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暮らし

注目の「遠隔介護」最新ツールで親の命を救った実例に学ぶ今どきの介護と見守り術

 年をとると、病気はもちろん、ある日突然、骨折したり、認知症の兆候を見せることだってある。親の介護は突如として、現実になるのだ。とはいえ、遠く離れて住む老親のもとに、お金や時間をかけて通い続けるわけにはいかない。しかし、離れていても親と密につながることが可能な時代に突入した。いざというときのために知っておきたい最新の介護と見守り術を、専門家の実体験とともにご紹介する。

「見守りカメラ」が離れて住む母を救ってくれた 

 梅雨が明け、うだるような暑さだった昨年7月のある日、都内在住の林美香さん(55才・仮名)は、スマートフォンを握りしめながら不安を抑えられなかった。

 いつもは決まった時間にスマホの画面に映るはずの母親(88才)の姿が、どこにも見当たらなかったのだ。慌てた林さんは母が住む愛媛県の実家近くの知人に電話し、実家の様子を見に行ってもらった。駆けつけた知人が発見したのは、居間でうずくまっている母親だった。知人の呼んだ救急車で病院に搬送された母親は、かろうじて一命を取り留めた。

 林さんが安堵の表情を浮かべて振り返る。「母は熱中症と診断され、もう1~2時間発見が遅れたら命にかかわったそうです。念のため一晩だけ入院しましたが、大事には至らずホッとしました」

 林さんの母親を救ったのは「見守りカメラ」だった。

「父の死後、ひとり暮らしする母を遠距離介護するために見守りカメラを取り付け、母の様子をモニタリングしていたんです。おかげですぐに異変を察知でき、危機を逃れることができました」(林さん)

「遠隔介護」が注目されてる

 ひとつ屋根の下に何世帯も住んでいた昔と違い、核家族化が一般的になった現在は、林さんのように、地方に住む老親と離れて暮らす人が多い。さらに近年は新型コロナウイルスの発生により、老親を頻繁に訪ねることが難しくなった。

 介護作家でブロガーの工藤広伸さんが言う。

「私は10年前から母の住む岩手県盛岡市と東京を往復して遠距離介護をしていますが、新型コロナで東京から地方に帰りづらくなりました。実際に遠距離介護をする人から“都会からの人の出入りが制限され、故郷に帰れない”との相談が増えています。新型コロナにより、都会と地方を行き来するのが本人と親だけでなく、地域社会にとっても大きなリスクになってしまいました」

→工藤広伸さんの連載一覧

 一方で介護を担う人材不足が進行中だ。厚生労働省によると、団塊世代がすべて75才以上になる2025年には、約38万人の介護人材が不足するとされる。老親と離れて暮らす人が新型コロナで帰郷できず、地域で介護を担う人材が不足するなか、注目されるのが遠距離介護ならぬ、「遠隔介護」だ。  

 現在、インターネットなど科学技術の進歩により、介護を受ける親の居場所の確認はもちろん、体調や服薬の管理、住環境の整備まで、遠くに暮らす子供がリアルタイムで把握できるようになった。そうした遠隔介護を可能にするアイテムも続々登場している。

 介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが語る。

「高齢化と核家族化の進行により、離れて暮らす親の介護がますます必要になる半面、新型コロナで対面しづらくなる状況は今後も続くと予想されます。だからこそ、遠隔介護や遠隔見守りを可能にするツールの需要が高まっています

 離れて暮らすからと、老親の介護を諦めることはない。進化した遠隔介護と遠隔見守りを活用すればいいのだ。

見守りサービスには心配な点もある

 茨城県に住む田代佳代さん(48才・仮名)は、福島に住む父(78才)と母(80才)の様子を見るため、年に数回は帰省していた。しかし新型コロナで帰郷が難しくなり、セキュリティー会社が提供する「見守りプラン」の利用を検討し始めた。だが、そのことを両親に告げると猛反対された。

「知らない人に家のことを知られるのがイヤだし、合鍵を渡すのも不安ということでした。民間業者に頼むと費用がかさむこともあり、見守りプランを利用することは断念しました」(田代さん)

 いまはセキュリティー会社などが見守りサービスを提供するが、心配な点もある。

「民間企業が提供する訪問や電話などの見回りサービスは割高になりやすく、継続的に利用すると出費がかさみます。また郵便局やガス会社などによる見回りもありますが、認知症などの知識がない人が見回りをしてどこまで細かな異変に気づくことができるのか不安が残ります。ちょっとした異変に気づけるのはやはり家族なので、できるだけ家族の目に触れるサービスを利用したい」(工藤さん・以下同)

介護作家・工藤広伸さんは「見守りカメラ」を活用

 工藤さんが実際に母親の遠距離介護に取り入れているのは、「見守りカメラ」だ。実家の居間や台所、寝室に遠隔カメラを設置し、専用アプリをインストールしたスマホやパソコンで常時、母親の様子をモニタリングする。うち2台のカメラは映像を自動的に録画し、後から遡って映像を確認できる。

「まだ元気な親なら電話連絡などですみますが、認知症が進行したウチの母は要介護3です。その状態で遠距離介護をするなら、きちんと見守る必要があります」

 遠隔見守りによって老親の命が救われたケースもある。先日、工藤さんがいつものように遠隔カメラの映像をチェックしていると、母親の歩き方がいつもと違うことに気がついた。

「母が股に手を当てながら歩いていて、最初はおしっこを漏らしたのかと思いました。あまりに普段と違うので岩手に住む妹に映像データを送り、“15時10分の映像を見てみてよ”と頼みました」

 映像を見た妹は兄と同じく異変に気づき、慌てて実家を訪れた。母親は足を引きずっていたので、念のために病院に連れていくと、前日に玄関で転倒して足を捻挫していたことがわかった。

「明らかに様子がおかしいのに母は自分ではわからない。だから連絡してこないんです。結局は軽い捻挫で病院に連れていきましたが、もっと大きなけがだったら大事になっていたかもしれません。常にカメラで見守る習慣があったからこそ、日常の些細なけがや異変に気づくことができました」

 工藤さんの体験談を聞き、遠距離介護に遠隔カメラを取り入れた人から、「88才の母が自宅で倒れたとき、すぐに気づくことができた」とお礼を言われたこともあるという。

工藤さんおすすめ「スマートリモコン」

 そのほかに工藤さんが「遠距離介護に欠かせないツール」と断言するのが、「スマートリモコン」だ。

 専用アプリを通じて、エアコンやテレビといった赤外線リモコンを利用した家電の操作ができるツールで、工藤さんはNature社の「Nature Remo3」を愛用する。

◆スマートリモコン「Nature Remo 3」

 スマホアプリを使って、家電を遠隔操作することができる。同シリーズ7980円から。

「母は認知症で、エアコンの冷房と暖房のボタンをよく間違えるんです。スマートリモコンを利用すれば、東京にいながら盛岡の実家のエアコンを操作して部屋の温度や湿度を調整でき、室温が25℃を超えたら冷房を入れるなどの『オートメーション』も簡単にできます。これから夏になりますが、認知症で適切な温度調整ができないと熱中症になる恐れがあります。エアコンを遠隔操作するスマートリモコンはますます手放せません」

◆スピーカーと連携すれば音声操作も可能

 アマゾンやグーグルなどのスマートスピーカーと連携し、「アレクサ、テレビをつけて」「オッケーグーグル、部屋の照明を消して」など、音声による操作もできる。スマートリモコン「Nature Remo」は、4モデルが販売中で、価格は機能によって異なり、7980~1万2980円。Nature社の創業者・塩出晴海さんが語る。

「もともとはエアコンなどの電力消費を抑えるため、家電を遠隔操作できるリモコンを作ろうと開発を始めました。発売当初から介護向けの強いニーズを感じていて、“高齢の親が住む部屋の室温を外から調整できるのがありがたい”などの声をいただいています。年齢や病気のため体が動かしづらくなった人でも、スマホやスマートスピーカーを利用して自分の力で家電を操作できることに感動したという声もあります」

教えてくれた人

工藤広伸さん/介護作家・ブロガー、太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト、塩出晴海さん/Nature社・創業者

文/池田道大 取材/進藤大郎、村上力、三好洋輝

※女性セブン2022年6月23日号
https://josei7.com/

●岩手でひとり暮らしする認知症の母の認定調査を東京からLIVEで見守った息子の話

●認知症の母が暮らす極寒の岩手で悲鳴…冬の介護に必要なものとは?

●福祉用具を使うときの注意ポイント6つ「介護する人が自ら試してみることが大切」

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