兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第207回 トイレ誘導しましたが…】
若年性認知症を患う兄の排泄問題で頭を悩ますライターのツガエマナミコさんが、兄との暮らしや心情を綴る連載エッセイ。兄が病気を発症してから7年を超える年月が過ぎました。少しずつ始まった排泄にまつわる驚きの出来事に、その都度真剣に取り組み、解決方法を考えてきたマナミコさんですが、兄の排泄行動はその斜め上。問題解決には至らないのです。それでも、日々丁寧に兄と向き合い、対応するマナミコさんを編集部は応援しています。
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排泄問題はイタチごっこなのです
2022年の認知症行方不明者は延べ約1万8709人だったそうでございます(警察庁調べ)。全国の警察に届け出があった人数とのことなので、この数字には確実に兄も含まれております。兄は昨年2回捜索願を出しており、警察官さまのご厄介になりました。捜索願が出された人の98%以上は無事保護されているそう。それにしても認知症の行方不明者は10年間でほぼ2倍になったたそうでございます。認知症患者の増加スピードと徘徊防止の難しさを実感する事態でございます。いつの日かわたくしもその一人になるような気がしております。
兄が頻繁にお尿さまをするので、読者さまから「前立腺肥大なのでは?」とのご心配をいただきました。わたくしも薄々感じておりましたので、その疑惑の旨をデイケアの連絡帳に書きましたところ、「ケアセンターではそんなことはありませんよ」とご返答をいただき、「なんだ家の中だけか」と病気の心配は解消されました。
先日、その旨をケアマネさまにお話ししたところ、「僕もケアセンターを訪問しているので、お兄さんの排泄について聞いてみたら、声掛けをしているんですって。定期的にトイレ誘導しているから頻繁にトイレに行く印象はないのだと思います」と言われました。
トイレ誘導については、これも読者のみなさまに再三再四ご提案いただいたことでございます。わたくしが横着でそれをしていないことが悪の根源、おトイレでお尿さまをしない原因だったようでございます。トホホ。
まるでやっていないわけではございませんが、1日2~3回しかしていませんでしたから、もっと頻度を上げて、しつこいくらい何度も誘導しよう…と反省いたしました。
しかし、朝一番の排泄はタイミングが合わず、どうしてもお掃除になってしまいます。昨日は珍しくお尿さまが例のポリ容器(兄専用ルームトイレ1号)を外して床に広がっておりましたので、取り急ぎ兄をトイレに誘導し、ゴシゴシ拭き掃除をしておりました。一通りキレイにして除菌スプレーで仕上げをし、キッチンに帰ってくると、猛烈に匂うことに気が付きました。ふとみると、キッチン横の兄専用ルームトイレ2号の蓋の上に出来立てホヤホヤのお便さまがドーンと鎮座しておりました。
――さっきトイレに誘導しましたよねぇ?なんでぇ?なんでここなんですかぁ?――
こぼれたお便さまが防水シーツ内ギリギリのところに落ちていたことが不幸中の幸いでございました。いつも思うのですが、シーツやタオルケットも汚れるのは大半が端っこのちょっとだけ。たったちょっとのために大物洗濯しなければならないことの空しさったらありません。昨日洗ったばかりであっても、そんなことはお構いなし。雨の日だって雪の日だって「そんなの関係ねぇ」ってなものでございます。
シーツに関しては尿漏れ用の防水シーツがありますが、あれは容易に乾かないのが珠に傷でございます。通気性がないのですから当たり前ですが、母の介護のときに利用して、難儀したことを思い出します。通気性がないので蒸れて暑く、夏向きではないことも難点でございましょう。
排泄物問題は、わたくしの永遠のテーマかもしれません。数年前から相変わらずなので、「なにやってんのさ」と叱られそうでございますが、症状は進行していくのであり、4年前に大問題だった「コップにオシッコ」や「洗面台にオシッコ」は、現在まったく見なくなりました。
対策すると別の場所へと変化するイタチごっこなので、歩けるうちは治まることはないと思っております。歩けなくなったらなったで、また違った問題が起こるとは思いますが…。
老々介護の末に夫に手を掛けてしまった妻のニュースを読んで胸が苦しくなりました。もちろん妻に対しての共感からでございます。なんでこんな悲しい事件が起きてしまうのか。「施設に入れればよかったんだ」と言うのは簡単でございます。でも正論で割り切れない事情や心情があるからこそ、起こってしまったのであり、似たような事件が全国でどれだけ起きているかと思うと切なくなります。
施設の人手不足を聴くにつれ、入所させるのを躊躇ってしまうこともあるでしょう。介護施設での虐待事件も辛い現実です。80歳を超えて、夫の介護を一人でしなければならなかった奥様を20年後の自分に置き換えてしまい、おもた~い気持ちになったツガエでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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