介護は始まる前に話し合っておくことが肝心「自分が40才になったら親と家族会議を」きょうだい間で役割分担を明確にすべきと専門家
高齢社会が進むことに伴い、要介護者の数も増加している。つまり、それだけ介護を担う人の数も増えているということだ。変化していく介護の在り方や、トラブルへのを未然に防ぐための備え方を専門家が解説する。
教えてくれた人
川内潤さん/NPO法人となりのかいご代表理事、久坂部羊さん/医師・著書に『介護士K』など、河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
社会情勢とともに変化する介護の在り方
人生100年時代が現実のものとなったいま、私たちの前には「長生きリスク」が立ちはだかるようになった。がんや認知症といった疾患を抱えることや、老後資金不足や医療費負担増といった経済的不安と並んで、「介護」も大きなリスクとなる。NPO法人となりのかいご代表理事の川内潤さんが話す。
「少子高齢社会、働く女性の増加など、社会が大きく変化したことで介護の在り方も変わってきています。遠距離介護、老老介護、実のご両親の介護、義理の親の介護など、家庭によって抱える問題は異なり、多様化しているといえます」
実際にあったトラブルについて川内さんが続ける。
「実の母親の介護について、妹さんが担ってくれているというお兄さんから相談を受けたことがあります。妹さんは親身になって介護をされていましたが、自分の手だけでは回らず、かといってお母さまは“まだ元気だから介護サービスは利用したくない”と主張された。妹さんは仕事をやめて介護に専念することにしたので、お兄さんにお金の請求をしてきたそうです。
お兄さんも了承はしましたが、いくら支払っても妹さんの怒りは収まらず、どんどん要求が大きくなっていきました。現実的に、お金で妹さんの精神的負担が解消されるわけではない。ただ、お兄さん側もいつまでお金を払わなければいけないのかと悩み、妻からも責められトラブルに発展してしまいました。こうしたトラブルを避けるために、親やパートナーが元気なうちに介護について家族会議の場を設けることは非常に大切なのです」
介護問題は相続問題でもある
配偶者、実の親、義理の親、介護する人が違えば、想定されるトラブルの内容も異なるが、まず大切なのは「誰が介護を担うか」を決めること。これはつまり、誰が“負担を負うか”ということでもある。医師で、著書に『介護士K』などがある久坂部羊さんが言う。
「配偶者の介護であれば、まずは自分がしなければいけませんが、親の介護の場合は、きょうだいなど誰がどの程度かかわれるのかの洗い出しを含め、中心となって動ける人をいかにスムーズに決められるかがカギとなります。キーパーソンが決まれば、必然的にトラブルは少なくなります」
きょうだいや孫など、家族が多ければ多いほど会議は重要だ。
「介護負担は肉体的、精神的なものだけではありません。時間的、経済的負担も大きい。お金が絡んでくることですから、事前にきちんと話をしておかないと後になってもめやすくなるのです」(久坂部さん)
ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんが解説する。
「介護費用を誰が負担するかはもちろん、そのぶんの財産は残してもらえるのかといった相続問題にもつながります。以前、ご夫婦で相談に来られたかたがいました。夫の母親の介護をしていて、ご夫婦には子供がいなかった。ところがあるとき母親が“財産を孫に渡す”と言い出した。孫というのは夫のきょうだいのお子さんでご夫婦の甥にあたります。そこでご夫婦の妻が『贈与を孫にするなら、介護費用も自分たち夫婦ではなくそちらで負担すべき』と主張したんです。介護は実際にかかわらない推定相続人も含めてもめる可能性があるので、会議は親ときょうだいなど推定相続人を含めて行いましょう」
久坂部さんも続ける。
「親の介護では、『兄の方が私立の学校に通い学費を多く出してもらっていた』『妹家族には住宅購入資金を援助していた』『弟のところは子供の教育資金をもらっている』といった、親からの金銭支援の程度がもめるきっかけにもなりますから、“介護は均等に”といっても通じません。それぞれの言い分をきちんと聞いてからでないと役割分担はすべきではない」
これまでの背景も踏まえ、キーパーソンを中心に会議を進めるうえで、開くのはお盆やお正月といった家族が集まるタイミングがいいだろう。
「家族が遠方に住んでいても、スマートフォンやパソコンを使えばオンライン上で話すことができます。最初はできるだけみんなが参加できる形が望ましい。
そのときには、介護をどうするかと同時に、自分はどんな生活を送りたいかを話しておくといいでしょう。エンディングノートやメモに残しておけば、希望の形に近づけるでしょう」(川内さん)
家族会議は、介護が必要になる前に行うことが望ましい。
「加齢や疾患の悪化で徐々に介護が必要になるケースもありますが、突然訪れることも多い。ある日突然、親が倒れたとか、気がついたら認知症になっていることが判明したとか。必要になってから会議を開くのは大変ですから、元気なうちから話しておくべきです」(河村さん・以下同)
意識すべき具体的な年齢について、河村さんは「40才」を挙げる。
「日本では40才から介護保険への加入が義務となるので、自分が40才になったタイミングはひとつの目安です。親は65~80才でしょうから、自分のことも親のことも考えられます」
介護は家族で抱えず「他人に任せる」
家族会議には、家族や親族だけでなく第三者を交えるべきだと川内さんはアドバイスする。
「冒頭のケースでも、妹さんが最初から自分で抱え込まなければトラブルを回避できた可能性があります。頼るべきはまず地域包括支援センターです。介護は家族だけで行おうとすると必ず無理が生じます。自分や親が住む地域のどこに地域包括支援センターがあるか確認し、連絡してみてください。
たとえば『親はまだ元気だけどいざ介護が必要になったら、この地域ではどんなサービスや支援が受けられるのか』について確認しておくと安心ですし、話し合いもスムーズです。これは実の親の場合だけでなく義理の親でも同じです。むしろ義理の親を介護するケースの方が距離感を保ち、上手くいくこともあると思います」
写真/PIXTA
※女性セブン2025年5月22日号
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