介護離職の実態|制度を知らずに辞める人も…介護と仕事を両立するためには?
認知症の母の介護を東京ー盛岡の遠距離で続けている工藤広伸さんは、“介護をもっとラクに”がモットー。そのための心の持ち方、考え方、工夫などのノウハウをブログで公開、講演会、セミナーなども行っている。
当ブログでも、シリーズで工藤さんの介護術を教えてもらっている。今回のテーマは「介護離職」。工藤さんご自身も2度の介護離職を経験している。仕事と介護を両立するために、できることは何か…。講演会で企業や介護者の生の声に接している工藤さんが勧める対策とは?
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わたしは2度の介護離職経験を基に、企業に向けた介護離職をしないためのセミナーの開催や、人事向けの雑誌への寄稿を行っています。
介護離職防止への取り組みは、会社によって様々。個人としてできることは何か、会社はどういった取り組みを行っているかについて、今日はご紹介します。
介護離職、誰にも相談しなかった人は約5割
みずほ情報総研が、40歳から59歳までの在宅介護経験のある正社員に行ったアンケートによると、
「介護のために転職や離職する直前に、介護と仕事の両立についてどなたかに相談しましたか」という問いに対して、「誰にも相談しなかった」と回答した介護離職者が47.8%もいました。
わたしも「誰にも相談しなかった」元社員のひとりですが、なぜ多くの社員は、職場の上司や人事部に相談せず、会社を辞めてしまったのでしょう?
それは、自分が介護していることを会社に知られたくないという気持ちが働いたからだと、わたしは思います。もし、これから介護が始まるかも、あるいは今介護をしている、ということを会社に相談すれば、責任ある仕事から外されたり、自分の昇進に影響したりするかもしれない…。そんな思いで、なかなか相談しづらいのではないでしょうか。
また、同僚に仕事で迷惑をかけてしまうかもしれないという気持ちも働くため、結局誰にも相談できずに退職してしまうという結果につながるのだと思います。
先ほどのアンケートで、「職場の上司や人事部に相談した」場合の介護離職者は23.6%まで減り、「ケアマネジャーに相談した」場合の介護離職者は10.6%まで減ったという結果があります。
このことからも、介護離職を決断する前に、誰かに相談するというシンプルな行動が、いかに大切かということが分かります。
「介護休業制度」が社員に周知されていない
企業人事の方と話すと、「弊社は介護休業制度を充実させています」と答える方が結構います。確かに社内のイントラネットやメールなどで、制度について発信をしているようです。
しかし、現場の社員側が人事の発信に興味を持っていないので、メールに気づかず、制度の利用率が伸びないという悩みがあるという話を聞いたことがあります。
それでも、40代・50代の社員の多くは、なんとなく親の介護が始まるかもしれないという不安を抱えていますが、何を準備していいか分からないし、身近なことであっても、今は関係ないと、問題を先送りする傾向にあります。
企業内介護セミナーの開催がおすすめ
なので、情報を発信する人事と、受け手である現場社員のこういったミスマッチを解消することで、介護離職を回避することができると思います。
具体的には、介護セミナーを社内で開催することです。わたしが講演した際、参加された社員の皆さんの反応の良さに驚きました。社員は不安を抱えている、だけど実際の介護がどういったものか分からないから、興味を持って聞いてもらえたのだと思います。
可能であれば、介護と仕事の両立を実践している社員に講師をお願いしたり、社内報を活用したりして、介護について発信してみるのも有効な手段だと思います。
介護経験がない管理職が、介護に直面した部下にどうアドバイスをしていいか分からないというケースでも「介護を受ける家族が住んでいる地域の地域包括支援センター(包括)へ、まずは行って相談しなさい」とアドバイスするだけで、介護離職を防ぐことができるかもしれません。
企業が共に社員の介護と仕事の両立に取り組む
経団連が推進している『トモケア※』という取り組みをご紹介します。
※参照URL:http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/034.html
『トモケア』は、「企業が介護に直面した社員と介護のあり方を共に考え、仕事との両立に共に取り組む」という考え方です。
『トモケア』を推進している企業の特徴として、人事部主導ではなく、経営陣も巻き込みながら、会社全体で介護の制度作りや制度を使いやすい環境整備に取り組んでいます。
具体的には、「時間単位で休暇を認めることで、突発的な介護への対応を可能にする」、「3回までしか認められていない介護休業を、3回以上分けて取得することを認めたり、短時間勤務、フレックスタイムのコアタイムを廃止する」、「テレワークを実施する」などの支援策を実施している企業があります。
自分の会社の制度を調べておく
またシンプルですが、経営トップが介護と仕事の両立に力を入れているというメッセージを、社員に向けて発信することも効果的です。介護に対して真剣に考えているという経営陣の姿勢は、介護に直面している社員に勇気を与えると思いますし、介護について会社に相談してもいいと思えるきっかけになるのではないでしょうか?
介護の不安を抱える社員の気持ちを汲み取り、企業として支援策を用意することで、介護離職者は確実に減らせると思います。自社の介護休業制度がどうなっているか知らない人は多いので、まずは自社の制度を調べてみてください。
今日もしれっと、しれっと。
関連記事:「介護離職」実際のところ企業はどういう目で見ているのか
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)
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