「たくさんの野菜を娘夫婦に送ったら迷惑なのか?」文句を言う父親を毒蝮三太夫が諭す|「マムちゃんの毒入り相談室」第41回
「親の心、子知らず」と言う。子どもの側としては、気持ちは嬉しくても行為を喜べるとは限らない。世代間のギャップや生活習慣の違いで、親の思いが子どもにとっては迷惑になることもある。東京に住む娘が、北海道の野菜をたくさん送ると文句を言うと怒る80歳の男性。「それは送る側の自己満足だ」とマムシさんが喝を入れる。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「北海道から娘夫婦にたくさんの野菜を送ったら迷惑がられた」
サッカーのワールドカップは、ビックリしたね。俺はスポーツ観戦といえば昔からもっぱら野球なんだけど、さすがに日本代表チームがとんでもない大仕事を成し遂げたのはわかる。いやあ、よくやったよ。日本の若者を見直した。この記事が出るころには、決勝トーナメントのクロアチア戦が終わってるのかな。またまた強そうな相手だけど、ドイツやスペインのときみたいに、大金星をあげてほしいね。二度あることは三度ある!
今回の相談は、80歳の男性からだ。ずいぶん怒ってるみたいだな。
「妻を5年前に亡くして、ひとり暮らしです。北海道に住んでいるので、農産物はいい物が安く手に入ります。知り合いがくれたりもします。ところが、東京に住む娘夫婦に、旬の玉ねぎやジャガイモ、カボチャなどを送ると、『気持ちは嬉しいけど、こんなにたくさん食べられない』と文句を言われます。
段ボール箱にたくさん入れて送っていますが、近所や知り合いに配れば喜んでもらえるはずだし、少しだけ送るなんてケチ臭い真似はしたくありません。とくに今年は玉ねぎが高いと聞いて多めに送ってやったのに、そんなことを言われるとは思いませんでした。
いちばん悲しいのは、我が子が親の好意を素直に受け入れられない人間になってしまったことです。どうすれば私の気持ちをわかってもらえるでしょうか」
回答:「向こうの事情を考えないと『大きな荷物、大きな迷惑』になる」
おとっつぁんとしては、かわいい娘に北海道のうまい野菜をたくさん送ってやりたいんだな。おとっつぁんは「親の心、子知らず」と思って怒ってるかもしれないけど、俺から見ると「子の心、親知らず」だ。親知らずったって、歯の話じゃないぞ。
娘夫婦は東京にいるんだろ。近所付き合いの形は、北海道とは違うよ。「田舎から送ってきたから」って近所におすそ分けするって習慣は、ほとんどなくなったんじゃないかな。それはいい悪いじゃない。時代の変化と地域ごとの習慣の違いだ。
「どんどんあげればいいじゃないか」と思うかもしれないけど、もらったほうはお返しの心配をしなきゃいけない。だからあげるほうだって気をつかっちゃう。物をあげたりもらったりの関係がデキちゃうと、お互いにわずらわしいって一面があるんだよ。
娘夫婦としては、父親の気持ちがこもった野菜だから無駄にしたくない。だけど、悪くならないうちに食べきれる量じゃないとなれば、さぞ困ったと思う。「こんなに食べられない」と言うのも、勇気がいったはずだ。怒ってないで、そういうことに想像力を働かせてあげなきゃ。我が子が「親の好意を素直に受け入れられない人間」になったわけじゃなくて、おとっつぁんが「子どもの声に耳を貸さない人間」になってるんじゃないかな。
そもそも戦争中や終戦直後じゃないんだから、今の日本で食べ物がなくて困るってことはない。おとっつぁんは子どもを思う気持ちを箱に詰めて送りたいんだよな。その気持ちは娘さんも嬉しいはずだ。だったら気持ちの押し付けみたいなことをしないで、いろんな野菜を少しずつ入れてやるとか、相手にとってありがたい形を考えてやらないと。
ちょっと話は違うけど、ウチのオヤジの実家は横浜のはずれのほうにあった。オヤジがいつも「あそこんちでメシをおかわりすると、俺は少しでいいって言ってんのに必ず山盛りにしやがるんだよ」って文句言ってたな。向こうにしてみれば「遠慮して言ってるんだな」と思って、気を利かせてたくさん盛ってくれてるわけだ。
日本人はそういうふうに、相手の気持ちを慮って気をつかったつもりが裏目に出ることがよくある。自分の常識や習慣に疑問を持たないことや、相手が遠慮して言ってるのかそうじゃないのかを一歩踏み込んで想像しようとしないことが、行き違いを生むわけだ。オヤジも「少しでいいって言ってんだから、少しよそってほしいに決まってんじゃねえか」って、自分の常識を押し通すばっかりでちゃんと説明しないから、そんなことになる。
年寄りに大事なのは、柔軟性と想像力だ。自分の感覚がすべてだと思っちゃいけない。相手がどういう環境で暮らしてて、野菜をたくさん送ったらどうなるかも想像しなきゃ。
「俺はたくさん送りたいんだ。もらう側が文句言うな」っていうのは、送る側の自己満足だよ。今のままだと「大きな荷物、大きな迷惑」になっちゃうだけだ。
キツイことを言ったけど、娘夫婦に野菜を送ってやりたいだなんて、いい父親じゃないか。ひとり暮らしだと、誰も「そんなに送ったら相手が困るよ」って言ってくれないもんな。頭をやわらかくして、意地を張るのをやめて、ちょっとやり方を変えてみよう。そうすれば、娘夫婦も「ありがたいな。嬉しいな。いいお父さんだな」と心から感謝してくれるよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。