【介護の備え】親が遠くに住む場合 家族は「任意後見人」に指定してもらう【役立ち記事再配信】
老親が認知症に…。そうならないで欲しいと願っても、現実は甘くはない。老親が自ら判断する能力を失ってしまったときの”備え”は必要だ。
親が遠くに住んでいたら?入院した場合は?親のお金をが動かせなくなる前に、今からできる最適な備えとは?
ケース1:「遠くで暮らしている親」のことが心配なら?
正月に実家に帰ったところ、一人暮らしの父親はすっかり老け込んでいて、会話もいまいち成り立たなかった。
「カネを無心する電話がかかってきたら、振り込む前に必ずオレの携帯に電話してくれよ」
そう念を押したものの、振り込め詐欺が心配だ―。
親と遠く離れて暮らす人ほどそうした不安が尽きないのではないか。
このケースは、親が認知症になる前に家族を「任意後見人」に指定してもらうと安心できる。
後見制度に詳しい行政書士・東優氏が語る。
「成年後見制度は、本人が認知症などで判断能力が低下したとき、財産を後見人の下で管理して保全していくものです。認知症の発症後に家族の申し出で裁判所が後見人を選任する『法定後見』と、親があらかじめ家族の1人などを後見人に指定しておく『任意後見』がありますが、前者は本人と全く面識のない弁護士など法律の専門家が後見人に選任されることが多い。そのため、息子さんが親の資産を自分で管理したいという場合は親に任意後見人に指名してもらっておくことが望ましい」
任意後見人の指名は、原則、親(委託者)と後見人になる家族が一緒に公証人役場で任意後見契約の公正証書を作成しなければならない(公証人に家に来てもらうことも可能)。
●併せて「財産管理委託契約」を結ぶ
ポイントは、その際に併せて、親子間で「財産管理委任契約」を結んでおくことだ。
「これは親の判断力はまだしっかりしているけれども、体力が衰えたとか、体の自由が利かなくなった場合に、不動産の管理、銀行での預金引き出しの手続きなどを子供に委任するものです。離れて暮らしているなら、生活費に必要な年金振込口座だけを親が管理し、家の権利証や親の実印、印鑑登録カード、マイナンバー、他の預金通帳と銀行印などを子供が預かっておく。仮に、親が入院してまとまったお金が必要になった場合でも、委任契約書(公正証書)があれば子供が親の預金をおろして払うことができます。任意後見とセットで契約を結ぶことで、親に判断力があるうちは子供が資産管理を代行し、認知症で親の判断能力が低下した段階で後見人になれる。切れ目なく親の資産を管理できるわけです」(同前)
任意後見人には法定後見人のような不利益契約の取消権(※1)はないものの、「委任契約」であらかじめ家の権利証や実印、預金通帳などを預かっておけば、万が一、親が振り込め詐欺にあったとしても被害は最小限に抑えられる。
※1:不利益契約の取消権/被後見人(親)が契約したものが不利益なものだと判断されると、取り消すことができる権利。認知症になった親が悪徳商法などの被害に遭い、不利益な契約を結ばされた場合、後から取り消すことができる。法定後見人のみ使える。
→認知症が疑われ「銀行口座が凍結」すると本人も子供も引き出せない
ケース2:「入院した親の貯金」から医療費を払いたいときは?
認知症の親ががんで入院した。治療費は「親の貯金」から払いたい。
そういう場合、あらかじめ親の資産を管理する「家族信託」の契約を結んでおいた方が便利だ。
「家族信託は親(委託者)の判断能力がしっかりあるという前提で、家族(受託者)に財産の管理・運用から処分などを委ねる信託契約です。
例えば、親が預金のうち1000万円を長男に信託し、運用を委ねて、受益は親の医療費、介護費、生活費などに充てるという契約を結んでおく。その1000万円は親の口座から長男名義の信託口口座(しんたくぐちこうざ)(※2)に入金し、管理権も長男に移る。
親が認知症になった後も契約は有効で、長男の判断で口座からお金をおろして治療費を支払うことができます」(前出・東氏)
前述の「任意後見」制度でも後見人である家族が親の口座からお金を引き出して親の医療費を払うことは可能だ。
しかし、面倒な手続きが必要になる。
任意後見の場合、裁判所が後見人(家族)の行為を監督する「任意後見監督人」(弁護士など)を選任し、後見人は3か月に1度程度のペースで親の資産を何に使ったかを監督人に報告してチェックを受ける義務を負うからだ。
家族信託であれば、信託を受けた資産の範囲内で、家族の判断だけで親を個室に入院させたり、高い保険外の治療を受けさせることができるが、任意後見制度では、いちいち監督人や裁判所に“お伺い”を立てなければならない。状況に応じた柔軟な対応が取りにくくなると考えられる。
※2:信託口口座/委託者(親)の財産から分離独立して管理される口座。信託口口座の通帳には親(委託者)の名前と長男(受託者)の名前が記入される。
※週刊ポスト2019年2月8日号