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認知症の母が息子の名を呼ぶ姿が最新の見守りカメラに!切なさを超えて安堵した理由

 岩手でひとり暮らしをする認知症の母を東京から通いで介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。遠距離介護に長年活用してきたのが見守りカメラだ。新たな見守りカメラを導入したら、息子の名前を呼ぶ母の切ない映像が映っていた。切ない気持ちになっても、見守りカメラを使い続ける理由とは。最新の見守りカメラの活用法も合わせて学びたい。

最新の見守りカメラが捉えた認知症の母の姿

 母が倒れてもすぐに駆けつけられない、いつもの生活の様子が分からないなど遠距離介護の不安を解消するために、介護が始まった1年後には母の同意を得て見守りカメラを導入しました。

 あれから9年が経過した現在の見守りカメラは進化していて、東京に居ながらにして岩手の実家の様子が手に取るように分かります。不安が解消された一方で、見る必要のないものまで見えるようになったのです。

いるはずのない息子を探す母の映像

母:「ひろ~、ちょっと。いないの~」

 実家の2階のわたしの部屋に向かって、階段下から母が叫んでいる見守りカメラの映像を見つけました。その映像をわたしは東京で確認したので、岩手にはいません。誰もいない部屋に向かって、母は叫んでいたのです。

 母は、忘れてしまったその日の予定を知りたかったのかもしれません。デイサービスに着て行く服はどれがいいか、息子に選んで欲しかったのかもしれません。あるいは、居間にあるテレビの電源の切り方を忘れてしまったのかもしれません。

 息子に何の用があったのかまでは分からなかったのですが、最終的には諦めて居間に戻っていく母の姿が映像に残っていました。

 母は、どういう気持ちだったのでしょう? 息子はぐっすり寝ているから、返事がないと思ったのか? それとも息子が東京に居ることを思い出してくれたのか? 答えは分からないのですが、カメラに映っていた母の後ろ姿はどこか寂しそうでした。

 実はこの場所に見守りカメラを設置したのは2年前で、玄関の来客者を把握するためのものです。最新の見守りカメラは母を検知して、自動でカメラの向きを母の動きに合わせて録画してくれるので、本来の目的とは違う形で映り込んでいました。

 まさかこんな切ない映像が残っているとは思いもしませんでしたが、母はわたしが岩手に居ると思い込んでいることだけは、しっかり分かりました。

見守りカメラが介護で役に立つシーン

 この見守りカメラは、デイサービスに行く日ではないのに準備をしてしまう母の様子や、デイサービスの送迎車が来る2時間も前から外で待とうとする母の様子も映し出します。

 カメラの映像をリアルタイムで確認するのがわたしの朝の日課になっていて、母が間違っていたらすかさず東京から岩手に電話をします。

わたし:「もしもし。今日はデイサービスの日じゃないからね」

母:「あら、そうなの。そういえばあんた今、どこから電話しているの?」

わたし:「東京」

母:「あら、2階にいるんじゃなかったの?」

 母との電話のやりとりからも、わたしが東京に居るのか、実家の2階に住んでいるのか、混乱しているようです。わたしが実家の2階に住んで居たのは高校3年までなので、母の頭の中では30年前のイメージのままなのかもしれません。

 もし見守りカメラを設置していなかったら、母は外で来るはずのない送迎車を待ち続けて夏場なら熱中症になるかもしれません。カメラで見守っているので、そういう事態にはなっていません。

 先日は足を引きずって歩く母の映像を見つけ、連続録画されている映像をさかのぼって確認したところ、玄関先で転倒した母の姿を見つけました。岩手に居る妹にお願いして、すぐ病院に連れていったところ捻挫でした。

 見守りカメラは単なる見守りの枠を超え、もはや母の命を守るための大切なツールになっています。東京と岩手は直線距離で500kmほど離れていますが、母を近くで見守っている感覚です。

切なさを超えてホッとする映像

 いないはずのわたしを呼ぶ母の姿を、見守りカメラの映像で確認する機会が増えてきました。それだけ認知症の症状が進行しているということでしょう。

 最初は映像を見るたびに切なさが込み上げてきましたが、今はホッとするようになりました。というのも、映像から息子の存在を忘れていないことだけは分かるからです。

 実家で一緒に居るとき、母はわたしの顔を見て「あんた、誰だっけ?」という日もあります。わたしの顔は認識できていても、名前が出てこないこともあります。そんな状態なので、いつか息子のわたしを忘れる日は、そう遠くない未来にやってくると思っています。

 しかし今はまだ、見守りカメラの映像を見る限りでは息子の名前をしっかり呼んでいますし、息子を頼りにしようとする姿もちゃんと映っています。切なさ以上に、母の記憶からわたしが消えていないことにホッとしています。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(78歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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