橋田寿賀子さんのように生涯現役で生きる秘訣は「歯」と「筋肉」 橋田さん実践のスクワットも紹介
最期のときまで、寝たきりにならずに元気に過ごし、穏やかに旅立つ…。それは誰もが願うことだろう。2021年に他界した橋田壽賀子さんは、亡くなるひと月前までトレーニングを継続したという。晩年を見守ったトレーナーが、橋田さんのように健やかな晩年を暮らす秘訣を明かしてくれた。
「“やる気”と“サボりたい気持ち”が常に常に闘っている」と語った橋田壽賀子さん
「橋田さんは、“人生は闘いよ”が口癖でした」
2021年に亡くなった脚本家・橋田壽賀子さん(享年95)のパーソナルトレーナーとして、晩年の姿を近くで見ていた八代直也さんが振り返る。
「何をするときでも“やる気”と“サボりたい気持ち”があって、常に心の中で両者が闘っているとおっしゃっていました。年を重ねれば誰でも、運動や外出が面倒になりますが、動かなければ体の機能はどんどん衰えていきます。橋田さんはサボりたい気持ちに負けずに体を動かしていた。だから最期まで寝たきりにならずにお元気で、旅立ちも穏やかなものだったのだと思う。橋田さんのように強い気持ちを持った人こそが、健康で長生きされるのではないでしょうか」
おいしいものを最期まで口から食べるために
橋田さんのように穏やかな最期を迎えるためには、終末期だけでなくそれまでの日常をどう生きるかも重要なのだ。専門家が特に重要視するのは「歯」を大切にすることだ。在宅訪問医として多くの患者の最期に立ち会ってきた立川在宅ケアクリニック院長の荘司輝昭さんが言う。
「最期まで口から物を食べられる人は、安らかな最期を迎えやすい。歯茎がやせて入れ歯が合わなくなった高齢者が、入れ歯を変えた途端に食事を摂れるようになって、元気を取り戻したケースもあります。歯の健康は重要なので、在宅医療の訪問医を選ぶときは、訪問歯科と連携を取っているかもチェックポイントになります」
八代さんも、おいしいものを食べたいという欲求は、長寿につながると話す。
「橋田さんはおいしいものに目がなかった。お土産で新潟のおせんべいを渡したときに大変気に入ってくださり、自らその会社に電話して、お取り寄せしたというのです。おいしいものを食べたいという気持ちは、元気の素だと思います」(八代さん)
口腔内の環境と寿命を裏付けるデータもある。東京都立大学名誉教授で医師の星旦二さんが解説する。
「多摩市(東京)の高齢者1万3066人を対象に追跡調査をした結果、口腔ケアや歯の治療などをするかかりつけ歯科医のいる人は、いない人に比べて寿命が維持されることがわかっています。歯が悪くなってから歯科にかかるのではなく、予防のための定期受診を心がけるべきでしょう」
いつもでも自分の足で歩くためには腸腰筋を鍛える
自分の足で歩けることも、穏やかな死を迎えるにあたって大切なポイントだ。実際、寝たきりの状態は認知症リスクを上げるという調査もあるうえ、内閣府が高齢者を対象に行った「幸福度、不安に関する意識調査」でも「病気になること」「介護が必要な不自由な体になること」が「不安を感じること」のツートップだった。八代さんは、最期まで自分の足で歩くために、「腸腰筋」を鍛えることを推奨する。
「腸腰筋は大腰筋、小腰筋、腸骨筋という3つの筋肉の総称で、腰から太もものつけ根にかけて上半身と下半身をつないでいる筋肉です。腸腰筋を使わなくなると、筋肉が衰えて硬くなり、腰痛の原因にもなるし、立ち上がったり歩いたりすることがスムーズにできなくなります。脚が上がりにくく歩くとつまずきやすかったり、姿勢が悪くなったと感じる人は、腸腰筋の機能が低下している可能性が高いのです」(八代さん・以下同)
腸腰筋を鍛えるために八代さんが推奨するのは筋力トレーニングだ。
「スクワットや、上半身をひねるストレッチの『らせん状筋膜リリース』など、腸腰筋を鍛えるトレーニングに積極的に取り組んでほしいです。ジョギングや水泳など有酸素運動だけでは、腸腰筋はなかなか鍛えることができません。とはいえ、有酸素運動であるウオーキングは、血行を改善し、ふくらはぎを鍛える効果もあります。1時間運動できる人は、有酸素運動と筋トレを30分ずつやるのもおすすめです」
《橋田さんも実践していた!腸腰筋を鍛える2大トレーニング》
【スクワット】
【らせん状筋膜リリース】
壁に寄りかかるように肩の高さに肘をつき、足を前後に開き、前足と同じ側の腕を斜め後ろに開く。背筋を伸ばし、上体をひねり胸の開きを意識してひと呼吸。これを左右10回ずつ繰り返す。
■指導/八代直也さん
周囲の人との関係性を大切にする
運動とともに取り組みたいのは、社会とのつながりを保つための努力だ。
「孤独感はうつリスクを上げ、穏やかな最期から遠ざかってしまいます。実際に会社や趣味、地域活動をやめて社会とのつながりがなくなると、6年間で男性が7割、女性で5割が死亡していました。コロナ禍でつきあいが薄くなりがちですが、電話やZoomでもいいので、人と接する機会を失わないでほしい」(星さん)
八代さんも、最期まで幸せに過ごすためには周囲との関係も大切だと言葉を重ねる。
「橋田さんはおひとりでしたが、常にいろいろな人から食事や外出のお誘いがきていましたし、泉ピン子さんとは毎日電話で話していたそうです。家にはお手伝いさんもいたから、橋田さんが“今日はトレーニングに行きたくない”と言っても車で送ってくれる環境でした。いま私がトレーニングを担当している高齢のかたも、家族から“このままでは寝たきりになるから”と説得されて運動しているケースがほとんどです」(八代さん)
自宅を室温を快適に保つ
最後にもう1つ、自宅を快適に整えることも、最期まで元気に過ごすための重要なポイントになる。星さんが解説する。
「冬場、日本の住宅の6割は、家の中でいちばん室温が高い居間でも18℃以下になりますが、寒い家は病気の温床であり、死亡リスクを上げます。血圧が上がりやすくなり、ヒートショックのリスクも高まるうえ、結露が起こりやすいためカビとダニの温床になり、喘息やアレルギーも発症しやすくなります。窓を二重にしたり、床に届くまでの長さの厚手のカーテンを使ったりして、冷気を防ぎ室温は18℃以上に保つように心がけてください。この室温はWHOも推奨しています」(星さん)
安らかな最期のために、準備できることがあるはずだ。
教えてくれた人
八代直也/パーソナルトレーナー
星旦二さん/東京都立大学名誉教授・医師
イラスト/あべゆきこ
※女性セブン2022年2月3日号
https://josei7.com/