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連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第238回 睡眠導入剤のお話】

 兄ボケ(この連載の通称です!)ファンのみなさま、お待たせしました!久しぶりに財前先生(仮)のご登場です。ライターのツガエマナミコさんが一緒に暮らす若年性認知症の兄の主治医なのですが、ドラマ「白い巨塔」の主人公・財前先生のように冷徹なのです。財前先生に、マナミコさんの苦悩がわかる日が来るのでしょうか!(←編集部の声)

 * * *

ブレない財前先生とゆるゆるお便さま事件

「施設に入れたいから薬を出してください、なのか、そうじゃないかの2択ですよ」

 これは、先日の通院日に排泄コントロールができないと特養への入所は難しいと言われ、睡眠導入剤のことをご相談したとき、「結局、どうします?」という問に「どうしたらいいのでしょう?」とわたくしが問返ししたときの兄の主治医・財前先生(仮)の的を射たひと言でございます。

 わたくしが決めかねているので、「二者択一ですよ、簡単なことでしょ」と背中を押してくださったのでございましょう。先生らしいブレない物言いに清々しささえ感じました。でもなんとなくこの先生から薬を出していただくのが嫌だなと思ってしまい、「今回は止めておきます」とお答えし、睡眠導入剤はいただかずに帰ってまいりました。

 財前先生(仮)は「排泄コントロールできるような薬はない」ということと「睡眠薬と睡眠導入剤は同じもの」とおっしゃいました。ただ効果が長いか短いかの違いで、基本的にはまったく同じだそうでございます。

 特養への入所希望はひとまず取り下げましたし、しばらくは睡眠薬の必要性がないと判断してのことでしたが、最近の睡眠薬は昔と比べて依存性が少ないものもあるそうですから、のませるのませないは別として、出していただけるなら出していただけばおけばよかったかなと、少々思い直しました。3か月後の通院日にお願いすることといたします。
 
 つい先日、入所を諦め、在宅介護の醍醐味を味わおう!と思った矢先、悲惨なゆるゆるお便さま攻撃で前向きな気持ちがポッキリ折れました。パンツの中にたまったゆるお便さまをトイレで立ったままボテボテと垂らしてしまった第一弾は許せたのですが、お風呂場で前ばかり洗う兄に、「おしりも汚れているから洗って」というお願いをまったく聞き入れてくれなかったのです。

 体ごと後ろを向かせようとして抵抗にあい、兄に「なにすんだよ!」と睨まれたことで、不覚にもわたくしの怒りスイッチも入ってしまい、「なにすんだよはこっちの台詞だわ!」と放ってしまったのです。わたくしは堰を切ったように怒涛の不満が爆発し、「なんでこんなにいじめられなくちゃいけないの!」と、もうヒステリーオバサンでございます。

 洗面所でお便さまのべったりついたズボンや靴下を下洗いしながら半泣き。でもそれを冷静に俯瞰している自分もいて、1%ほどお芝居をしているような気分でもございました。「こうして吐き出さないと精神崩壊するから」と言い訳し、気持ちを落ち着かせていきました。きっとお便さまの匂いは、わたくしの理性を破壊するスイッチなのだと思います。 

 それが一段落して、そろそろ服を着せなければと兄をみると、紙パンツもはかずにまた廊下でポタポタとゆるゆるお便さま第二弾を発射しておりました。トイレはまだ第一弾のお便さまが散らかっており、「そうか~」と仕方なく「もう一度お風呂場に…」と連れていこうとしたところ、キッチンにすでにひと山のゆるお便さまが存在しておりました。

「もう気がおかしくなっていいですか?」と呪文を唱え、兄にシャワーをいたしました。

 お便さまがどんなに悲惨に散らばっていても、わたくしが掃除する以外に日常は戻ってきません。除菌スプレーと消臭スプレーで仕上げをすると、まるでなにもなかったかのようになり、怒りも落ち着いてまいります。兄はもう何も覚えていないのでしょう。出したお菓子をボリボリ食べておりました。

 わたくしは今、徳を積んでいるつもりでおります。死ぬときは眠るように苦痛なく逝けるようにたくさん徳を積んでいこうと思っております。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●「親が認知症かも?」病院を受診するための声かけ方法や対策を専門家が解説「認知症初期集中支援チームを活用する手も」

●認知症で要介護4の母が家の中で姿を消した!寒さで震える母を発見してゾッとした理由と対策

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この記事へのみんなのコメント

  • あこ

    先日コメントさせていただいた補足をさせていただきます。友人のご主人が歩行困難になったのは傾眠傾向が多くなり足の筋力が衰えての結果です。それともう一つのご提案ですが、精神病院→老健→自宅で在宅介護という選択もあります。自宅?と思われるかもしれませんが筋力が衰えて歩行が困難になると排泄はこちらの都合でおむつ交換すれば良くなり「時と所を構わず」の心配がなくなります。その状態で訪問介護のヘルパーさんとデイサービスとショートステイを使うと経済的な心配もなく介護者もかなり楽になると思います。元気なお兄さんを自分の都合で寝たきりにと言うのはそれはそれでとても辛い判断になると思いますが選択肢の一つとしてはあると思います。

  • なーし君

    初めてコメント致します。私も実母を介護していました。亡くなる前は施設に入所していて要介護5で寝たきりでした。入所前(要介護3)は週に6回デイサービスにお世話になっていて曜日ごとに違うデイサービスに変えて行っていました。(ケアマネの提案でした。)読んでいて思うのですがデイサービスとかの利用はお考えにならないのでしょうか、自宅で仕事しているとは言っても仕事をしながらの介護は大変です。お兄様も、まだお若いので自宅では体力が有り余るのではないかと思ってしまいます。疲れるぐらい運動するデイサービスはないでしょうか?

  • みかん

    すみません、昨日コメントした者ですが追伸のようなものです。 以前、ご自分の留守中や就寝中に(お兄様に)ご自分の部屋に入られないように、引き戸に何か鍵を取り付けられないものか?というような記事があったように記憶しているのですが、引き戸でしたら、とりあえず下や上に突っ張り棒をセットしておいたら、お兄様が戸を開けることはないかもしれません。その突っ張り棒を外したら簡単に戸は開くのですが、お兄様にとっては"あれ?なんか開かないなぁ"という感じで、突っ張り棒を外したら開く、という発想まで至らないかもしれません。自分の時は突っ張り棒が役に立ちました。もう解決している問題かもしれませんが、とりあえず参考までにコメントさせていただきました。

  • 2月もおわるなあ

    この連載のコメント欄の皆様はマナミコさんを心から案じていらっしゃる、とても優しい方々ばかりです。それに比べて財前(仮)先生の冷たいことよ…お医者さんの仕事としてはそれで充分なのかもしれませんが、もしかしたら統合失調症とか、難しい精神病のほうのご専門なのでしょうか。お兄さんの下のお世話、とてつもなく大変です。よく暴力を振るわずに耐えていらっしゃると感心します。 大変失礼ですが、お兄さんは食べ過ぎということはないのでしょうか。もしくはアレルギーや腸が弱っているとか、内臓に問題はないのでしょうか。少し前の記事で一時期食欲が落ちていたとあったので、もしかしたら脳だけでないのではと少し心配です。マナミコさんもくれぐれもお大事に。

  • みかん

    連載初期の頃からずっと読ませていただいている者です。 あのぅ…他の方も仰っていますが、ツガエさんはこれまで、充分すぎるほどご苦労をされてきました。 最初の頃は、のほほんとした穏やかなお兄様にクスッと笑ってしまうような気持ちもありましたが、認知症の方はどんどん進んでしまって、(他の方も仰っていますが)兄妹という関係なのに、いわゆるシモの世話というか…尿・便はところかまわずされてしまうし、シャワーまでも献身的になさっていて、頭が下がるばかりです。 ですが、さすがにもう限界なのではないかと感じてしまいます。 先日の炊飯器にオ◯ッコ、の事件でも、うわぁ…と感じたのですが、排尿排便関係で、ところかまわずされてしまうと、やはり精神的に限界を超えそうな気がするのです。 私ならとっくに介護うつになってます(私も義父のことで介護うつになりかけたことがあり、お兄様ほど進んでしまう前に施設に入ってもらいました) お兄様は若いせいか、進んでいくスピードが早いように感じますし、これからもますます認知症は進む一方かと思います。 眠るためのお薬の件は、先生の態度に不快感を感じられたようですが、ある程度介護者が楽になるためのお薬は、仕方がないことかと感じます。 (精神科の先生は、冷たい感じの方もチラホラいらっしゃいますよ。通院にストレスを感じられるなら他の病院に変わってもいいのではないでしょうか?優しい先生もいらっしゃいますし。)(どこの病院でも、結局、何の薬を処方しましょうか?という話にはなりますね)   とにかく、さすがにもうそろそろ限界なのではないかと、一読者としての意見ですがそのように感じます。お兄様の施設入居、早急に検討されてみてはいかがでしょうか? 差し出がましいお節介なコメントかもしれませんが、お許しくださいませ。 これからも応援しております☆彡

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