむつの正しい使い方など介護に役立つ情報を発信中。看護師として、介護する人・される人に寄り添った活動を続けている。
共著に『褥瘡ケアのプロになる 看護の技とおむつケア』(医学と看護社)など。
皮膚・排泄ケア特定認定看護師を目指した理由
介護でおむつやパッドを利用していたら肌がかぶれてしまったという経験がある人もいるのではないだろうか。そんなときに頼りになるのが排泄ケアに特化した資格「皮膚・排泄ケア特定認定看護師」をもつ看護師だ。
この資格にいち早く着目し、皮膚・排泄ケア特定認定看護師として活動する浦田克美さんに話を伺った。
皮膚・排泄ケア特定認定看護師とはどんなものなのか?そもそもこの資格を目指したきっかけとは?
「2人の男性患者さんとの出会いがきっかけで、この資格の必要性を感じたんです。
担当していた男性患者さんが、術後にストーマ(人口肛門)を使用することになったとき、ケアをする中で、これはもっと専門的に学ぶ必要があると思いました。
もうひとり、別の男性患者さんが入院中に、病室からトイレが遠かったことで、尿が漏れてしまったことがありました。
当時、担当していた看護師がとっさにおむつを持って行ったんです。看護師は良かれと思っての行動だったのですが、後から患者さんにお話を伺ったところ、プライドが傷ついたとおっしゃっていて…。
排泄に関することはとくに、患者様のお気持ちの受け止め方や寄り添い方が大事なのだと改めて感じた出来事でした。
どのタイミングでおむつを利用していただくのか、どんな風におすすめするのが適切なのか、看護師として知っておくべきだと感じました。
排泄は人の尊厳にかかわることだと考えています。おむつの着用に関してもそのかたを尊重することがとても大切だと思うんです。そんな想いが重なって、専門的に勉強したいと思いました」
排泄は人の尊厳にかかわること
「排泄に関するお悩みは一人ひとり異なります。疾患や術後で一時的におむつが必要なかたもいれば、介護が必要で日常的に利用されるかたもいらっしゃいます。
まずは、それぞれ利用されるかたのその時のニーズに合ったおむつを選ぶことが大切です。
寝たきりの状態なのか、少し尿漏れするけれどトイレまでは行くことができて自分で用を足せるのか。そのかたの状況によって、選ぶ紙おむつや尿パッドの吸収量が変わってきますので、よく観察することが大切ですね。
ある入院患者さんが、夜間におむつを利用されていたのですが、おむつから尿漏れしていたことがありました。おむつに尿パッドを併用していたのですが、このパッドの吸収量が少なかったということがありました。パッドの吸収量を多めのものに切り替えたところ、夜に安心して就寝されるようになりました」
おむつに抵抗を感じている人への対処法
「おむつを提案されてプライドが傷ついた」という浦田さんが接した男性患者さんのように、おむつ着用に抵抗を示す人も多いという。
「とくに男性のほうがおむつに抵抗を感じることが多く、女性のほうが受け入れやすい傾向にあります。女性は生理用ナプキンの経験があるので紙おむつや尿パッドの肌への違和感が少ないのかもしれません。男性にはよりメンタル面でのフォローアップが必要だと感じています」
おむつを受け入れたがらない人に、どう声をかければいいのだろうか?
「私は患者さんが受け入れる態勢になるまで待つことにしているんです。おむつをしなければならないという状況に対して落ち込んでいるかたに、いきなりあれこれ指示するのはよくないこと。
ご自身のつらいお気持ちを話せるようになってから、それを受け止めて、聞かれたことにはお答えしていくという段階を経ます。
そうすることで『この人は体も心も含めて自分のことを理解してくれる』と思ってもらえるので、おむつをするという状態をゆっくり受け入れていただけるようになります」
初めてのおむつ選びで失敗しがちなことは?
「おむつに関して一番の課題は情報不足だと思っています。周囲に相談できる人がいないことや、聞くのが恥ずかしいと感じている人も多いんです。『CMで見たから』『店頭で安かったから』という理由で、自分に合っていないおむつを選んでしまっているかたも。これが肌トラブルを引き起こす原因なんです。
おむつ選びで最も重要なのは、身体状況や排泄の状態に合っているかどうか。吸収量をチェックせずに購入して、夜間に尿漏れしておむつが不快なものと感じてしまうのはとても残念なこと。
昔の洋服のサイズがMだからおむつもMだろうと購入すると、実は高齢になって下半身が痩せてきて、ぴったりフィットせず漏れてしまうということもあります。利用されるかたの今の体格、身体状況などに合わせた物を選ぶこと。
パッケージに吸収量やウエストのサイズが明記されているのでチェックしてから購入してください。そのかたに合ったおむつを選んだ上で、利用方法をしっかり読んで正しい装着方法をすることで、漏れを防ぎ、快適に過ごせるようになると思います」
→大人用おむつによる皮膚トラブル事例と対処法を排泄ケア専門の看護師が解説「拭き取りや肌ケアの注意ポイント」
おむつで困ったことを相談できる場がない
「在宅介護の場合、排泄について介護士さんやケアマネさんに相談することになると思いますが、情報がしっかり届いていないこともあります。
おむつの選び方やおむつによるトラブルなどを相談できる場所はほとんどないんです。メーカーの相談窓口は、商品についての相談が中心になってしまいます。
肌トラブルを起こしてしまった患者さんのお話を聞くたびに、病院に来る前にもっと情報を知っておいてもらえたら、未然に防げたのにと思うことが多く、YouTubeで情報を発信してきました。
おむつや排泄について気軽に相談できる場所がないなら、作ればいいんじゃないかと思い始めました。おむつトラブルの対処法について介護ポストセブンさんの取材を受けたことも背中を押してくれたんです。これはニーズがあると確信し、実現したいという思いが強くなりました」
→大人用「紙パンツ」プロがすすめる5選|吸収力やニオイ、モレにくさなど徹底比較
「おむつや排泄について気軽に相談できる場所を作りたい」。その想いを実現すべく、浦田さんは行動を起こすことに――。
「私の所属する病院がある千葉・松戸市でビジネスプランコンテストが開催されることを知って、勇気を出しておむつの相談できる場所を作る事業計画を立てて応募したんですよ」
――次回、ビジネスコンテストに挑戦した浦田さんの奮闘をお伝えする予定だ。
撮影/楠聖子 取材・文/本上夕貴
●大人用のおむつ着用時にやりがちな5つの間違い|漏れやムレ、肌かぶれを防ぐ対策を排泄ケアの専門家が解説