女優・吉行和子さん(87才)が語る今の時代に必要な力「人に期待しない生き方は楽よ」
女優やエッセイストとして長年活躍してきた吉行和子さんは現在87才。昭和、令和、平成を生き抜いてきた彼女は、今の時代がどう見えているのだろうか?3年目を迎えた新型コロナウイルスとの共存生活、SNSの普及などで人とのつながりが希薄になりがちな今の時代を抜く術を聞きました。
いまの人はSNSの普及で周囲からの評価や意見ばかり気にするようですが、窮屈だろうなって思います。世の中にはたくさんの人間がいるから、何を言われるか一喜一憂していたら大変。もちろん褒められればうれしいけど、褒める側も社交辞令になっていて気の毒です(苦笑)。
尊敬する俳人の金子兜太さん(享年98)は、「世の中や周りの人間に惑わされない自由な気持ちを大切にしよう」とおっしゃいました。その言葉の通り、褒められてもけなされても気にすることなく、自分ができること、やりたいことを自由にやればいいと思います。
私は2才のときに小児喘息を患いました。発作が起きると死ぬほど苦しい日が10日続き、治まるとケロッとして平気になることの繰り返し。周りの同級生が将来の夢を語り始めるなか、発作持ちの私は夢を持つどころか、仕事もできないと絶望していました。
苦しい生活で自然と身についたのが「諦めのよさ」。当時は翌日のお出かけを楽しみにして妹とお揃いのセーターを枕元に置いて寝たら、朝4時に急に発作が起きるんですよ。100%の楽しみのうち2%も3%も残ることなく突然0%になることばかりで、ものすごく諦めがよくなりました。
いまでもお芝居で望んだ役が回ってこなくても、「なぜ私ではなくあの人が」とは思いません。いくら理不尽なことをされても、「この人はそういう人なんだな」と受け取るだけで、恨んだりめげたり、愚痴をこぼすこともない。悩みを人に打ち明けたり相談したりすることもなく、全部自分の中で解消します。
コロナ禍では人間関係を問い直す人が増え、同調圧力も話題になりましたが、幸せのかたちは人それぞれなので、「自分は自分、人は人」と割り切ってつきあえばいい。安直なアドバイスはすることも、されることも望みません。冷たいと言われるかもしれないけれど、人に期待しないだけですごく生きやすくなり、心が健全でいられるんです。
中学生のときに初めて観た新劇に魅せられ、高校3年生で劇団民藝の生徒募集に運よく合格しました。最初は不安だったけれど、不思議なことに劇団に入ると喘息が治まり、好きでやりたいからと続けるうちに少しずつ元気になりました。嫌なことがあっても、そこから次のことを考えて希望を見つけて、絶対に後ろには引かない。そういう強さは自分にあると思っています。
いまは新型コロナだけでなく、ウクライナとロシアの殺し合いやさまざまな社会問題など嫌なことが多く、どこまで人間は恐ろしいのかと気がめいります。そんな希望が持てない時代に必要なのは、世の中の嫌なことをはねのけるくらい、自分を楽しませるものを見つけることではないでしょうか。
自分を楽しませるのは自分しかいません。他人が与える楽しさは一時的にはありがたいけど、その人が離れていったら維持できず、「私は裏切られたのか」という恨みや失望が残ります。だからこそ、自分を楽しませる力を自分の中に育むことが大切です。
そのためには、自分の頭を使って考えないといけません。身の回りで起きていることや自分自身について、人の意見をうのみにするのではなく、自分はどう思うのかを考える。少しでも「おかしいな」と思うことがあれば本を読み、自分なりに調べて、なぜ違和感を持ったのかを追究する。
そうやって心のスキマを埋めることが夢や希望を持ち、自分の力で楽しい人生を送ることにつながります。それこそが長い人生を乗り切るために必要な力です。
プロフィール
吉行和子さん・87才
女優。東京出身。高校在学中に劇団民藝付属水品研究所に入所。’57年に舞台『アンネの日記』でデビュー。『愛の亡霊』(大島渚監督)、『東京家族』(山田洋次監督)では日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。女優のほかにもエッセイストとしても活躍している。
文/池田道大 取材/平田淳、宇都宮直子、進藤大郎、村上力
※女性セブン2022年9月15日号
https://josei7.com/
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