兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第221回 出費3000円で学んだこと】
ライターのツガエマナミコさんは、一緒に暮らす若年性認知症を患う兄の施設入居に向けて準備を進めています。まずは、ショートステイでお試しすることが決まりました。今回は、兄不在のツガエ家で起きたハプニングのお話です。
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冷凍庫のバスケットを洗ったら、あら大変
ショートステイ3泊4日はあっという間に終わってしまいました。
兄がいぬ間に区役所に行ったり、一人で映画を観たり、友だちと焼き鳥を食べたり、お墓参りをしたり、一人カラオケをしたり、書類をシュレッダーにかけたり、時間をかけてレンジ周りやお風呂場のお掃除などをしたツガエでございます。ずっとやりたくてできなかったことが心置きなくできてたいへん有意義だったことは確かなのですが、一番のトピックは「冷凍庫」のお掃除でございました。
冷蔵庫の中のパーツは年に一度は取り外して洗っているのですが、冷凍庫に関しては、恥ずかしながら購入した2018年から拭き掃除オンリー。メインバスケットを外して洗ったことがなかったのでございます。否、じつを申しあげると「これ取れるんだ!」と今回初めて気づいた次第でして、「えいやぁっ」と取り外して長年の汚れを洗い流したわけでございます。
キレイになったメインバスケットをルンルン気分で元に戻して、「さぁ、これで終わり」と思ったときに悲劇が起こりました。引き出し式の扉がもうちょっとのところで閉まらないのでございます。「え?」となり、再び取り外して戻してみましたが、やっぱり閉まりません。何かが当たっている感じはあるのに、何が当たっているのかわからない。何度も外しては入れしている間に外に出していた大量の冷凍食品は順調に自然解凍されてゆくではないですか。慌てて冷蔵庫に避難させたものの解凍は止まりません。
取扱説明書を見ても取り外すときのイラストはあるのに、戻し方に関してはひと言も言及されておらず、メーカーのお客様相談室に電話してみても「平日にお掛け直しください」という旨のテープが流れるだけ。そう、その日は運悪く日曜日だったのでございます。
途方に暮れ、インターネットでも検索してみましたが、手がかりを見つけられず、「このままじゃ、冷凍庫が使えない……」と脂汗が噴き出してまいりました。
最後の頼みの綱は近所にただ一つ残っている電気屋さんでございます。数か月前、部屋の照明器具が切れたときにもお世話になったマイヒーロー(189回)。
「どうかお休みではありませんように」と祈りながら電気屋さんに向かうと、燦然と輝くがごとくガラスの扉が開いておりました。でも我が家の冷蔵庫は家電量販店で購入したもの。申し訳ない気持ちで事情を説明したところ、「とりあえず見ないとわからない。出張費5000円かかりますけど、それでも良ければ」と準備を整えてすぐ来てくださいました。徒歩5分の出張費にしては高いですが、こちらとしてはいくらでもいいから助けてほしかったので、ありがたい気持ちでいっぱいになりました。
それほどの大事件だったのに、電気屋さんがいらっしゃったら、ものの30秒で問題は解決。なんと、メインバスケットの向きが逆だっただけ。「え―っ!それだけですか? すみませ~ん!」と叫んでしまいました。「3000円でいいですよ」と出張費を負けていただき、あっけなく大事件が解決いたしました。
閉まらないものをなんとかして押し込もうと大汗をかき、「ちょっと逆向きに入れてみよう」という発想にこれっぽっちもならなかった自分を恥じました。思い込みの恐ろしさ、柔軟な発想の大切さを3000円と引き換えに学んだツガエでございます。
ちなみに、兄は施設でも排泄の粗相はしたようですが、概ね穏やかに問題なく過ごしたようでした。戻ってきたときには、我が家に初めてきたような顔をしておりましたが、翌日にはすっかり元通り。わたくしにとっても、いつもの毎日が戻ってまいりました。
3泊とはいえ、兄のいない数日を味わってしまっただけに、前にも増してこの毎日がうっとうしく思えるようになってしまいました。早く入居させたいという気持ちが加速しております。
ただ施設入居のためには、少々詳しく兄の状況を書いた書類を提出しなければならないとのこと。先日ケアマネさまからその用紙が届き、内容を拝見しましたら、一気に不安になってまいりました。そのお話しは次回といたしましょう。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。