連載

介護離職の実態|制度を知らずに辞める人も…介護と仕事を両立するためには?

 認知症の母の介護を東京ー盛岡の遠距離で続けている工藤広伸さんは、“介護をもっとラクに”がモットー。そのための心の持ち方、考え方、工夫などのノウハウをブログで公開、講演会、セミナーなども行っている。

 当ブログでも、シリーズで工藤さんの介護術を教えてもらっている。今回のテーマは「介護離職」。工藤さんご自身も2度の介護離職を経験している。仕事と介護を両立するために、できることは何か…。講演会で企業や介護者の生の声に接している工藤さんが勧める対策とは?

 * * *

 わたしは2度の介護離職経験を基に、企業に向けた介護離職をしないためのセミナーの開催や、人事向けの雑誌への寄稿を行っています。

 介護離職防止への取り組みは、会社によって様々。個人としてできることは何か、会社はどういった取り組みを行っているかについて、今日はご紹介します。

→介護離職して気づいた企業人としての経験を介護に生かすコツ

介護離職、誰にも相談しなかった人は約5割

 みずほ情報総研が、40歳から59歳までの在宅介護経験のある正社員に行ったアンケートによると、

「介護のために転職や離職する直前に、介護と仕事の両立についてどなたかに相談しましたか」という問いに対して、「誰にも相談しなかった」と回答した介護離職者が47.8%もいました。

 わたしも「誰にも相談しなかった」元社員のひとりですが、なぜ多くの社員は、職場の上司や人事部に相談せず、会社を辞めてしまったのでしょう?

 それは、自分が介護していることを会社に知られたくないという気持ちが働いたからだと、わたしは思います。もし、これから介護が始まるかも、あるいは今介護をしている、ということを会社に相談すれば、責任ある仕事から外されたり、自分の昇進に影響したりするかもしれない…。そんな思いで、なかなか相談しづらいのではないでしょうか。

 また、同僚に仕事で迷惑をかけてしまうかもしれないという気持ちも働くため、結局誰にも相談できずに退職してしまうという結果につながるのだと思います。

 先ほどのアンケートで、「職場の上司や人事部に相談した」場合の介護離職者は23.6%まで減り、「ケアマネジャーに相談した」場合の介護離職者は10.6%まで減ったという結果があります。

 このことからも、介護離職を決断する前に、誰かに相談するというシンプルな行動が、いかに大切かということが分かります。

「介護休業制度」が社員に周知されていない

 企業人事の方と話すと、「弊社は介護休業制度を充実させています」と答える方が結構います。確かに社内のイントラネットやメールなどで、制度について発信をしているようです。

 しかし、現場の社員側が人事の発信に興味を持っていないので、メールに気づかず、制度の利用率が伸びないという悩みがあるという話を聞いたことがあります。

 それでも、40代・50代の社員の多くは、なんとなく親の介護が始まるかもしれないという不安を抱えていますが、何を準備していいか分からないし、身近なことであっても、今は関係ないと、問題を先送りする傾向にあります。

企業内介護セミナーの開催がおすすめ

 なので、情報を発信する人事と、受け手である現場社員のこういったミスマッチを解消することで、介護離職を回避することができると思います。

 具体的には、介護セミナーを社内で開催することです。わたしが講演した際、参加された社員の皆さんの反応の良さに驚きました。社員は不安を抱えている、だけど実際の介護がどういったものか分からないから、興味を持って聞いてもらえたのだと思います。

 可能であれば、介護と仕事の両立を実践している社員に講師をお願いしたり、社内報を活用したりして、介護について発信してみるのも有効な手段だと思います。

 介護経験がない管理職が、介護に直面した部下にどうアドバイスをしていいか分からないというケースでも「介護を受ける家族が住んでいる地域の地域包括支援センター(包括)へ、まずは行って相談しなさい」とアドバイスするだけで、介護離職を防ぐことができるかもしれません。

企業が共に社員の介護と仕事の両立に取り組む

 経団連が推進している『トモケア※』という取り組みをご紹介します。

※参照URL:http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/034.html

『トモケア』は、「企業が介護に直面した社員と介護のあり方を共に考え、仕事との両立に共に取り組む」という考え方です。

『トモケア』を推進している企業の特徴として、人事部主導ではなく、経営陣も巻き込みながら、会社全体で介護の制度作りや制度を使いやすい環境整備に取り組んでいます。

 具体的には、「時間単位で休暇を認めることで、突発的な介護への対応を可能にする」、「3回までしか認められていない介護休業を、3回以上分けて取得することを認めたり、短時間勤務、フレックスタイムのコアタイムを廃止する」、「テレワークを実施する」などの支援策を実施している企業があります。

自分の会社の制度を調べておく

 またシンプルですが、経営トップが介護と仕事の両立に力を入れているというメッセージを、社員に向けて発信することも効果的です。介護に対して真剣に考えているという経営陣の姿勢は、介護に直面している社員に勇気を与えると思いますし、介護について会社に相談してもいいと思えるきっかけになるのではないでしょうか?

 介護の不安を抱える社員の気持ちを汲み取り、企業として支援策を用意することで、介護離職者は確実に減らせると思います。自社の介護休業制度がどうなっているか知らない人は多いので、まずは自社の制度を調べてみてください。

 今日もしれっと、しれっと。

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関連記事:「介護離職」実際のところ企業はどういう目で見ているのか

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

●お知らせ

 工藤広伸さん新刊『ムリなくできる親の介護 使える制度は使う、頼れる人は頼る、便利なツールは試す!』(日本実業出版社)絶賛発売中!工藤さん、一年ぶりの新著は、介護中にひとりで抱えがちな悩み、「こんなときはどうすればいい?」が「こうすればもっと楽になる!」に変わる、たくさんの介護ノウハウ満載の一冊。
価格:1512円

●介護離職しないために!専門家が教える仕事と介護を両立する3つのコツ

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この記事へのみんなのコメント

  • イチロウ

    ご両親が、脳出血と脳梗塞とは、私の両親と同じです。 と言うことは、ご自身にも、勿論のことに私自身にも同様の疾患の恐れがある、と言うことです。 言わば、血管由来の疾患の恐れがある、と言うことなのです。 私自身は、脳では無く、まず左目の網膜の血管にその症状が出ました。 「網膜静脈動脈分枝閉塞症」と呼ばれる、目の網膜にある血管(静脈)が詰まる病です。 幸いにも疾患の症状が出た時点でかかりつけの眼科医に大学病院で精密検査を指示され網膜の専門医に依る診察を受けたのです。 結果は、治癒見込みとされてかかりつけの眼科医に見てもらうのみで良い、と言うことでしたので、今まで月に一回の経過観察を継続しています。 自分でも眼科の専門知識を探しました。 米国の情報も含めて。 その結果は、疾患が出たのは眼であっても、血管の病である、と言う事実でした。 長年にわたる偏った栄養の集積の結果、血管が詰まる、と言うことなのです。  従って、数年前から、血管の詰まる原因を除く努力をしています。 真島消化器クリニックの真島康雄先生が食生活の改善に依る血管の正常化の手法を唱道されていますので、「真島消化器クリニック」でグーグル検索されると先生のブログが出ますので、其処で生活の方法等を習得されるのが良い、と思います。 健康法も諸種ありますので、ご自分が良いと思われれば実行されると良いでしょう。  因みに私の場合は、喫煙は当然のことですが数十年前に止め、飲酒は三年前に止め、料理に砂糖は使わず、油・脂を摂らないように注意した料理を作り、血管プラークを防ぐ努力をしています。  おかげで、左目が元の視力までもう少しの処まで回復しました。

  • イチロウ

    基礎的地方自治体(市町村)の地域包括支援センター(○○市地域包括支援センター等の呼称に依る)や、在宅福祉サービスに係るネットワークセ ンター等の呼称で呼ばれる福祉サービスのセンター、と思われます。 詳しくは、お住まいの地方自治体のホームぺージで検索されるのが良いでしょう。 検索ワードは、お住まいの自治体(○○市)で当該の市町村のホームぺージが出ますので、当該ホームページ内で「高齢者」や「在宅介護」等の用語で検索されれば当該部署のページが出ます。 分からない場合には、お住まいの自治体の総合案内で尋ねられれば良いでしょう。

  • kayo

    3年前に父(脳出血)、1年前に母(身体障害者、脳梗塞)にて自分自身も体調不慮になり退職しました。介護離職してしまった後の相談窓口等々がありましたら教えてほしいです。宜しくお願い致します。

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