離れて暮らす親の認知症が不安…コロナ禍の新しい介護様式とは
離れて暮らす認知症の母親を介護している作家でブロガーの工藤広伸さんの新著『親が認知症!? 離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』が発売された。コロナ禍で介護をする人、親の介護を控える30代40代にも役立つ実用書だという。認知症介護が始まる前に読むべき新しい介護様式とは――執筆の背景を聞いた。
近くても遠くても…離れて暮らす親の介護本
「『離れて暮らす親の介護』というと、わたしのように東京と岩手、地方への遠距離介護をイメージされがちですが、それこそスープの冷めない距離、親が近所に住んでいる人にも役立つ情報を盛り込みました。
コロナ時代で離れて暮らす親となかなか会えない、遠距離の移動が難しい…。そんな時代だからこそ、親の認知症や見守りについて知っておくといいと思うんです」
介護ポストセブンの人気連載でもおなじみの工藤広伸さん。2012年から東京・岩手を往復し、離れて暮らす認知症の母の介護を実践している。そのノウハウが凝縮された新著『親が認知症!? 離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)が発売された。
工藤さんいわく「離れて暮らす親の介護の“超実用書”」だという中身は、見開きごとに表やチェックリストがついていて、認知症かもしれないと心配な親の状況や介護で今やるべきことがひと目でパッとわかる構成だ。
認知症介護を控えた団塊ジュニアも必読
40代中盤から50代にさしかかる団塊ジュニアたちは、親も高齢になり「そろそろ介護がはじまるかも…」という不安を抱えている人も多いだろう。
そんな介護が現実に差し迫る世代の人には、認知症の予兆を早めに察知するのが大事だと、工藤さんは語る。
「離れて暮らす親は、たまにしか会わない子供の前では取り繕ってしまうことも。子供とはいえ、客人のような緊張感があるんですね。
本当は認知症の兆候があるのに、たまにしか会わない子供の前では、しゃんとしてしっかり話すため、子供もまだ大丈夫だろうと過信してしまう。だから、帰省したときに家の中を観察してみると、親の認知症の兆候がわかることがあるんです」
まずは、1章の認知症のチェックリストに従って親の生活環境を観察して認知症の予兆を早めに察知。そして、MCI(軽度認知障害)の段階で気がつけば、認知症の発症や進行を遅らせたりすることもできると、本書は展開していく。
「親の認知症が心配な人は、ぜひ親の家に行くときにこの本を持って行って、認知症の予兆のチェックをしてみてください。リストを見ながらいまの親の状況を確認できるようになっています。
そして、家に帰ってきたら2章を読んで介護保険など具体的な手続きやサービスのことを知っておく。そんな風に使ってもらえたらいいと思っています」
認知症の別居介護メリット・デメリット
「実はわたしも遠距離介護を始めた当初は、親をふるさとに置き去りにしているというような罪悪感もありました。しかし、ある認知症の本を読んだとき、「そうそう、これだ!」って腑に落ちたんです」
3章「離れて暮らす親と気持ちよく過ごすための心得」の冒頭にはこう書かれている。
《親と離れて介護することは親にとってもメリットがあります。
精神科医の高橋幸男氏は「一人暮らしの認知症の人は、家族と暮らしている人より、BPSD(行動・心理症状)が軽い印象がある。興奮や暴力は少ないし、介護拒否も多くない」と述べています》
「わたしは、高橋さんの本を読んだとき、離れて親を介護することは間違っていない、そう実感できたんです。
かつて、嫁が義親を介護すべき、高齢の親とは同居すべき…たくさんの「べき」がありました。
離れて親を介護している人って、罪悪感と戦っているんですよ。もっと一緒にいてあげられたらいいのに、たくさんの人にお世話になって申し訳ないという思いを抱えています。
しかし、親は自分の介護で子供が犠牲になっている姿を望んでいるかっていうとそうじゃないんですよね。子供には幸せに過ごしてほしいって思っているはずですから。
親と子が別々の家で暮らしながら、それぞれの生活を保ったまま介護するほうが、双方ストレスもなくなるし、メリットがあるとわたしは考えています。
コロナ禍の自粛期間に家族間の距離が近くなって、折り合いがつかなくなってしまったからかDVが問題になりました。親と子、介護でも同じことが言えると思うんです。
同居で介護している親子は、距離が近すぎるゆえのストレスを抱えてしまうんですね。
この本は、同居で介護している人にも読んで欲しい。どうしたら距離を置いて介護できるのかという視点で読んでもらえると思います」
コロナの今こそ見守りツールが活躍
最近、工藤さんのブログにコメントが多く寄せられたのが、母の住む実家に設置している“見守りカメラ”について書かれた記事だったという。
「見守りカメラで盛岡にいる母の様子を東京にいても遠隔的に見られるようにしていますが、この本の5章ではそういったIT機器や家電など実用的なツールの解説もしています。
移動の自粛によるオンライン帰省をはじめ、介護施設の親と面会できなくなった人たちがタブレット端末で親と話すといった機会が増えてきて、見守りカメラの抵抗がなくなってきているのかもしれませんね」
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「認知症の親を自分が支えている」「介護で自分の人生を犠牲にしている」
そういった考え方に工藤さんは意義を唱える。
「介護をしていたって、自分の人生を楽しみたいじゃないですか。自分の生活がしっかりあったうえで、親の介護もやっておきたい。その両立のためにこの本を書きました。
便利なものは使って、頼れる人には頼って、そしてこの実用書を読んで、“しれっと”気楽に介護を続けてほしいと思っています」
取材・文/介護ポストセブン編集部
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