高齢者のための正しい「口腔ケア」手順や注意ポイントを専門家が解説「口内は保湿が大切」
「介護が必要なかたや、加齢によって唾液の量が減ってくると、口内が乾燥してくることも。口の中が乾燥していると歯ブラシなどで口の中が傷つきやすくなるため、水分で湿らせたり、口腔ケア専用の保湿剤で口の中を適度に潤したりしておくことが必要です」
・保湿剤の選び方
「口腔専用の保湿剤は、たいていドラッグストアで歯磨き剤や洗口剤の売り場で扱っています。種類は、ジェルやスプレータイプなどがあります。
ジェルとスプレータイプの違いは持続力です。こまめに口腔ケアをできるかたは、スプレータイプを使用して乾燥が気になったときに使うのがいいと思います。
ジェルタイプは持続力が高いので、寝る前などに塗ると朝までしっかり保湿されます。一方で、ジェルが口の中に残るため、途中で食事をする場合には不向きなことも。
保湿剤の味が食事の邪魔をしてしまう場合があるので、食事を挟む場合にはスプレータイプのほうがおすすめです」
保湿剤の代わりに油で代用も
「訪問看護で在宅介護をしているかたのご自宅に伺うと、保湿剤のご用意がないこともあります。そんなときは、オリーブオイルや白ごま油などで代用することも。
油分による粘膜の保湿作用が期待できるため、看護・医療の現場で用いられている方法です。歯磨きが終わったあとに、ガーゼなどに油分を含ませて、口内に薄く塗布します」
口腔ケアの正しいタイミングは?
口腔内の状態は、全身の健康状態を表す鏡ともいえます。乾燥や粘膜の状態などを日頃からチェックするようにしてください。口腔ケアは、できれば毎食後30分以上経ってから行うのがベスト。難しい場合は、寝る前には必ず行うようにしましょう。
食後すぐは、食べ物を咀嚼して飲み込んでいるので、口の中の菌自体は一番キレイな状態ですが、食物のカスなどが残ることで、菌が繁殖するきっかけに繋がるため、食後の口腔ケアは大切です。
しかし、食事で酸性の食べ物などを食べたときには歯の表面が一時的に柔らかくなっていることがあるので、食後すぐに口腔ケアをすると歯を傷つけてしまうことも。そのため、食後30分以上経ってから口腔ケアをすることをおすすめします。
食後に口腔ケアができなかった場合には、うがいをするか、水やお茶など糖分を含まないものを飲んで、口内の乾燥を防ぐとともに、なるべく口の中に食べ物のカスが残らない状態にしておきましょう」
口の中だけでなく表情にも注意を
私たちプロがとくに介護の必要なかたの口腔ケアを行うときに注意しているのが、口の中だけに注目せず、お顔の表情も注意して見ることなんです。
家族が親御さんの歯磨きをするとき、口元ばかり注意してしまうと、表情の変化に気がつきません。歯磨き中にどこかが痛いとか体勢が苦しいなど、表情に出ているかもしれません。口腔ケアといっても、ときどきお顔の表情を見たり、体全体を確認したりと、少し広めにアンテナを張っておくといいと思います」
高齢者のための正しい口腔ケア【まとめ】
要介護者高齢者の場合は、看護師や歯科医・歯科衛生士などの専門家のアドバイスを受けながら、正しく安全な方法で口腔ケアを継続することが重要とのこと。
「要介護度に応じて、口腔ケアのやり方や難易度も変わってくるため、専門家に相談をして、プロに任せることも考えてください。
ケアマネさんに相談して、介護保険で利用できる訪問看護や歯科衛生士による口腔ケアを受けることも可能です。また、行政でも年度内に1回など『訪問口腔ケア健診』を無料で行っているところもありますので、お住まいの地域の行政に問い合わせてみてください。
歯磨きなど一連の口腔ケアは、自己流で済ませてしまうかたも多く、訪問口腔ケアを受けたことをきっかけに、その間違いに気がつくということもあります」
飯塚さんが担当した訪問介護の利用者からは、「自分ではしっかり磨いているつもりだったけど、完璧ではなかった。早めに気がついてよかった」という声が多いという。
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最期まで自分の口から食べるためには、正しい方法で口腔ケアを継続することが大切だと痛感した。60代になりすっかり歯が弱ってきたと感じている記者だが、改めて自分と親に正しい口腔ケアを実践していきたい。
教えてくれた人
訪問看護師・飯塚千晶さん
大学病院の頭頚部外科・口腔外科勤務を経て、2018年に看護師の母と妹とともに「訪問看護ステーションやごころ」を設立。日々の訪問看護の傍ら「新宿食支援研究会」にも参加し、看護師のための口腔ケアについて考えるワーキンググループのリーダーもつとめる。歯科医・歯科衛生士との連携も深め、ひとりでも多くの人に「最期まで自分の口でおいしく食べてもらう」ためのサポートに尽力している。http://souken.group/
監修/訪問看護ステーションやごころ 歯科衛生士 取材・文/本上夕貴
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