減塩生活を助ける夢の食器!? 塩味を濃く感じる魔法のスプーンを記者が試してみた!
キリンホールディングスが明治大学と共同で開発した、独自の電流波形を登載した新たな食器が注目を集めている。電気による刺激波形を用いた味を調整できる技術で、減塩食の塩味を強めることで、おいしく感じるという。食器で減塩ができるとは、高血圧が気になるシニア世代にとって夢のよう! しょっぱいもの大好きで毎朝むくみが気になるR40記者が、注目の食器『エレキソルト -スプーン-』と『エレキソルト -椀-』を試してみた。
減塩食品の味は物足りない!
高血圧や動脈硬化、生活習慣病など、塩分の摂りすぎからくるさまざまな問題が指摘されている昨今。スーパーに行けば、「塩分控えめ」「食塩不使用」「無塩」「塩分ゼロ」などの文字が書かれた商品がずらりと並んでいる。でも「健康でいたいけど、薄味では物足りない!」という気持ちが正直なところ。
しょっぱいものが大好きで、翌朝むくんでいることも多い記者。塩分の摂りすぎは気になるけど、減塩食はイヤ…。そんな食の悩みを解決すべく、塩味を増強するスプーンとお椀が開発されたと聞き、体験会に参加してみた。
塩味を増強させる夢の食器を開発
減塩食の塩味を増強させる、まるで魔法のようなスプーンとお椀って、いったいどんな仕組みなのだろうか?
開発を手がけたのは、キリンホールディングス・ヘルスサイエンス事業部の佐藤愛さんだ。佐藤さんが減塩に着目したのは、大学病院で食品素材の開発をしていたときのこと。
「食事療法で辛い思いをされている患者さんが多いことを知りました。食べ慣れた濃い味の食事から薄味に変えるのは難しく、食欲が落ちてしまうこともあるとわかりました」と、佐藤さん。それを機に、「おいしいを諦めない」を理念に、塩分の摂り過ぎによる生活習慣病など社会課題と向き合って来たという。
そもそも、日本人の1日当たりの食塩摂取量は20才以上の男性で10.9g、女性で9.3g(厚生労働省 令和元年 国民健康・栄養調査より)。WHOが掲げる食塩摂取量の基準は、5.0g未満(2012年、WHOガイドライン)となっており、約2倍もの食塩を摂取していることになる。
韓国ラーメンが大好きな記者の塩分摂取量は?
佐藤さんの話を聞きながら、記者は前日の食事内容を振り返ってみた。
最近は韓国料理にハマっていて、ここ5日連続でお昼ご飯は韓国の辛くてしょっぱいインスタントラーメン。とくに大好きな激辛ラーメンの食塩相当量を調べてみると1食分で5.2gという驚愕の事実が判明した。たった1食で1日の摂取基準量を超えていることにビックリ&恐怖を感じた。塩分を控えなければと思う一方で、頭の片隅では「だからって薄味のラーメンはちょっと」という気持ちも…。
同社が実施したアンケートによると、塩分を控えた食事に対して不満を感じていると答えた人は62%、そのうち、味に対する不満を抱えているのは8割にも上ったという。さらに、減塩に取り組んでいる人に行った調査によると、薄味ではなく、濃い味で食べたいものの第1位はラーメン、2位は味噌汁だったそう。「みんな同じ気持ちだったんだ!」と何故か安心。
そんな問題を解決すべく、2019年2月より、同社は明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明研究室とタッグを組み、電気刺激波形によって減塩食の塩味を約1.5倍に感じる技術を開発。『エレキソルト -スプーン-』と『エレキソルト -椀-』の発表に至った。
舌で塩味を強く感じる仕組みとは?
いったいどんな仕組みなのか?佐藤さんが解説する。
「『エレキソルト』に使っているのは、電気味覚の技術。通常は、食品中には、塩味のもととなるナトリウムイオン(Na+)が唾液中に分散している状態です。そこに微弱な電流を流すことで一度舌からナトリウムイオンを引き離します。さらに電流を反転させることで、引き離したナトリウムイオンを舌に付着させることで、塩味を強く感じることができる技術になります」(佐藤さん)
電流を流すことで、ナトリウムイオンをコントロールして塩味を感じる!? いったいどんなふうに味が変化するのだろうか。
魔法の食器で減塩ラーメンを食べてみた!
記者の目の前に、通常のラーメンよりも30%減塩されたラーメンが運ばれてきた。見た目はとってもおいしそう!
使い方はとっても簡単。まず、スプーンは、柄にあるスイッチを長押しでスイッチオン。強度は4段階から選択できる。スプーンの柄の部分を持つことでスプーンの先端から微弱な電流が流れて、食材の味が濃く感じられるという。お椀も同様、側面にある電源をオン。お椀の底に手を添えることで体内に微弱な電流が流れる仕組みだ。
まずは、電源を入れずに減塩ラーメンを食べてみた。そのままスプーンでスープをすくって飲んでみると、普段は濃い味ばかりを好んでいることもあって、かなり物足りない! いや、物足りないどころか、正直、お湯を飲んでいるような感覚に近い、かなりの薄味だ。
いざ、スプーンに電源を入れて実食してみると――。
「濃い!!」
とまではいかないけれど、優しい塩味を感じられた。隣で食べていた別の記者たちは、「ピリッとする感じで味が濃くなった」「スプーンよりもお椀に直接口をつけたほうが濃い味になる」など、感嘆の声が聞こえてきた。
佐藤さんいわく、「非常に微弱な電流だが、人によっては電気の刺激を感じやすい人もいる。その場合は、強度を弱めて使用してほしい」そうだ。
今後は、実証実験で有用性を検証し、2023年に日本国内での発売を目指すという。「健康的においしいものを食べる」を叶えてくれる注目の食器だ。塩分が気になるシニア世代の食事のサポートのほか、介護施設や病院にも広まっていくといい。
撮影・取材・文/氏家裕子
●減塩で本当に健康になれるのか?長生きできる「適塩」を考える