健康

10年来の腰痛が軽減した例も!体の歪みを整える【モーターコントロールエクササイズ】のやり方|イラストで整形外科医が解説

 少し歩くだけでバテバテになるほど“地球沸騰”といわれる今年の夏。運動不足や長時間のデスクワークで肩こりや腰痛もマックスに…。そんな疲れた体をスッキリさせ、腰痛を軽減し、バランス力をアップさせる「モーターコントロールエクササイズ」が話題だ。“痛くならない体”を作って極暑をしなやかに乗り切ろう!

教えてくれた人

金岡恒治(かねおかこうじ)さん/早稲田大学スポーツ科学学術院・教授。整形外科医。シドニー、アテネ、北京五輪の水泳チームドクターを務め、「Spine Conditioning 」にて運動療法を指導する。著書に『首・肩・腕の痛み・しびれ 最新1分ほぐし大全』(文響社)などがある。

腰の痛みは“体の軸の乱れ”が原因だった

「腰が痛くて接骨院に行ったら、『痛みの原因は体の歪(ゆが)み』だと言われたんですけど…」

 整形外科医の金岡恒治さんは、外来患者から頻繁にこのような相談を受けるという。

「偏った体の使い方などで筋肉が凝り、体のバランスが崩れて痛みが出ることは多く、それを“歪み”というのかもしれません。ただ、完璧に歪みのない人間は存在しません。痛みや不調の要因として歪みを気にするより、むしろ“体の軸の乱れ”が問題なのです」(金岡さん・以下同)

体の軸は“脊柱アライメント”と“骨盤”で決まる

 金岡さんが問題視する「体の軸」とは、どこにあるのだろうか?

「立って静止しているときの軸は、頭の重心から足を結ぶ直線のイメージです(下絵参照)。整った軸というのは、その直線上に背骨や骨盤の中心が存在している状態です。

 具体的には、頭が軸の真上にくるような『脊柱アライメント(背骨の配列)』があり、それを支える骨盤が地面に対して水平に位置していること。この状態だと、力を入れずバランスよく立っていられます。ヨガで『頭が上に引っ張られるような感覚で』という表現は、まさにこれです」

 上絵の骨の配列を見ると、頸椎(けいつい)は少し前、胸椎(きょうつい)は後ろ、腰椎(ようつい)は前にカーブを描いている。そして骨盤には傾きがなく、この湾曲の中心に重心が乗っている状態が理想だ。

 次に、どのように体の軸が乱れていくのか。

「たとえば、頭が前に傾くと本来なら前に倒れてしまいますが、人は重力に対し、常に目を水平に保つ習性があるため、頭の傾きに合わせて脊柱アライメントや骨盤も角度を変え、付随する筋肉を使って倒れるのを防ぎます。そうなると、軸は直線ではなくなる。これが軸の乱れです」

 家事やデスク仕事、スマホを見るなど、前傾姿勢の多い日常動作により脊柱アライメントが乱れ、骨盤が前傾し、心地よく立てなくなるのだ。

眠っていた体幹筋を意識する

 不調を解消するには体の軸を整えること。そのカギはインナーマッスル(体幹筋)だ。

「まずは、歩かない、階段を上らないなどの生活習慣で、使われなくなったインナーマッスルを目覚めさせましょう。中でも、脊柱アライメントに付着する『多裂筋(たれつきん)』、お腹の前にあり、息を吐くときに働く『腹横筋(ふくおうきん)』、肩甲骨を寄せるときに動く『菱形筋(りょうけいきん)』、そして、首の骨の前にある『頸長筋(けいちょうきん)』を意識して動かすことです」

 これらを日常の中で動かすいい方法が2つあるという。

1つ目は、椅子に座って、『骨盤を後ろに倒し、次に前に起こす』。この動きを繰り返すことです。骨盤を倒すときに腹横筋が、前に起こすときに多裂筋が働くので、骨盤の傾きや脊柱アライメントを整えられます」 

 2つ目は、肩に力を入れないようリラックスし、肩甲骨だけを寄せる動き。これで菱形筋が働き、姿勢を整えられる。いずれも、姿勢が崩れたと感じたときに数回(何回でもOK)行い、インナーマッスルの存在を意識するといい。

「時々、鏡の前で立ち姿を確認してみるのもいいと思います。骨盤の傾きを整えて立ち、肩甲骨を寄せる。そして、頸長筋を働かせてあごを少し引く。これが、軸の整った立ち姿です。体形は人それぞれ異なるので、自分なりの、力まずラクに立てるポジションを探してみてください。『よい姿勢を』と考えると肩や背中、腰に力が入りそうですが、力みは大敵。よけいな筋肉に負荷をかけ、疲れてしまいます」

筋トレに頼り過ぎず、バランスよく歩ける体を作る

 健康のために推奨されているウオーキングも、軸が整ったうえで行わないと、体のバランスを崩し、痛みを助長することになりかねない。

「筋力や柔軟性、持久力も重要ですが、並行して『モーターコントロール』と呼ばれる、筋肉同士がバランスよく連携できる体の使い方を身につけるべきです」

 モーターコントロールを高めるエクササイズは、インナーマッスルを整え、体への部分的な負担を分散させる効果があり、腰痛の運動療法にも用いられている。

「歩くとき左右にブレたり、長時間歩行で姿勢が崩れる人は、歩く前に下記のエクササイズを行ってください。1回でもできればOKですが、1回もできない場合は、将来寝たきりになる危険性があります。人生100年時代、死ぬ直前まで自分の足で歩ける『ライフパフォーマンス』の向上が必要とされています。体の軸を整えることは、健康寿命にも深くかかわっているのです」

 やみくもにトレーニングをしなくても、健康的でラクに動ける体作りはできるのだ。

体幹を整えるモーターコントロールエクササイズ

 自分の体幹の状態をチェックするエクササイズ。週に一度やってみて、体のバランスを確認しましょう。

<1>ハンドニー/まっすぐ歩ける下半身を作る

「骨盤が傾かないよう、お腹に力を入れながら足を上げます。まったくできなかった女性患者も、3か月で骨盤がブレずに足を上げられるようになり、10年来の腰痛が軽減されました」(金岡さん・以下同)

【1】ひざは肩幅に開き、あごを軽く引いて四つんばいになる。

【2】腰を反らさず、右手をまっすぐ前に、左足は上半身と同じ高さまで上げて3秒キープ。反対側も同様に。腰が左右に傾いてしまう場合は【3】へ。

【難しい人はこれをやってみよう!】

【3】両手を床につけたまま、片足ずつまっすぐ後ろに引いて3秒キープ。1回できればOK。

<2>サイドブリッジ/骨盤を安定させ、長時間ウオーキングもラクに

「歩く、走るなど動いているときの軸を整え、長時間安定して歩くためのエクササイズです。軸がブレていると、そけい部(足のつけ根)を酷使したり、ひざを痛める原因になるので、しっかり整えましょう」

【1】左手を床につけて腕を伸ばし、頭から足が一直線になるように横になり、左足で支えながら体を持ち上げ3秒キープ。まだ余力がある人は、さらに左足を前に出し3秒キープ。

【難しい人はこれをやってみよう!】

【2】ひじをつき、ひざを曲げながら脇を浮かせて3秒キープ。

取材・文/佐藤有栄 イラスト/中村知史

※女性セブン202397日号
https://josei7.com/

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