大空眞弓さん(82才)が終の住処に沖縄・石垣島を選んだ理由「人生を楽しみたい!」
女優の大空眞弓さんは、東京の家を引き払い沖縄の石垣島で暮らしている。リモートワークが当たり前になるなどライフスタイルが変化したいま、都会を脱出して自然豊かな地方に移住する人が増えている。大空さんが終の住処としてなぜ石垣島を選んだのか、移住までの道のりと今の暮らしを取材した。
大空眞弓さん「石垣島で暮らしたい」
大空眞弓が移住の決意を明かしたのは、2021年1月、年が明けてすぐのことだ。
「東京の家を引き払い、沖縄県の石垣島で暮らしたいから、一緒に行ってほしい」と、同居していた息子夫婦に持ちかけたのだ。
そのときのことを、不動産業を営む息子の中田元博さん(47才)は、こう振り返る。
「本当に突然のことで、それはもうびっくりしました。毎年のように石垣島に遊びに行き、『ここに住めたらいいね』という話はしていましたが、旅行先で居心地がいいという“せりふ”のようなものだと思っていたら、『本気で住みたい』という話になりました。
いままでだったら『そんなバカなこと、言ってんじゃないよ』って、笑っておしまいにしたと思うんですが、そのときはなんかスッと入ってきたというか、『じゃあ、一緒に行こうか』ということになり、3か月後には仕事も家もすべて整理し、こっちに来ていました」(中田さん)
大空自身もここまでとんとん拍子に進むとは思っていなかったと言う。
「もう80才を過ぎた高齢者ですから、ひとりで移住なんて無理。息子に反対されたら諦めようと思っていました。最初は怪訝(けげん)そうな顔をしていた息子が、否定的なことを一切言わず、私のわがままを受け入れ、つきあってくれると聞いて、本当にうれしかった。いまは石垣島でとても穏やかに、幸せに暮らしております」(大空・以下同)
移住を決意した2つのきっかけ
そもそも、彼女はどうして東京から石垣島への遠距離移住を決意したのだろう。
移住する前まで住んでいたのは東京・千代田区の九段あたり。昔は家から富士山が見え、数軒先には大きな銭湯が3軒もある、静かで人情味のある街だったという。
「だんだんビルが増えて、私が子供の頃に暮らしていた街とかけ離れていく。町内全員でそろいの浴衣を着て靖国神社の盆踊りに行く、そういうのがなくなってしまうことに寂しさを感じていたんです。いつかは静かな、人情味のある場所に住みたい。できれば海の見える場所で、と思うようになりました」
もう1つは、仕事のこと。せりふを覚えるのも体力的に難しくなり、第一線から退く時期だと感じ始めていた頃、倉本聰脚本の連続ドラマ『やすらぎの刻~道』(2019年・テレビ朝日系)への出演依頼が舞い込む。
「出演者は同年代のかたがほとんどで、話も合うし、とても楽しい現場でした。それまで交流のなかったミッキー・カーチスさん(84才)と友達になったり、プライベートでは仲がよくてもテレビドラマでの共演がなかった浅丘ルリ子さん(82才)や水野久美さん(85才)とも共演できました。気負うことなく仕事はできましたが、ルリ子さんなんて、一度もNGを出さなかったんじゃないかっていうくらい素晴らしくて、撮影が予定より4~5時間早く終わったりして(笑い)。それに追いつこうと毎回必死で、緊張もしました。
この作品の演出を担当した藤田明二さんは、私が『愛と死をみつめて』(1964年・TBS系)に出演したときのAD(アシスタントディレクター)だった人。その彼がトップの演出にいるというのも感慨深いものがありました。そういういろいろな思い出があったドラマでしたから、終わったときはちょっとホッとしたのと同時に、やりきったという気持ちも大きかったんです。
ドラマが終わったときはとても名残惜しかったのですが、もう、こういうドラマに出演するのは大変かなとも思ったんです」
体力があるうちにやりたいことをやる
「元気なうちに、人に迷惑をかけないで、やりたいことをやろう。行動するなら早い方がいい」
コロナ禍の自粛生活が続く中でそう考えているうち、年が明けたタイミングで決意が固まり、すぐに息子に相談。3か月後には石垣島の住民になっていた。
3か月の準備期間で身の回りのものをどんどん処分。大切にしていた着物やバッグ、洋服は似合いそうな人やほしいと言ってくれる友人たちに譲り、家具や食器も手放した。
「昔の写真も手元にほとんど残していない」と笑う。
「会いたい人はそばにいるし、声が聞きたければ電話をすればいい。思い出は心の中にあるし、物に執着する必要はないんです。高価な毛皮のコートもありましたが、南の島でそれは必要ないでしょ(笑い)。2匹の愛犬さえ連れて来られれば、ほかはなくても大丈夫!と思ったんです」
いまは、近所のカフェにお茶を飲みに行くのも、書店で本を探すのも、息子夫婦と3人で行動している。
息子夫婦と愛犬2匹との暮らしは100%満足
「石垣島での時間の流れはとてもゆるやか。起きたいときに起き、料理上手なお嫁さん(44才)が作ってくれる食事を味わいながら食べる。彼女は元看護師で、病院にも連れてってくれるし、お医者さんの話を全部聞いてくれて薬の管理もしてくれる。
息子は街まで車で連れて行ってくれ、家族の中でいちばんセンスがいいので、服を選ぶのを手伝ってくれるし、書店での本探しにもつきあってくれる。最も迷惑をかけているのは、当然、年寄りの私。そんな私が暮らしやすいように家を整え、ふたりが気を使ってくれる。そんな感じで家族3人と、愛犬2匹で仲よくやっています。いまの暮らしに100%満足しています!」
これから移住を考えている人へ
「知らない土地に行ってイチから始めるというのも魅力があると思うんですけど、私みたいに甘ったれの人は心細くなるので、知っている人が身近にいた方がいいですね。私の場合は息子夫婦と一緒に移住できたので、本当に助かりました。近くに息子の友達が住んでいたことも、力になっていると思います。そんな人との縁がつながっている場所だから、石垣島を終の棲家と決められたのだと思っています。家の近くに食事ができるすてきなカフェがあるんですよ。そこのご夫婦にはとてもよくしていただいていて、本も読める。
息子の友人宅にあるプライベートビーチみたいなところで本を読むのも楽しい。息子の友人や島の人たちみんなと家族のようなつきあいができるので、寂しくなんかありません。むしろ、毎日が楽しすぎるくらいです」
もっぱらの楽しみは、テレビでのスポーツ観戦。ウィンブルドンテニスではジョコビッチを、6月19日の那須川天心VS武尊戦では、武尊を声がかれるほどテレビ桟敷で応援した。隣近所を気にせず、深夜であろうと大声で応援しながらスポーツ観戦ができる環境もお気に入りだ。
「100%満足と言いましたけど、虫とヤモリにだけは慣れないわね」と笑いつつ、そんな環境を楽しんでいる。
教えてくれた人
大空眞弓さん/女優
1940年、東京都生まれ。父は沖縄県出身。1958年に新東宝に入社し、『坊ちゃん天国』でデビュー。以来、ドラマ・映画・舞台で活躍を続ける。56才から患ったがんを9度も乗り越え、石垣島での暮らしを満喫している。
本人写真提供/大空眞弓さん 取材・文/山下和恵
※女性セブン2022年8月18・25日号
https://josei7.com/
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