猫が母になつきません 第399話「12年前の私へ_その1」
もし12年前に戻れたら、私は東京の住み慣れたマンションで実家への引越し準備をしている私の所へ行って思いとどまるように言うでしょう。
仕事も忙しく充実した日々を送っていた私が実家に戻る事にしたきっかけは、母が一日に何度も電話をしてきて、あれがないこれがない、泥棒が入ったに違いない、警察を呼ばなくては、とパニックを起こすようになった事です。その頃の実家といえば父が亡くなって10年、母ひとりで誰に気を使うこともなく暮らした結果、すべての部屋が散らかっているかぱんぱんに物が詰まっているか、つまりかなりゴミ屋敷化しており探し物が見つからないのは当然でした。母のパニックの度合いはだんだんエスカレート、家族や親戚、近所の人まで犯人扱いするようになり、警察を呼んであの人が怪しいなどと名指しで言ったりしていて、警察官の方がどこまで本気にされていたかはわかりませんが、私は遠くでひやひやしていました。このままでは本当に事件が起こりそう…というか、起こそうとしてるだろと思ったし、それは母の不安あらわれで一人暮らしに限界が来たのだと感じました。母の老後がゴミ屋敷の中でひとりで一日中探し物をしながら暮らす日々であってはいけないと思いました。だから実家に戻る「決心をする」というよりも「すぐに帰らなきゃ」という感じで仕事の区切りがついた段階でお世話になった方々へのご挨拶もろくにしないまま大急ぎで実家に戻りました。1年か1年半くらいで体制を整えてまた東京に戻ろう、とも思っていました。私はまだ40代で、今思えば介護や認知症のことを何もわかっていませんでした。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。