離れて暮らす親の体調をスマホで確認できる便利グッズ2選 遠距離介護の注意点を専門家が指南
親の介護は突如として、現実になる。とはいえ、遠く離れて住む老親のもとに通い続けるわけにはいかない。しかし、最近では離れていても親と密につながることが可能な時代に突入した。いざというとき知っていると便利な最新アイテムと、活用するときの注意ポイントを専門家に聞いた。
親の体調を共有できるスマホアプリ
心拍数や血中酸素の割合など、人間の体調はいくつかの数値で測ることができる。離れて暮らす親の体調データを子が共有できるのが、スマホアプリ「Hachi(ハチ)」。
アプリをスマホにインストールして親が手首につけるApple Watchと連動させると、時計装着者の心拍数や心拍変動、歩数、血中酸素の割合の数値が定時に1日2回メールで配信され、親の健康状態を数値データで知ることができる。
万が一の事態に備えた「SOS」機能も目玉のひとつ。アプリ開発元のAP TECHの松本侑子さんが語る。
「利用者が急に具合が悪くなった際、Apple Watchのアプリ画面を5秒以上押すと、登録先にSOSが自動的に配信されます。家族がSOSを受信したらすぐ利用者に電話すると状況確認ができ、危機を救うことにつながります。特に持病を持つかたにとっては備えになる機能です」
母親のために開発 高齢者でも簡単に操作できる
このアプリは同社社長の大西一朗さんの実体験から生まれた。大西さんの母親は岩手県の雪深い地域に暮らしていた。
海外や東京暮らしの長かった大西さんは離れて暮らす母親を気にかけていたが、白内障で目の悪い母はデジタル機器が苦手で、カメラや民間の見守りサービスを拒んだ。母親が何日も電話に出ないため隣人に見に行ってもらうと、床に倒れていたこともあった。そこで母親のために開発を進めたのがハチだった。
「母親でも利用できる、これまでにない見守りシステムが必要と考えてハチの開発に乗り出しました。高齢者でも簡単に使え、SOS機能があるのはそうした思いの表れ。待ち受け画面に表示される犬のハチも親しみやすいとシニア世代に好評です。SOS発信機能のほかに動いていないのに心拍数が急に上がるなど、バイタルの異常値に反応する通知やお出かけ検知機能もあります」(松本さん)
◆スマホアプリ「Hachi(ハチ)」
離れていても、親の健康情報がわかって安心なスマホアプリ「Hachi」。月額858円。
就寝中の異変をスマホに通知するシート状センサー
就寝から起床時までのデータを測定できる機器も登場した。パラマウントベッドの「眠りSCAN」だ。
薄型のシート状のセンサーで、床板とマットレスの間に敷くと寝ている人の心拍数と呼吸数をリアルタイムで表示する。また、呼吸数や心拍数が「しきい値」を超えると、連動するスマホやパソコンに通知される。
パラマウントベッド経営企画本部広報部次長の鈴木了平さんが語る。
「現在の利用者は病院や介護施設の入院・入所者がメインで、利用者の睡眠状態を確認しておむつの交換をしたり、睡眠記録をドクターの診察時の補助資料として用いています。日々蓄積されるデータは利用者の健康状態を観察する目安にもなります」
現在は病院・施設向けが中心だが、個人向けの商品もある。今後、在宅介護の分野で普及すれば、遠隔介護でも利用者の健康状態を把握するために更なる利用が見込まれる。
◆「眠りSCAN」
「眠りSCAN」はマットの下に敷くことで、呼吸数や心拍数など睡眠状態を測定できる。オープン価格で約10万円から。
便利グッズは使う前に同意を「親の気持ちを大切に」
遠隔カメラにスマートリモコン、ロボットにアプリ…。ここまで便利な世の中になったことに驚いた人もいるかもしれないが、介護は人間が相手ということも忘れてはならない。そう話すのは、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん
「いくら便利なアイテムがあっても、大事なのは親の気持ちです。子供がよかれと思ってアイテムを導入しようとしても、“心配されるほど弱っていない”と親が反発するケースがあります。“親が嫌がるから、内緒で取り付けよう”という子供もいますが親子間にもプライバシーがあることを忘れてはいけません。
遠隔介護を始めるなら、親子できちんと話し合って親の同意を得ることが大事で、そのためには“お父さん、お母さんのことが心配なんだ”と素直な気持ちで語りかけてほしい」
ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さんが語る。
「離れて住む親の介護をひとりで担うことは難しい。かといって遠隔アイテムを過信することは危険です。遠隔介護を無理なく進めるには、親のコミュニティーを尊重すること。なじみの人間関係や場所を聞き取り、頼ってみるのもポイント。帰省時は近所にあいさつ回りをかねて近況の聞き取りはしたいもの。近くの地域包括支援センターも気軽に訪ねてほしい」
親に介護が必要になる前に、どう介護するかシミュレーションしておくことも大切だ。
「地域の人々と協力し、さらに便利な道具を組み合わせることが、遠隔介護を成功させる秘訣でしょう」(高室さん)
せっかく便利になった世の中だからこそ、人と制度と技術を上手に組み合わせて、後悔しない介護をめざしたい。
教えてくれた人
松本侑子さん/AP TECH、鈴木了平さん/パラマウントベッド 経営企画本部広報部次長、太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト、高室成幸さん/ケアタウン総合研究所代表
文/池田道大 取材/進藤大郎、村上力、三好洋輝
※女性セブン2022年6月23日号
https://josei7.com/
●注目の「遠隔介護」最新ツールで親の命を救った実例に学ぶ今どきの介護と見守り術