檀ふみさん、自宅の建て替えで“半分になったスペース”を「快適な住まいに整える工夫」
俳優でエッセイストの檀ふみさんは、兄夫婦たちと二世帯住宅で暮らしている。両親が他界して荷物整理に奮闘したり、区画整理によって自宅の土地が半分になったり、家にまつわる大きな出来事を乗り越えて今があるという。コンパクトながらも愛着ある住まいに整える楽しさや工夫を教えてくれました。
家は2回建て替え、同じ場所で暮らしやすく
「家はこれまでに2回建て替えました」と言う檀ふみ。すべて同じ場所だ。
最初の家は、父(作家・檀一雄さん・享年63)が70年ほど前に購入したもの。家のある場所は、東京23区の中でも、とりわけ緑が多い。
「父が中古の家を買い、土地は借地。土地は370坪ほどもあり、そこには離れもありました。普請好きの父は、母屋の増改築を何度か繰り返し、最終的には、広い部屋が8部屋もある大きな家となりました。2軒目は私が20代半ばで施主となって建てたもの。3軒目は、区画整理のため、余儀なく建て替えることになりました」(檀・以下同)
20年ほど前から道路の拡幅計画が始まり、檀の家の敷地がその計画に引っかかった。
「自治体からは立ち退き交渉を求められましたが、私はその進め方に腹を立てていたし、高齢の母が認知症を患っていて、環境を変えるのはよくないだろうと思い、ずっと応じませんでした」
しかし、2015年4月に母・ヨソ子さんが92才でこの世を去った。
「それで兄と私、妹でこの家をどうするか話し合いをしました。計画によると、敷地の半分以上、道路に取られてしまう。私はそのときも、自治体のやり方に納得していなかったので、『こんな街に住むのは…』と思い、引っ越すことも考えましたが、とどまることにしました。理由は、住み慣れていること、徒歩圏内に大きな病院とスーパーが5軒、公園も近くにあること。そして何より、庭の大樹の存在が大きかったですね」
庭には梅、桜、椿、ツツジ、サルスベリなど、季節ごとに花を咲かせる木がたくさん植えられていた。
「うちにある木はそれぞれに思い出があります。父が植え、母が大切に育ててきたものがたくさんあります。引っ越し先に、大樹を運んで移植することも考えましたが、木を10km以上の遠方に移植するとなると、お金や労力もかかりますし、移動により木がダメになってしまう可能性があることも言われて、いまの場所に新しく家を建て替えて、住み続けることにしたんです」
居住スペースが半分になって困った、大量の荷物整理
庭が半分になったことで、居住スペースも約半分に。
「問題は、前の家にあった荷物です。前の家はかなり大きな建物で、回り廊下があり、収納スペースも相当のものでした。壁一面に作り付けの本棚があったのですが、屋根裏部屋や床下収納などもあったんです」
だが、家を建て替えるためには、荷物をすべて整理し、空っぽにする必要があった。
「すべての荷物を私と妹で確認しました。すると、床下や屋根裏からいろんなものが出るわ出るわで、驚きました!大正生まれの母はものが捨てられない人で、父や自分のものはすべて捨てずにとってあったんです。それを整理するのに時間と労力がかかりました」
まず、手をつけたのが、父が旅先で集めた骨董品、美術品、書画の数々。
「骨董品や美術品などは知り合いに、一部をお譲りしました。ただ、尋常じゃないほどの量があったのは、料理好きの父が使っていた器や調理道具。父は一度に50人ほどのお客様を招いて、料理を振る舞うのが好きでしたから、器の大きさも半端ではありません。直径50㎝程度の大きさのお皿やお鉢はざら。食器も同じものが30人分くらいありました。小ぶりなものや枚数のあるものは、6枚だけ手元に置いて、あとは古道具屋さんに、すべて引き取ってもらいました」
次に対処に困ったのが、父の蔵書だ。
「1万冊以上はあったと思います。処分する前に、一度古本に詳しい知り合いに見ていただきました。父の蔵書の中には貴重なものもたくさんあると聞いていたので、素人判断で処分してしまうのは避けたかったのです」
だが、査定の結果は意外な答えだった。
「そのかたは父の蔵書をざっと見て、『いまは復刻版が出ているので、どれもそれほど希少ではありません』と本棚の裏はネズミの巣窟にもなっていたので、傷みがひどかったこともあって自分たちの思い入れのあるものや、三島由紀夫さんのような作家仲間からの贈呈本、全集だけを残して、古書店にすべて買い取り処分をお願いしました。価値のあるものもあったようで、プラス30万円くらいになりました」
同時に、母・ヨソ子さんのものも手放した。
「妹が屋根裏部屋を見て、びっくりしていました。母は戦後すぐに着ていた粗悪な着物も大事にとっていたんです。それで、母の着物関係は、すべて知り合いの着付けの先生に引き取っていただきました」
迷ったものはトランクルームへ
そのほか、迷ったものはひとまとめにして保管している。
「家を建て替える際、マンションで仮住まいをすることになって、そのときマンションに入り切らないものをトランクルームに預けたんです。その後、新しい家が建ち、荷物を運び込んだのですが、いまだに整理は進んでいません。だから、トランクルームにあった父や母のものは手つかずのまま、わが家の納戸に入れています。これは、私よりも若い世代にゆだねようかなと。私の姪や甥あるいはその子供たちの方が、もっといいかもしれません。父や母との思い出がないので、なんの未練もなく処分できると思います。『私にはとてもできないので、あとは頼む!』って。その代わり、手間賃ぐらいの遺産は、残すつもりですけど」
両親の荷物の整理を経験したいま、自分自身はものに対する考えが変わったという。
「若い頃は大きくて、重いものを好んでいましたが、いまは『これは処分しやすいかしら』ということを基準に、ものを買うようにしています。私は子供がいませんから、将来、自分のものは自分で処分しないといけない。だから、家具なども軽いものを選ぶようにしています。現在はいちばん上の兄は地方に住み、2番目の兄夫婦と私、妹の4人で同じ家に暮らしています。私と妹が使う玄関と兄夫婦の玄関は別々ですから二世帯住宅ですが、家の中ではドアひとつで自由に行き来できるようになっています。最初は鍵をつけるはずでしたが、兄嫁が『そんなの面倒じゃない』と言ってくれたので鍵はつけていません。兄夫婦のところは、子供も独立して夫婦ふたりだけですし、うちも私と妹で暮らしていますから、もう少し年をとったら、ヘルパーさんに来てもらって、ここをグループホームみたいにするのもいいね、と話しています。そういう家族だけの暮らしもありなのかと思っています」
【小さくしたポイント】
●建て替えは庭の木を中心に
●両親のものは専門家に引き取ってもらう
●処分するか迷ったら、トランクルームへ
●これから買うものは軽くて処分しやすいものを
●兄夫婦と鍵のない二世帯住宅で行き来自由に
教えてくれた人
俳優・エッセイスト 檀ふみ
東京都生まれ。父は檀一雄。映画、テレビドラマなどで活躍する一方、エッセイストとしても高い評価を受ける。主な著書に『父の縁側、私の書斎』(新潮社)がある。今年11月公開予定の映画『土を喰らう十二ヵ月』に出演。
取材・文/廉屋友美乃 イラスト/オオノマサフミ *写真はすべてご本人より提供。
※女性セブン2022年8月4日号
https://josei7.com/
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