追悼・矢崎泰久さん 自由とタバコと女性を愛した人生、貫いた信念
ジャーナリストで元『話の特集』の編集長の矢崎泰久さんが12月30日亡くなった(享年89)。
反権力 伝説の雑誌の編集長
『話の特集』は、時代の最先端の文化人を起用し、反権威の雑誌として若者世代から絶大な支持を集めた伝説の雑誌だ。
介護ポストセブンでは、2017年7月から50回にわたり矢崎さんに書き下ろし連載「84才、一人暮らし。ああ、快適なり」(タイトルの年齢は当時のもの。50回では86才~)を掲載してきた。タイトルの通り84才の矢崎さんは、ご家族とあえて離れて一人暮らしをされていて、それがいかに心地よいかというお話をしていていた。
ああ、それってなんて素敵な歳のとり方なのだろうと感銘を受けた私は、早速、矢崎さんに高齢者の日常エッセイをご執筆いただきたいとお願いし、実現した連載だった。
当サイトの執筆者のほぼ全員がもちろんパソコンで書いたお原稿をあげてくださる中、矢崎さんは、原稿用紙に万年筆でご執筆くださった。隔週の連載だったので、2週間に一度、お原稿をいただきに、矢崎さんがお一人で暮らす杉並のお宅に伺った。
いつもランチタイムの少し前、渋谷のデパ地下で複数のお総菜を購入してお邪魔した。おかずをお皿に並べ、ひと時、矢崎さんとお食事を共にするのが慣例になった。
矢崎さんは、とても食通だったので、デパ地下のお総菜とはいえ、そのセレクトを気に入っていただけるのか緊張したが、毎回、「おいしいね」と笑顔で召し上がってくださった。テレビはNHKのBSがついていて、メジャーリーグを好んでご覧になっていた。国会中継のことも、ニュース番組のこともあった。
その時々の世相を、矢崎さんの解釈で解説くださる。私は、ただただ相づちを打つだけ。約2時間の滞在中、ほとんど矢崎さんが一人でお話しされる。各界の著名人・偉人とのエピソードは、まるで映画かドラマを見ているかのごとく魅惑的で、釘付けになったものだ。編集者の大先輩(そんな言い方も畏れ多いが)だった矢崎さんは、私の意図をいつもすぐ汲んで、お願いしたテーマのはるか上をいく内容でお原稿を書き上げ、撮影のときは、カメラにポーズした。達筆だったが、お原稿の文字はとても読みやすかった。これも、編集者だった所以だろう。そして、原稿用紙は、タバコの香りがした。お酒を一滴も召し上がらない矢崎さんが愛したタバコの銘柄は「che」。
矢崎さんは、タバコとそして、女性をとても大切にしていた。初めて私が矢崎さんの事務所に伺った日の帰り、玄関で、「せっかくうちまで来てくださったのに、何もお構いしないでごめんなさい。いつか、私に春が甦ったときは必ず…」とおっしゃったのだ。
女性が、男性が一人で暮らす部屋にやってきたのに、ちょっかいを出さないなんて、とても失礼なことをしてごめんなさい、という矢崎さんならではの愛嬌だ。今だったら、物議を醸してしまう発言かもしれない。もちろん、私もそんなことを言われてビックリしたが、でも矢崎さんは、とても真面目に、私に申し訳ないとおっしゃっているのがちょっと可愛らしいなとも思ったことを思い出す。
矢崎さんのお原稿は、愉快で含蓄にみちて、そしてご自身の信念を貫いていた。「第2回 老いはするが老人にはならぬ」を改めて公開する、矢崎さんの考える「老い」を是非お読みいただきたい。
矢崎さんのご冥福を心よりお祈りいたします。矢崎さん、ありがとうございました。
介護ポストセブン編集長 関和子