86才、一人暮らし。ああ、快適なり【第38回 生きる工夫】
私たちの身の回りには、かぎりない見果てぬ夢が漂っている。それを拾い集め、1本の糸に通してみる。無駄な時間つぶしに思えるようなところから、様々な可能性が沸き出してくる。
とても退屈なんかしていられない。次から次にとてつもないことを思い描いていると、時間は瞬く間に経ってしまう。
空想、夢想を軽んじてはならない。次なるステップは、他愛(たあい)のない非論理的な空間が運んで来てくれる。
自分の自由な時間。これはあるようでなかなか手に入れることが出来ない貴重な時間なのだ。
同時にいろいろなことがやれる人と、徹底的に集中する人とがいる。
「ながら族」というのが流行語になったのは、かなり以前のような気がするが、私はずっとながら族を続けているように思う。
2冊の本を並べて読むとか、テレビを見ながらメシを食うとか、歌を口ずさみながら原稿を書くとか。
いずれも大好きだし、一種の得意技ではないかと自負している。面白いからやってみたらいいと勧めたい。
自慢にもならないが、私は子供の頃、のべつ注意散漫だと叱られた。教師や親の眼にはそう映ったのだろう。
私は全く意に介さなかった。あちこちに注意を向けるのが当然だと思えたからだ。
私はのべつ生きる工夫というか、生きる楽しみを求めていた。
老いて益々その傾向が強くなった。その証拠にいつも落ち着かない。好奇心が旺盛である。美しい女性、または好みの女性に会うと、その人の裸身を想像する。
つまり、私はとてもいやらしい男なのだ。だって楽しいんだもん。
矢崎泰久(やざきやすひさ)
1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』最新刊に中山千夏さんとの共著『いりにこち』(琉球新報)など。
撮影:小山茜(こやまあかね)
写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。